はじめての旅、そして初陣

 メリッサの操る馬車はガタゴトと走り出す。

 幌付き馬車はけっこう揺れる。クッション代わりに座布団をケツに敷いてるけど痛い。

 シルキーは読書、シギュン先生は剣を磨いている……この揺れる荷台の上でよくやるな。

 俺はというと、ステータス画面をチェックしていた。


〇赤の勇者クレス レベル10

《スキル》

赤魔法 レベル6

剣技 レベル10

詠唱破棄 レベル2

格闘技 レベル4

短剣技 レベル6

弓技 レベル2

槍技 レベル7

斧技 レベル2

投擲技 レベル5

大剣技 レベル2

双剣技 レベル6

抜刀技 レベル1


 うん。シルキーも言ったけどかなりスキルがあるな。

 スキルばかり見ていたから気にしてなかったけど……もしかして。


〇赤の勇者クレス レベル10


 ここ、もしかして。

 名前を注視してみると、やはり詳細が出てきた。


〇赤の勇者クレス レベル10

《赤の勇者》

・経験値アップ

・スキル習得率アップ

・攻撃力アップ

・?????


 なるほど……これが俺のスキル習得率が高い理由か。

 赤の勇者になった恩恵ってところか。スキル習得率アップ、経験値アップ、攻撃力アップ……そして、最後の?????か。まだ解放されてないのかな。

 シルキーは魔法特化だし、魔力アップとか魔法攻撃力アップとかだろうな。

 それにしても、勇者の恩恵は素直にありがたい。


「なぁシルキー、ステータス画面の名前部分を見たんだけど、勇者の恩恵が見れるぞ」

「知ってるわよ。そんなの最初にチェックするでしょ」


 秒で返された……こっちを見もせず本を読んだままだ。ちょいへこむ。

 すると、剣を磨き終えたシギュン先生が言う。


「そろそろ、魔獣の出現する森だな。クレス、油断するな」

「は、はい」

 

 前方に、大きな森が見えた。

 そうそう、あそこを突っ切ってヒバの町に行くんだ。転生前は金にモノを言わせて雇った傭兵たちが四方を守りながら進んでたから気にしなかったけど、今回は傭兵などいない。

 俺は武器を確認し、大きく息を吐く。


「心配するな。実戦経験ゼロのお前に最初からすべてを見渡せとは言わん。できる範囲で周囲を警戒しろ。気を張り詰めすぎて動けないということだけにはなるなよ」

「は、はい」

「この辺りで出現するのはゴブリン、そしてオークだろう。油断だけはするな」

「はい!!」

「森に入りまーす!」


 メリッサが大きな声で言うと、馬車は森の中へ入っていく。

 薄暗く陰気な森だ。まだ午前中なのに……それに、気味の悪いカラスの鳴き声やギーギー鳴く何かがいるようだ。

 シルキーは欠伸して読書、シギュン先生は剣を抱えて目を閉じている。


「し、シルキー……少しは警戒を」

「してるわよ。いいからあんたは後ろを見張りなさい」

「あ、ああ……ふぅぅ」


 メリッサも特に気にしていないのか平然と御者を務めていた。

 俺だけが緊張してる。だってそうだろ。いくら修行して強くなったと言っても、クレスの中身は純和風の日本人の魂だ。剣は握ったことないし、喧嘩なんかもしたことない。

 ファンタジー小説でゴブリンの存在は知ってるけど……人の形をしたモノを俺に殺せるのか?


「クレス……来るぞ」

「え」


 シギュン先生がメリッサに馬車を止めるように言う。

 馬車が止まるとシギュン先生が下り、俺も後に続く。


「前衛、あたしはメリッサを守りながら術で援護するわ。クレス……初陣、カッコいいところ見せなさいよ?」

「勇者さま、お気を付けて!」

「お、おうっ!!」


 俺は刀を抜き、シギュン先生の傍へ。


「よし、実践授業といこう」

「は、はい!!」


 そう言った瞬間、シギュン先生が抜刀……俺の目の前に剣を突き出す。

 剣の腹に何か当たった。何かと思ったら……石だ。


「ゴブリンはある程度の知恵がある。身を隠し、石を拾って投げたりする程度だがな」


 俺は石が飛んできた方を見る。

 すると、緑色の子供みたいな気色悪い何かが飛び出してきた……そうか、これがゴブリン。ゲームで見るようなのにそっくりだ。

 手には棒切れを持ち、振り回しながら向かってきた。数は……五匹!!


「訓練を思い出せ。二匹、お前に任せる」

「は、はいっ!!」


 シギュン先生が飛び出し、俺も後に続いた。

 シギュン先生は一太刀でゴブリンを両断、流れるように残りの二匹も頭を叩き割った……早い。二秒とかからずゴブリン三匹を倒した。

 俺の前には、残りの二匹が迫ってきた。手には棒切れを持っている。


『ギャギャギャッ!!』

『ギャッヒィィッ!!』


 うげ、キモイ。

 ヨダレを垂らしながら知性のない叫びを上げている。

 落ち着け。訓練を思い出せ。シギュン先生に比べたら……のろまもいいところだ!!


「武技、疾風突き!!」

『ギャバッ!?』

「武技、二連斬り!!」

『ガヒャッ!?』


 最初の一匹を疾風突きで突き殺し、もう一匹は二連斬りで二つに割った。

 

「……あれ? 弱い」

「違う。お前が強く成長したんだ」

「え……」


 シギュン先生が剣を収め、俺の肩をポンと叩く。


「鋭くキレのあるいい一撃だ。だが、慢心はするな。その油断がお前の死に繋がることを忘れちゃいけない……いいな」

「はい!!」


 シギュン先生が優しくも厳しい声で言う。

 すると、シルキーとメリッサが言う。


「ま、初陣なんてこんなもんね。おつかれさん」

「勇者さま、かっこよかったです!」


 こうして、俺の初陣はあっさり終わった。

 慢心、油断せず、謙虚にいこう。ゴブリンだからって背後から刺されたら死ぬんだ。ゴブリンに勝利したからといって、俺は有頂天になったりしないぞ。


「よし。メリッサ、馬の準備を。クレスは周囲を警戒しろ。シルキー殿、クレスの補佐を頼む」

「「はい!!」」

「はいはーい。じゃ、新兵の補佐をしてあげましょうかね」


 もっともっと経験を積んで、勇者として成長しなくては!!




 ◇◇◇◇◇◇


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