ロランの装備。そして才能
翌日。朝食を食べた俺とロランは、腹ごなしに散歩をしつつ町の空気を感じた。
リブロ王国。かつて『黄の勇者』を輩出した王国だ。衰退していると聞いたが、見た感じそうは思わない。活気もあるし朝から露店のおっちゃんが客寄せしてる……正直やかましい。
ロランは、見るの全てが珍しいのかキョロキョロしていた。
「奴隷商館では外出とかしなかったのか?」
「はい。地下に運動のできる空間がありまして。体調管理と健康のために、三日に一度の運動時間が義務付けられています」
「すごいな……」
「商品価値のため、と教わりました。私がいた奴隷独房は『上級』という場所でしたので……ほかの奴隷より扱いが少しよかったみたいです」
「上級、ね」
「はい。理由は不明ですが……」
俺には簡単にわかった。
ロランは、かなりの美少女だった。
転生前のクレスは服や風呂にも入れず、髪も伸びっぱなしでほぼ放置していたからな。食事も残飯みたいなモノだったし、栄養状態が悪くてガリガリに痩せていたから、女の子だって気付かなかった。
どれだけ興味がなかったんだ……自分自身に怒りが湧く。
さて、怒りは置いとく。
とりあえず、ロランのことを聞くか。
「ロラン、奴隷商館で何か習ったり、得意なこととかあるか?」
「いえ……商館では運動と食事以外は何も。簡単な算術や字の書き方は習いました。その……」
「ん?」
「わ、私はその、『夜奴隷』として売られることを想定していたらしいので……」
「…………す、すまん」
つまり、エッチなことをするための奴隷だ。
俺が『戦闘奴隷』としてロランを買うとは奴隷商館側も思っていなかったようだ。
ロランは恥ずかしいのかうつむき、赤くなっている……くそ、俺まで恥ずかしいぞ。
「あー……そ、そうだ。武器屋だ、武器屋に行こう。ロランの装備を整えないとな!!」
本当はもうちょっとブラブラしてから行く予定だったけど、気まずかったので本来の目的地へ向かうことにした。
◇◇◇◇◇◇
気まずいままやってきた武器屋だが、中に入るとロランは興奮したように室内を見渡す。
「わぁ~……武器がいっぱい」
「武器屋だしな」
剣、槍、斧、短剣、モーニングスター、ナイフ。いろんな武器がこれでもかと並んでいる。
ロランの購入費用やその他諸々でお金があまりない。俺の武器の手入れとロランの装備、ドラゴンの渓谷に向かう準備もあるし、あまりお金はかけられないな。
「……らっしゃい」
店主は、愛想の悪そうなドワーフだ。
新聞片手に欠伸をして、昼前だというのに酒を飲んでいる。あまり真面目じゃないのかも。
俺とロランは店主に会釈し、武器を見ることにした。
「さてロラン。なにがいい?」
「え、えっと……」
ま、いきなり『どんな武器がお好き?』なんて聞いてわかるわけない。
とりあえず、無難なショートソードを一本掴む。
「いろいろ試してみよう。使いやすい、これだ!!ってやつがあったら教えてくれ」
「は、はい」
ロランはショートソードを手に持つ。
「わわ、けっこう軽いです」
「だろ? まず剣の握りだ。そんなに握りしめなくていい。軽く、すっぽ抜けない程度の力で」
「はい、クレス様」
「腰を入れて、前傾にならないように。うん、いい感じ」
「は、はい」
「ゆっくり腕を持ち上げて……振る」
「やぁ!!」
ピュン、と風を切る音がした。
初めてにしてはなかなか鋭い太刀筋だ。やはり才能がある。
何度か剣を振らせてみると……。
「どうだ?」
「はい!! 軽くて振りやすいです。それに、新しいスキルが手に入りました」
「そうかそうか……はい!?」
「わわっ!?」
「す、スキル!? うそ、マジで!?」
「は、はい……剣技のスキルです」
「うそ!?」
〇ロラン レベル1
《スキル》
奴隷印 レベル1
剣技 レベル1
ほ、ほんとだ。
たった数度剣を振っただけでレベル1かよ!? 俺よりも成長性高いぞ。
これが黄金の勇者……いや、ロランのステータスには『黄金の勇者』が表示されてない。パッシブスキルなのか、隠しスキルなのか? わからん。
でも、これはすごいことだ。
「……ほう」
ドワーフの店主が、メガネをクイッと上げてこっちを見ていた。
俺とロランが店主を見ると、新聞を畳む。
「続けな。久しぶりに面白い客が来やがった」
