第三章・レベリング

仲間と合流

 ロランの才能は恐ろ……いや、素晴らしかった。

 最初のゴブリンこそ緊張していたが、すぐに慣れた。恐怖はそのままに、心と身体をコントロールして魔獣を切り倒していく。


「輝け、光の礫、シャインニードル!!」


 ロランの光魔法だ。

 光の針が何本も飛び、コボルトという人型の狂犬を串刺しにいていく。

 

「輝け、大いなる閃光、フラッシュ!!」


 ロランの掌から小さな球体が飛び、コボルトの集団近くで破裂。ダメージを与えるのではなく、眩しい光によって目を潰す魔法だ。

 コボルトたちは目を押さえ、慌てふためき同士討ちまで始めた。


「───っ!!」


 ロランは背中に収納している二刀の短剣を抜き、混乱しているコボルトたちに斬りこむ。

 正確に、一撃で首を刈り取り、五匹以上いたコボルトはあっという間に全滅した。

 

「はぁ、はぁ───」

「よくやった、ロラン」

「お師匠さま!! あ、ありがとうございます!!」


 俺は刀を収め、ロランの頭を撫でる。

 事の発端。街道沿いに現れたコボルトの集団を俺とロランで掃除していた。

 コボルトは群れで生活し、数も多かった。だが単体の強さは大したことがないので、俺とロランで分担して倒したのだ。

 俺は群れのリーダーであるコボルトキャプテンを相手にし、ロランは残り全てのコボルトをたった一人で相手にした。光魔法を上手く使った攪乱は大成功……というか、ゴブリンとの戦いから半日も経過していないのに、かなり強くなっていた。


「あ、お師匠さま。新しいスキルを得ました。詠唱破棄です」

「ぶふっ……そ、そうか。ごほっごほっ」

「だ、大丈夫ですか?」

「あ、ああ。ちょっとむせただけ」


 詠唱破棄……おいおい、魔法に集中しないと習得できないんじゃなかったのか? こんなにあっさり詠唱破棄を得るとは、ドロシー先生が知ったら腰抜かすぞ。

 当然だが、ロランだけではなく俺も強くなっていた。この辺りに出る魔獣はなかなかの強さで、けっこうなレベル上げができる。

 さて、ステータスを確認しておくか。


〇赤の勇者クレス レベル18

《スキル》

赤魔法 レベル9

剣技 レベル19

詠唱破棄 レベル3

格闘技 レベル6

短剣技 レベル8

弓技 レベル2

槍技 レベル10

斧技 レベル2

投擲技 レベル8

大剣技 レベル2

双剣技 レベル9

抜刀技 レベル3

馬術 レベル3

奴隷紋 レベル1

馬上技 レベル1


 お、槍技がレベル10になっている。

 ん……来た来た。すごい技がひらめいたぞ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 槍技

・二連突き ・旋風 ・槍投げ ・四連突き 


 奥義

・乱れ突き

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 乱れ突きか。

 その名の通り、突きまくる技だ。今のコボルトキャプテンのトドメを槍で刺したからなのか。

 ロランはどんどん強くなるが、俺だって負けていられない。師匠と呼ばれるからにはロランに負けない強さを手に入れなければ。

 黄金の勇者として魔王と戦ってもらうが、魔王軍幹部の三人……せめて、一人くらいは俺の手で倒したい。ロランにばかり負担を強いるのはよくないからな。

 

「お師匠さま、私のステータスを見てもらえますか?」

「お、いいぞ。でも、忘れるな。他人にステータスを見せるのはあまりよろしくない。それと、他人のステータスを知りたがるのも駄目だぞ」

「はい。でも、お師匠さまなら……わ、私の全て、見せちゃいます」

「はは、ありがとな」


 ロランの頭を撫で、その目を覗き込む。



〇ロラン レベル6

《スキル》

奴隷印 レベル1

剣技 レベル7

槍技 レベル3

双剣技 レベル4

短剣技 レベル4

弓技 レベル2

投擲技 レベル7

聖魔法 レベル3

光魔法 レベル4

馬術 レベル1

馬上技 レベル1

詠唱破棄 レベル1


 うん。強くなってる……でも、俺と同じでスキルの習得が多くて総合レベルが上がりにくくなってるな。

 かといって、覚えたスキルを消すことはできない。それに、本来ならスキルの習得にはけっこうな時間がかかるのだ。俺やロランが特別であって、普通はこうはならない。


「お師匠さま、どうですか?」

「うん。最初の緊張が噓みたいに身体が軽くなってるぞ。その調子で頼む」

「はい!! お師匠さま」


 ロランはビシッと頭を下げる。

 信頼関係は構築できたが……俺は肝心なことを忘れていた。

 

