黄金の勇者?ロラン?

 俺は迷いつつも、ロランを購入した。

 買うしかなかった。女だろうと、この子は俺の知っている……転生前のクレスが購入した『ロラン』なのだから。

 お金はなんとかなった。あとは契約書にサインするだけかと思いきや。


「では、こちらにサインを。奴隷紋を刻みますので」

「……奴隷紋?」

「奴隷紋とは、主人と奴隷の契約の証でございます。この紋を刻むことで主人の命令には絶対服従。逆らうと強力な痛みが全身を襲います」

「……必要ない」

「規則ですので」


 奴隷商人が羊皮紙を俺に渡し、別の羊皮紙をロランに持たせる。

 すると、羊皮紙が一瞬で燃え、俺とロランの手の甲に妙な痣が浮かんだ。


「それが奴隷紋でございます。ステータス画面を確認することで、新たなスキルが使用可能となっておりますのでご確認くださいませ」

「ステータス画面?」


 ああ、ステータス画面は誰でも持っているんだっけ。ゲーム世界っぽいから忘れそうになる。

 というか、俺が未だに混乱しているからか。


〇赤の勇者クレス レベル17

《スキル》

赤魔法 レベル8

剣技 レベル17

詠唱破棄 レベル3

格闘技 レベル5

短剣技 レベル7

弓技 レベル2

槍技 レベル9

斧技 レベル2

投擲技 レベル7

大剣技 レベル2

双剣技 レベル8

抜刀技 レベル2

奴隷紋 レベル1


 おいおい、奴隷紋にレベルとかあるのかよ。

 さすがに驚いていると、奴隷商人が説明してくれた。


「奴隷紋はレベルが上がりますと様々な効果を発揮します。お客様が選んだのは『戦闘奴隷紋』となりますので、各種戦闘能力アップに繋がる効果を得られます」

「へぇ……」


 奴隷紋 レベル1

・攻撃力小上昇


 ステータス画面をチェックすると、こんな表示が出た。

 まだ小上昇か。レベルが上がればもっと効果が上がるのかも。

 

「では、またのお越しを」


 一通り説明を受け、ようやく飲み込めてきた。

 奴隷商館を出ると、ロランが俺の隣にいる。

 薄いパジャマみたいな服、薄皮の靴だけの装備だ。肉付きも薄く顔立ちは整っている。まさか女の子だとは……参ったな。


「あー、初めまして。俺の名はクレス。まぁ、よろしく」

「……お願い、します」


 お、喋った。

 おずおずと頭を下げた。転生前のクレスから見たロランは、何も喋らないサンドバッグ……ああもう、なんでこんな記憶しかないんだ。女の子だぞ女の子!! 

 でも、黄金の勇者なんだよなぁ……こんな小さな体で戦え……あ。


「な、なぁ。その……お前を買ったのは、戦闘奴隷としてなんだけど……た、戦うの怖くないか?」

「はい……あなた様が戦えと言うのでしたら、命を賭けて戦います」

「い、いや。そんな重い感じじゃなくて……あ、そうだ!! メシ食うか。あ、その前に服を買おう。あの、女の子っぽい服でもいいんだけど、戦闘奴隷だし、動きやすさを重視した……」


 やばい。何を言えばいいんだ。

 曽山光一の時もだが、女の子と付き合ったことなんてない。クレスは娼館通いばっかりだし、十三歳の女の子と一緒なんてどうすりゃいいのよ。

 ま、まずは服屋。そしてメシ。装備はいずれ……かな。

 幸い、ロラン捜索は一日で終わった。ドラゴンの渓谷に行くまで時間があるし、少しリブロ王国を観光してロランと打ち解けよう。


「よし。まずは服屋に行こう」

「はい。ご主人様」

「ご主人様は禁止」

「はい。クレス様」

「……まぁ、今はそれでいいか」


 というわけで、さっそく服屋に向かう。


 ◇◇◇◇◇◇


「うんうん、似合ってるぞ」

「はい……ありがとうございます」


 服屋にて。

 ワイシャツに短パン、そして女の子っぽく短パンの上からでも履けるスカートを買った。着替え用に似たような服を何着か買い、ロラン用のカバンや下着なども買う。

 まだ警戒しているのか、ロランはなかなか喋ってくれない。なんとか信頼関係を構築しないと。

 