「は、はい。ロラン、次は槍にしてみるか」
「わ、わかりました」
ロランの身長よりやや長い槍を渡し、構えを指導して虚空を突く。
「やっ!!」
「よし、そのままもう一度!!」
「はっ!!」
何度か突きを繰り返すと……。
「あ、新しいスキルを得ました」
「お、おう。な? 言った通り、お前には才能があるんだよ」
「は、はい……私にこんな力が」
「よし。じゃあ次」
こうして、武器屋にあった武器を持たせて振らせた結果。
〇ロラン レベル1
《スキル》
奴隷印 レベル1
剣技 レベル1
槍技 レベル1
双剣技 レベル1
短剣技 レベル1
弓技 レベル1
投擲技 レベル1
けっこうなスキルを得た。
斧やモーニングスターなどは重量があったせいで持てなかったので断念。それを差し引いてもかなりの収穫だ。
さて、スキルを得たので武器を決める。
「ロラン、どの武器がしっくり来た?」
「え、えっと……」
「全部、だろ?」
「「え」」
ドワーフの店主さんがニヤニヤしながら言った。
「動きはズブの素人だが、とんでもねぇセンスをもってやがる。どの武器を持たせても超一流になる素質があるぜ。なぁお嬢ちゃんよ、正直に言いな」
「……その通りです。どの武器もしっくりきて……その、どれでもいいって言うわけじゃないんですけど、決めにくいというか」
ロランはモジモジしていた。どうも俺の質問にしっかり答えることができないのを恥じ、ドワーフの店主さんに指摘されたのが当たっていたからだ。
さすがに驚いた。まさか、全部しっくりくるなんて。
じゃ、決まりだな。
「じゃあ、剣と槍、短剣二本と投擲用ナイフ、短弓を予算内で見繕って下さい。お金はこれだけ」
「あいよ。久しぶりにいいモン見せてもらった礼だ。剣はミスリル製のやつをくれてやる」
「え、いいんですか?」
「ああ。ついでに、お前さんの装備もよこしな。手入れしてやる」
代金を支払い、ロランの武器を購入した。
腰にガンベルトみたいな革製のベルトを巻き、そこにミスリルソードを吊る。短剣は背中に交差させるようにサスペンダーで固定し、槍も一緒に固定した。
ついでに、防具も買った。予算がギリギリだったので、皮の胸当てと籠手とレガースだ。
けっこうな装備になったが……大丈夫か?
「ロラン、重くないか?」
「はい。すっごく軽いです。特にこの剣、重さを感じないくらい軽くて」
「ミスリル製だからな」
ミスリルは軽い。しかも強度は鋼の数十倍ある。その分値段も高いが……ドワーフの店主には感謝しなくちゃな。
「ほぉ、ヒヒイロカネか……立派なモンだ」
「ありがとうございます。あの、手入れにどのくらい」
「明日、取りに来な。ばっちり仕上げてやる」
「ありがとうございます。よろしくお願いします!」
「お、おう。ったく、最近の若いモンにしちゃ礼儀がなってやがる。近頃のガキは生意気なタメ語で依頼しやがるし、文句ばかり付けるのにな」
「あはは……」
まるで転生前のクレスだな。
ま、そんなことはいい。ロランの装備は決まった。
俺の装備が仕上がるのは明日。今日明日で旅支度を整えて、明後日にはドラゴンの渓谷に向かって出発するか。
「それとお嬢ちゃん。師匠からしっかり技術を学びな。お前さんはきっといい戦士になれるぜ」
「師匠……」
ドワーフの店主がそう言うと、ロランは俺をじーっと見た。なになに?
再度、礼を言って店をでると、日はすっかり高くなっていた。
「けっこう時間経ったな……お昼には少し早いけど、飯でも食うか?」
「は、はい。えっと……」
「ん?」
ロランはもごもごして、顔を赤くしながら言った。
「わ、わかりました……お、お師匠さま」
「え」
「……その、ダメでしょうか?」
「…………」
やばい。不覚にも……ロランが可愛いと思ってしまった。
「ははは。お師匠様か……俺も修行中だけど、俺に教えられることはなんでも教えてやる。改めて、これからよろしくな、ロラン」
「は、はい!! よろしくお願いします、お師匠さま!!」
「うし。じゃあメシだ。腹減ったしな」
「はい、お師匠さま!!」
こうして、俺とロランは師弟関係になった。
過去の過ちが消えたわけじゃないけど、今度はしっかりロランを導こう。
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