「……マッケンジーたちに何て説明すっかな」


 リブロ王国へ行った理由が『生き別れた弟を探すため』だった。でも、ロランは女の子で、誰がどう見ても美少女だ……聡明なマッケンジーへの言い訳が難しい。

 それか、思い切って『弟じゃなくて妹だった。あはは、悪い悪い』みたいなノリで謝ろうかな……いや、かなり無理があるな。

 本来、勇者三人でドラゴンの渓谷へ向かい、道中の魔獣を連携して倒しチームワークを深めるというプランがマッケンジーにあったはず。それを台無しにし、さらにロランという美少女を連れて戻るんだ……正直に言うべきだろうか。


「お師匠さま?」


 思考が長かったせいか、ロランが首を傾げて俺を見る。

 やはり、マッケンジーに打ち明けるべきか。

 転生、曽山光一、二度目の人生、クレス……信じてもらえるか。いや、マッケンジーのことだ、理論的にあり得ないと切り捨てるかもしれない。

 やはり、謝りつつ誤魔化すしかないな。


「いや、なんでもない……行こう」

「はい!!」


 ドラゴンの渓谷までもう少し。

 今は、ロランに戦闘慣れしてもらって、黄金の勇者として覚醒してもらおう。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 ドラゴンの渓谷。

 そこは、霧に包まれた巨大な渓谷。

 その名の通り、この世界で最も強大な力を持つドラゴンが住まう地。

 最近、ドラゴンが増えすぎたためパンデミック状態になっているらしく、数を減らすためにドラゴン同士が戦い、共食いが起きているのだとか。

 そんな渓谷から少し離れた岩石地帯に、俺とロランはいた。


「ここが約束の場所だ。ここの岩場は複雑な形状になっていて、狭い場所を嫌うドラゴンは近づかないらしい」

「へぇ~……確かに、岩だらけで狭いですね」

「ああ。地図を見るとこの辺りのはず……」


 マッケンジーからもらった地図は細かい地形まで描かれており、ランデブーポイントの位置も詳しく書かれていた。

 すると、ロランがぴくっと反応する。


「お師匠さま、何かいます……」

「…………ああ、気を付けろ」


 俺もわかった。何かいる……。

 背中の短剣を二刀抜くと、ロランも同じように短剣を抜く。狭い岩場だと剣を振り回すのは得策ではない。ふふ、わかってきたじゃないか。

 

「ロラン、馬を守れ。俺は周囲を警戒する」

「はい!!」


 探れ、気配を読め、呼吸音、衣擦れ、足音、心音、何かがいるなら痕跡がある。

 集中しろ。ロランと馬を守るため集中しろ。


〇赤の勇者クレス レベル18

《スキル》

赤魔法 レベル9

剣技 レベル19

詠唱破棄 レベル3

格闘技 レベル6

短剣技 レベル8

弓技 レベル2

槍技 レベル10

斧技 レベル2

投擲技 レベル8

大剣技 レベル2

双剣技 レベル9

抜刀技 レベル3

馬術 レベル3

奴隷紋 レベル1

馬上技 レベル1

気配探知 レベル1



 新しいスキルを得た……気配探知だ。

 ちょうどいい。気配探知……周辺を探れ。

 感覚が鋭くなっていく。ロランの心音、呼吸音、馬の呼吸音がよく聞こえる。

 岩場、石の触れ合う音……いる。近い。


「───そこか!!」


 俺は片方の短剣を軽く上に放り、投擲用ナイフを掴んで岩と岩の隙間に投げた。

 遅れてロランが反応した頃にはもう遅い。俺は投げた短剣を掴み走り出す。

 

「くっ」


 ナイフが命中したのか、男の声が聞こえた。

 どこに命中したのか知らないが、隙が生まれたことは確かだ。

 俺は岩と岩の隙間───いや、地下に進む洞穴みたいな場所だ。岩の隙間から下に降りれるような斜面がある。そこに人がいる。

 いた。男だ。ナイフは叩き落したのか。後ろを向いている。でも関係ない。

 俺は男の肩を掴み、そのまま地面に倒す───え?


「……ま、マッケンジー?」

「やぁ……ずいぶんな挨拶じゃないか」

「あ……ご、ごめんっ!!」


 俺はマッケンジーに馬乗りになり、短剣を首に突き付けていた。

 慌てて離れ、マッケンジーを抱き起す。


「ははっ、情熱的だね……ま、そんなキミも嫌いじゃないよ」

「え」

「ふふ、冗談さ」


 な、なんかマッケンジーが……その、少しキモかった。

 立ち上がり、改めて謝罪した。


「申し訳なかった。自分の早とちりでとんでもないことを」

「いや、不審者かと思って観察していたボクも悪かった。キミだって気付いたけど、ちょっと悪戯してみたくなってね」

「そ、そうなのか……まぁ、うん」

「ふふ。ま、長旅ご苦労さま。弟には再会できたのかな?」

「…………」


 返答に困っていると、馬を連れたロランがやってきた。


「お師匠さま、大丈夫ですか!!」

「あ、ああ。その、仲間だった」

「…………どういうことかな? クレス」


 ロランを見て、マッケンジーは苦笑しながら俺を見た。

 わかってる。ちゃんと説明するって。

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