「服はこんな感じでいいか。次はメシだな。何か食べたいのあるか?」

「クレス様にお任せします」

「そ、そうか? じゃあ……あ、質問していいか? 奴隷商館ではどんな食事が出たんだ?」

「お買いになられた方が迷惑にならないように、栄養管理された簡素な食事でした」

「肉とか魚は?」

「肉は十日に一度に少量、魚も同様です。普段は野菜中心でした」

「なるほど」


 商品だしな。大事に扱っているようだ。

 ラノベとか漫画では、牢獄みたいな場所に鎖で繋がれているイメージだったが。

 ま、それはそれでいい。


「じゃあ、肉を食べるか。せっかくのお祝いだしな」

「……お祝い?」

「ああ。こうしてロランと再会できたお祝いだ」

「……初対面ではないのですか?」

「おーっとそうだった!! あっはっは!!」

「???」


 笑って誤魔化す俺。

 ロランは首を傾げ、疑問符を浮かべていた。


「何食べる? 焼肉? すき焼き? もつ鍋とか焼き鳥とかもいいな。金はあるから心配しなくていいぞ?」

「……えっと」

「よし、じゃあいろいろ回ってみるか。屋台とか並んでる場所もあったし、俺も腹減ったよ」

「……くす」


 お、ロランが笑った。

 よーし、もっともっと笑わせてやるぞ!!


 ◇◇◇◇◇◇


 屋台を巡り、肉を満喫した。

 串焼きがメインで、肉野菜のスープやサンマの丸焼きみたいなのもあり、なんとチョコバナナまで売っていたのは驚いた……ああ、もちろん全部食べたよ。


「は、腹がいっぱいだ……ロラン、お前は?」

「ま、まんぷくです。こんなに食べたの、初めてです」

「そっか。よかった」

「……はい。ありがとうございます」


 おお、また笑った。

 信頼関係の構築は順調だ。このまま仲良くなるぞ!!


「そろそろ日も暮れそうだし、宿に帰るか」

「っ!! は、はい……」

「晩飯は……いらないか」

「は、はい……っ」


 あれ、なんか緊張してるっぽいな。

 ロランと一緒に宿へ戻り、俺が借りた部屋へ。ちなみにダブルを借りたのでロランがいても大丈夫。

 部屋に戻り、装備を外して窓際の椅子に座る。


「……どうした? そんな隅っこいないでこっち座れよ。いろいろ話もしたいし」

「……は、はい。その、覚悟はできています」

「はい?」

「わ、私は、まだその、経験がないので……それに、胸も小さいですし、クレス様を満足させられるか」

「…………」


 なんか嫌な予感がした。

 ロランは頬を染め、今日買ったばかりのシャツのボタンに手を───。


「ちょ!! 待て待て待て!! なに勘違いしてんだ!? そういうのは求めてない、ないない!!」


 俺は慌てて止める。

 なんてこった……ロランが緊張してたのって、俺がそういうこと・・・・・・をするかもしれないからなのか。

 はっきり言う。ロランに対してそういう感情はない。俺がロランに対して持っているのは……猛烈な後悔と罪悪感だ。だから、二度目の人生では幸せにしてあげたい。

 でも、黄金の勇者として戦ってもらわないといけない。矛盾してるよな……。

 ロランは驚いたように俺を見る。


「いいか、俺がお前を買ったのはそういうことをさせるためじゃない。俺には見えたんだ。お前には素晴らしい才能がある。鍛えればきっと、一流の戦士になれる。ロラン、お前は女の子だ。どういう経緯で奴隷になったのかは知らないけど……それでも、俺と一緒に戦って欲しい」

「…………」

「とりあえず、こっちに来て座れ。お前の話を聞きたい」

「…………はい」


 男が女奴隷を買う。まぁ……そう考えるのも無理はないよなぁ。

 とりあえず、今はロランのことを聞こう。

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