変わった未来の先で
マッケンジーの執務室。
白に戻った俺は頭を下げ懇願した。
「リブロ王国?……なんで」
「頼む!! どうしても行かないとダメなんだ!!」
「…………」
ロランは、奴隷商館にいなかった。転生前はいたが、デモンオークを討伐したことで未来が変わった。
ヒバの町から迂回路を使ってジーニアス王国に行ったのではなく、デモンオークを倒したことで正規ルートが使えるようになり、正規ルートからリブロ王国に向かった……現在、それが最も考えられる可能性だ。
「ん~……リブロ王国ねぇ。あそこ、大昔は勇者を輩出していた国なんだけど、『勇者の宝珠』が失われて以来、あまり治安が良くないんだよね」
「勇者の宝珠……ああ、あの宝石か」
俺が赤の勇者に任命されたときに飲み込んだものか。
そういえば、リブロ王国は『黄の勇者』を選出してた国だっけ。勇者の宝珠が失われて以来、治安が悪化して衰退の一歩をたどっているとか言ってたな。
「ねぇ、なんでリブロ王国に行かないとダメなんだい?」
「それは……」
俺がクレスではない曾山光一で、転生前のクレスが連れていた奴隷がいるから。その奴隷は伝承にない黄金の勇者で、魔王ですらビビる伝説の存在だから。
そんなこと言って信じてもらえるはずがない。それに、リブロ王国にいる確証もない。
なら……誤魔化しきるしかない。
「……弟がいるんだ」
「は? いや、きみに弟はいないでしょ?」
「い、いや。いるんだよ」
あっさりと否定された……まぁマッケンジーのことだ。クレスのことも調べてるんだろうな。
でも、言った以上は引き下がれない!!
「生き別れの弟だ。といっても血は繋がっていない……俺がひどいことをしたんだ。その償いをしたい」
「ひどいことねぇ……」
転生前のクレスは、外道だった。
ロランを買い、身の回りの世話をさせ、叩き殴り蹴り、ろくな食事も与えず……最後は自分が逃げるために魔王の前に突き飛ばした。
この世界のロランは、そのことを知らない。
でも、俺の心には鮮明に残っている。だから……罪を償いたい。
「頼む!! リブロ王国にいるかもしれないんだ!! リブロ王国に行かせてくれ!!」
「ん~……」
マッケンジーは執務用の椅子に深く座り、顎を撫でながら思案する。
「わかった。その代わり、きみ一人で行きなよ。ボクたちの出発は5日後。ジーニアス王国から南下してドラゴンの渓谷に向かう。きみはリブロ王国を経由してドラゴンの渓谷へ向かってくれ。明日にでも出発すれば2日ほどでリブロ王国に着く。そこからドラゴンの渓谷まで早馬で1日ほど。1日で弟くんを捜索してね」
「い、1日……」
「うん。悪いけど、個人の事情よりドラゴンの渓谷でのレベル上げが優先だ」
「…………」
確かにな。これは完全に俺のわがままだ。
もし期限が過ぎれば、マッケンジーに見限られる可能性もある。こいつはそういう奴だ。
なら簡単。さっさと見つければいい。
「わかった。1日あれば十分……というか、これから出発する」
「これから、ね。今夜は国王との会食も予定されてるんだけど?」
「キャンセルだ。旅疲れで寝たとでも言っといてくれ。国王との会食よりロランの……弟のが大事だ」
「ははっ、正直だね。そういうところ好きだよ」
「……じゃあ、行ってくる」
マッケンジーに地図をもらい、俺は部屋を出た。
次に向かったのはシルキーの部屋。ドアをノックするとメリッサが出た。
「あ、クレスさま」
「やあ。少し話がある」
「はい。ではどうぞ中へ」
どうやらお茶を飲んでいたようだ。シルキーがカップ片手に俺を見る。
「なにか用? 女同士のお茶会に参加したいのかな~?」
「違うし。話があるんだ」
ソファに座ると、メリッサがお茶を出してくれた。
「これからリブロ王国に行く」
「「……はい?」」
「大事な用事ができてな。俺だけリブロ王国に行ってからドラゴンの渓谷に向かう。5日後には合流するから、あとはよろしく頼む」
「だ、大事な用事って……え? 本気?」
「本気だ。道中の前衛はシギュン先生に任せる」
「な、ならば私もご一緒」
「いや、メリッサはシルキーたちと一緒にいてくれ。強行軍になるし、かなり辛いと思う」
「そんな……」
「用事って何よ? そんなに大事な用事なの?」
「ああ。大事だ……とても大事なんだ」
「「…………」」
話は終わった。
紅茶を一気に飲み干し、荷造りをするために部屋を出ようとする。
「事情はよくわからないけど、ちゃんと合流しなさいよ」
「クレスさま……お気をつけて」
「うん。ありがとう……行ってきます」
呆れるシルキー、頭を下げるメリッサに挨拶し、俺は自室で荷造りを始めた。
◇◇◇◇◇◇
ジーニアス王国、南門前。俺は馬に跨り地図を確認した。
馬は体力のある品種を借り、なるべく負担にならないように荷物を少なくした。
見送りはいない。シギュン先生には会えなかったので手紙を書き、シルキーに預けた。
「馬術……習得してよかった」
メリッサに習った馬術が役に立つ。
レベルは1だが十分。乗ってれば勝手に上がるだろう。
「よし、行くぞ」
『ブルルルルッ!!』
目的地はリブロ王国。
ロラン、いるかどうかわからないけど……待っててくれ。
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