いざ、ドラゴンの渓谷に出発

 さて、ここでロランのスキルを確認だ。


〇ロラン レベル3

《スキル》

奴隷印 レベル1

剣技 レベル3

槍技 レベル1

双剣技 レベル1

短剣技 レベル1

弓技 レベル1

投擲技 レベル5

聖魔法 レベル1

光魔法 レベル1


 すごいな……出会って数日しか経過してないのにレベル3だぞ。

 スキルの習得率、経験値、そして戦いのセンス。全てがずば抜けている。ドワーフの店主も言ってたが、ロランには天性というものが備わっているらしい。

 当の本人はというと、焼肉を食べて満足したのかベッドでスヤスヤ眠っている。


 明日にはドラゴンの渓谷に向かって出発する。

 早馬で一日の距離だ。マッケンジーの定めた期限まであと二日あるし、ゆっくり急がず進んでいこう。

 それに、ロランに実戦経験を積ませるチャンスでもある。

 

「俺も鍛えないといけないし、明日はドラゴンの渓谷に向かいながら戦闘をしよう。ロランと一緒に俺も強くならないと……一応、師匠だしな」


 宿屋の窓際に座り、身体を丸めて猫のように眠るロランを眺める。

 13歳という年齢どおり、まだあどけなさが残っている。だが、顔立ちはしっかりとした女の子で、美少女の部類に入るだろう。金色のセミショートヘアがさらりと揺れる……歳を重ねれば女らしくなるな。

 きっといい結婚相手も見つかるし、魔王討伐すれば富も名声も入ってくる。将来は安泰だろう。


「俺は、お前を支えるよ。最後まで……」


 転生前のクレスの罪滅ぼしなんて言っても伝わらないだろう。

 だから、俺は勝手にやる。この子を立派にしよう。

 

「そのために、ドラゴンの渓谷でレベルを上げよう。強くなって、今度こそ……」


 魔王。

 黒騎士ヒルデガルド。

 猫少女天仙娘々テンセンニャンニャン

 吸血鬼ブラッドスキュラー。


 あの四人を完全に滅ぼし、この世界を救うんだ。

 それが、赤の勇者クレス。いや……曽山光一がこの世界で転生した理由なんだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 宿屋で朝食を食べ、ロランと一緒に馬の世話をした。

 木桶にニンジンや野菜をいっぱい入れて出し、水もたっぷり飲ませておく。

 ロランは、馬のブラッシングをみっちり行った。


『ブルル……』

「あはは。お師匠さま、この子気持ちいいみたいです」

「そうか。ロラン、好かれてるのかもな」

「そ、そうでしょうか? だったら嬉しいです!」


 馬を撫でるロラン。

 馬だけじゃない。俺にも完全に心を許しているように見えた。

 打算的なところもあったが、今は素直に嬉しい。


「よし、荷物を積んだら出発するぞ」

「はい。お師匠さまと同じ勇者さまが向かってる場所に行くんですね」

「ああ。ドラゴンの渓谷……ロラン、俺たち勇者はそこでレベル上げをする。お前にも参加しろと言いたいが無茶はするな。まず、一日かけて魔獣と戦いながら進み、明日にはマッケンジーたちと合流する」

「はい、お師匠さま」


 再度、確認のため説明した。

 焼肉を食べながら今後のことを話したが、忘れていないようだ。

 なんとなくだけど、ロランは戦っても大丈夫な気がした。でもレベル3だし前線での戦いはまださせない。最初は後衛で徐々に前線ってのがベストかな。

 レベル制度でゲームみたいだが、この世界でコンティニューはできない……まぁ俺の場合はコンティニューだけど。

 とにかく、慎重に行こう。


「よし、準備ができたら出発するぞ」

「はい!!」


 さぁて、レベル上げ開始だ!!


