魔法の習得
ロランと買い物をして、宿屋へ戻ってきた。
新しくカバンを買い、ロランにプレゼントした。革製の安いやつだが、ロランはとても喜んでくれた。こんな風に笑ってくれることが何よりもうれしい。
部屋に戻り、ロランは装備を全て外す。
「…………」
「どうした?」
ロランは、買ったばかりの装備をじーっと眺めていた。
まるで、おもちゃを買ってもらったばかりの子供みたいに見え、なんとなく俺も笑ってしまう。
「……私、こんな風に誰かに物を買ってもらったことがないので……うれしくて」
「はは。そうか。でも、道具は使ってナンボのモンだ。これからしっかり頼むぞ」
「はい!! お師匠さまの足を引っ張らないように頑張ります!!」
「うむ。なーんて、そんな堅苦しい感じじゃなくていいからさ」
「でも、お師匠さまですから。あの、なにかやることがあれば」
「んー……じゃあ」
夕飯まではまだ早いし、買い物で少し疲れてしまった。
のんびりしろと言いたいが、ロランはやる気に満ち溢れている。少し発散させたほうがいいかな。
「よし、ちょっと待ってろ」
俺は宿屋の受付に向かい、宿屋の裏庭を貸してもらうよう交渉した。ついでに、丸太を一本買い、丸太の中心を円形に削って立たせておく。
ロランを裏庭に呼び、丸太を指さしながら言った。
「投擲武器の訓練をしよう」
丸太の中心を狙いナイフを投げる訓練だ。
丸太の後ろは石壁になっているので危険もない。
丸太との距離は約5メートル。最初はこんなもんだ。
俺は、自分のベルトに収納している、三角錐のダガーナイフを一本取り投げる。すると、丸太の円の中心に刺さった。
「と、こんな感じだ」
「おぉ~!! さすがお師匠さまです!!」
うーん、だいぶ砕けて明るくなった。目がキラキラしてるよ。
俺の投擲技はレベル7、ロランはまだレベル1だ。
「投げ方は覚えてるか?」
「はい!! 力を抜き、的を意識しすぎないように、的ではなく狙う全体を見る……」
「よし。じゃあやってみろ。まずは5メートルから。10本投げて9本命中したら1メートル下がる。同じように繰り返して15メートルまで下がればクリアだ」
「じゅっ、じゅうご……お、お師匠さまは」
「当然、クリアしたぞ。心配するな、お前もできるさ」
「が……頑張りますっ!!」
ロランはさっそくダガーナイフ(俺とおそろい)を抜き、構える。
俺は少し距離を取り、気配を消した。ロランの集中を邪魔しない。
「───シッ!!」
綺麗なフォームだった。
俺の完コピとも言える投擲だ。ナイフはまっすぐ飛び、的のど真ん中に命中する。
「や、やった!! やりましたお師匠さま!!」
「お、おお……よし、そのまま集中。いいか、一発命中させたからって気を抜くな」
「はい!! お師匠さま!!」
ロランはナイフを抜き、再度投擲。これも命中した。
その後、ロランは次々とナイフを投擲、命中させた。
そして、ノーミスで10本命中させ、5メートルをクリア。これには驚いた。
「お師匠さま、全て命中しました」
「ああ、よくやった。これで5メートルはクリア。次は6メートルだ」
「はい。あ、レベルが上がりました。投擲技レベル2です!」
「そうか。よ、よし。じゃあ6メートルの距離でいこう」
「はい!!」
俺はなんとか平静を保つ。
嘘だろ? たった10回の投擲でレベルアップとは。俺ですらレベルを1上げるのに1日かかったんだぞ。スキルの習得こそ早かったが、レベルはなかなか上がらなかったのに。
不思議と、嫉妬などはなかった。
ロランは俺より強くなる。無限の可能性がある……そのことがうれしく、魔王討伐が現実味を帯びてきたと確信した。
ダガーナイフを投擲するロランを見ながら、ふと思った。
「そういえば、魔法って習得できるよな……」
ロランは、間違いなく魔法を習得できる。
不思議と、そんな未来が見えた気がした。
◇◇◇◇◇◇
魔法神殿。
大きな国とかには大抵あるそうだ。宿屋の主人に聞いたらやっぱりあった。
翌日。武器を引き取りに行った帰りに、魔法神殿に寄ることにした。ちなみにロランの投擲技はレベル5まで上がった……いやはや、才能って恐ろしいな。
魔法神殿の道を歩きながら、ロランに魔法の説明をする。
「まほう、ですか?」
「ああ。お前もきっと使えるはずだ。ちなみに俺も使えるぞ……ほれ」
俺は指先に小さな火球を作って見せると、ロランは目をキラキラさせた。
「わぁ……きれいです」
「そうか? ああ、街中じゃこれ以上は見せられないな。それより、お前も魔法を覚えられるぞ」
「まほう……私も火を出せるのでしょうか?」
「んー、火かどうかはわからないけど、お前に合った魔法が習得できるはずだ」
とんでもない結果にならないといいけどな。
一応、言っておくか。
「ロラン。魔法が習得できても、俺意外には言うな」
「え?」
「いいか。魔法が習得できる人間と、できない人間がいる。こればかりは才能だからどうしようもないけど……魔法が習得できない奴の隣で、お前が大きな声で喜んだらどう思う?」
「…………」
「そういうことだ。祈りを捧げて魔法を習得出来たら、すぐに神殿から出るぞ」
「あ、あの……お師匠さま。私、魔法を習得できなかったら……」
「できる」
「え……」
「自信を持て。いいか、お前なら絶対習得できる。絶対だ」
「は……はい!!」
ドロシー先生から教えてもらったことだが、魔法神殿には毎日多くの参拝者が来るらしい。一度の祈りで魔法を習得できなかった者が何度も通ったりすることもあるらしく、基本的に祈りを捧げるのは自由とのことだ。
もしスキルを習得できても、神殿に報告する義務などはない。
俺が恐れているのは、ロランの奴がとんでもないスキルを習得してしまう可能性があることだ。なので、スキルを習得しても何も言わず、神殿を離れることにした。
というわけで、やってきました魔法神殿。
「ここが魔法神殿か……大きいな」
「わ、ぁ……すごい」
外観はサグラダファミリアみたいだ。入口も横長に広く、何十何百人と出入りしている。何となく、観光スポットにもなっているような気がした。
神殿を見上げたまま硬直しているロランの頭をポンポン撫でる。
「ほら、あとでゆっくり見て回ろう。今は祈りを捧げるのが先だ」
「は、はい」
神殿内に入ると、なんともまぁ……すごかった。
まるで巨大な体育館みたいだ。壁には世界遺産みたいな絵が描かれ、神様みたいな彫刻がずらっと並び、室内を照らす巨大シャンデリアがキラキラ輝いている。入口の反対側の壁の上部がステンドグラスになっており、そこの下が祈りを捧げる場所になっているようだ。
祈りの場には、何十人もの人が祈りを捧げている。
若ければ若いほど魔法習得率が高いというが……おっさんが多かった。もちろん、少年少女も多い。
「あそこで祈りを捧げるんだ」
「はい。あの、祈りとはどうやって?」
「あー……『魔法ください!』みたいな祈りでいいんじゃないか?」
「わかりました」
「あと、魔法スキルを得ても騒ぐなよ?」
「はい。あの、お師匠さま……お願いが」
「ん?」
「私の隣で、一緒に祈ってもらえないでしょうか?」
「ああ、いいぞ」
魔法は習得しているけど、別にいいか。
俺とロランは祈りの場に向かう。そして、周りの人と同じように膝立ちになり、両手を組んで祈る。
「…………」
ここは、魔法神殿……魔法を習得するために祈る場所だ。
でも……俺は祈った。どうしてこうなったのかはわからない、思わないところがないわけでもない。それでも、二度目の機会をくれた神に祈らずはいられなかった。
転生させてくれて、ありがとうございます……と。
◇◇◇◇◇◇
祈りを終え、神殿の外へ出た。
俺とロランは無言のまま歩き、俺が質問した。
「どうだった?」
「はい。魔法スキルを習得しました」
「そうか。おめでとう」
「ありがとうございます、お師匠さま」
ロランはにっこり笑った。
騒ぐなという頼みを忠実に守っている。なので、俺はロランの頭を撫でてやった。
「あ……えへへ」
「じゃ、メシでも食うか。スキル習得の祝いに好きなの食べていいぞ。肉と魚どっちがいい?」
「え、えっと……じゃあ、お肉で」
「よし。焼肉でも食べるか」
目指すは焼き肉屋。確か、近くにあったな。
「そういえば、どんな魔法スキルを習得したんだ?」
「えっと、聖魔法と光魔法です。なんか二つ習得しちゃいました」
「…………」
どっちもレアスキルだよ……ドロシー先生が知ったら腰抜かすくらいのな。
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