 ◇◇◇◇◇◇


 俺、ロラン、二人分の荷物と重量がかなり増えたが、馬は『こんなもんか? もっと重くてもいいんだぜ?』と言わんばかりにズンズン進んだ。

 馬に乗って進んだおかげで『馬術』レベルが3になり、馬に乗ったまま弓を射ったら『馬上技』のスキルも得た。試しにロランだけ馬に乗せて弓を射らせたら全く同じスキルを得た。

 馬上技。つまり馬に騎乗して戦う技か。戦国武将みたいだ。

 

「お師匠さま、いろんなこと知ってますね。勉強になります!」

「そ、そうかな?」


 馬上技は偶然だけどね。

 戦国武将のマネしたら偶然手に入ったなんて口が裂けても言えない。

 馬に乗って進むこと三十分……。


「ロラン……見ろ」

「……あっ」


 街道の真ん中で、ゴブリンたちがウルフを叩き殺していた。

 魔獣同士も殺し合いか……弱肉強食の世界を見た気がする。じゃなくて。


「ロラン、どう感じる?」

「……その、こ、怖いです」

「それでいい。戦場では恐怖を忘れた者から死んでいく。いいか、恐怖を忘れるな」

「は、はい」


 某漫画のセリフだ。かっこいいセリフと思っていたが、リアルにそう思う。

 恐怖を知らなければ無鉄砲に突っ込んでいく。そんな兵士はすぐに死んでしまうだろう。

 だから、慎重に行かねばならない。

 馬を茂みに隠し、そこから俺とロランは相手を分析する。


「まだ気付いていない。いいか、戦いに卑怯なんて言葉はない。不意打ちを狙えるなら積極的に狙っていけ。そして時間があるようなら観察するんだ。相手の武器、数、種族……情報はいくらでもある。さ、情報を分析しろ」

「はい……ゴブリン、数は3、武器は棍棒です。距離は約20メートル……ウルフへの攻撃に夢中で気付いていません」

「いいぞ。お前ならどうする?」

「え、えーっと……」

「よく周りを見ろ。ここは街道、身を隠す場所は殆どない」

「……不意打ちで1匹倒し、残りの2体と戦う」

「半分正解」

「え……」


 ロランの考えは間違っていないと思う。でも、重要なことが抜けていた。

 俺はロランをまっすぐ見ながら言う。


「ここにいるのは俺とお前だ。そして戦術を組み立てているのはお前……何か忘れてないか?」

「……あ」

「そう、俺を勘定に入れろ。使えるはなんでも使え」


 日本の漫画やゲームで得た知識、この世界で得た知識をロランに伝える。

 ロランはきっと、黄金の勇者として赤青緑の勇者を率いる存在になれる。師匠だからとか、勇者だからとか、そんな理由で視野を狭めてはいけない。


「わかりました……師匠、気付かれるギリギリまで接近。投擲技で一匹倒します。その後、残ったゴブリンを倒しますので……一匹よろしくお願いします」

「ああ、わかった」

「では……行きます!!」


 ロランが藪から飛び出し、投げナイフを一本抜く。

 こっそり背後から近付くのかと思ったら、気付かれるの上等で走った。これには驚いたが、ロランは目の前のゴブリンしか見えていない。

 三匹、横並びのゴブリンが気が付いた。


『ギャッ!?』『ギャギャッ』『ギャギャギャ!!』


 ゴブリンが気付いた。だが、距離は10メートルまで近づいている。

 ロランがナイフを投げると同時に剣を抜き、真ん中のゴブリンの頭部にナイフが命中。そのまま居合の要領で剣を抜き、右隣のゴブリンの首を斬り落とした。


「すげっ───」


 ほんの数秒だった。

 ロランの後ろにいた俺も、左隣にいたゴブリンを一刀両断する。

 ゴブリンに遭遇、そして戦闘は、たった数分で終わった。


「ロラン、よくやった……見事「は、はぁぁ~……」……え?」


 ロランはへたり込み、涙声で俺に言った。


「こ、怖かった……怖かったですぅ……」

「…………」


 初戦闘の恐怖で身体が竦んでしまったようだ……おいおい、今さらかよ。

 これで確信した。ロランはきっと強くなる。

 俺は剣を収め、ロランに手を差し出す。


「お、お師匠さま……わたし」

「最初はそれでいいさ。恐怖に慣れるんじゃなくて、恐怖を胸に抱いたまま強くなれ」

「は、はいぃ……う、うぇぇ」

「ほら泣くな。馬のところに戻って先に進むぞ」

「は、はい!! ひっぐ……」


 ロランは俺の手をガッチリつかみ、立ち上がった。

 まだまだ黄金の勇者には程遠いが……ロランの戦士としての道は、まだ始まったばかりだ。

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