第二章・再会

ジーニアス王国へ

「いいか。レベル10とはいえ油断は禁物だぞ。増長する可能性があるから言わなかったが……お前の成長速度は異常だ。勇者の恩恵は素晴らしいな」


 アストルム王国の正門で、プラウド先生が俺を激励してくれた。

 敢えて言わなかったそうだが、俺はスキル習得率とレベルの上昇が桁違いに早いらしい。

 例えるなら、毎日素振りを欠かさず行った少年が、還暦を迎える頃にようやく到達する境地らしい。それを俺は実戦経験もなしに、たった数か月で到達したとか。

 

「他人のレベルを聞いたリ教えたりスキルを話したりするのはマナー違反だが教えてやる。オレの剣技レベルは48、シギュンは43だ。総合レベルも同じだ」

「よ、よんじゅう……」

「毎日剣を振って、レベル10に到達したのは一般兵士になって一年後のことだ……ふふ、本当にお前の成長が楽しみだよ」

「プラウド先生……」

「気を付けて行け。帰ったらまた修行を付けてやる。道中はシギュンに任せたから、あとはあいつに師事するように」

「はい!! ありがとうございます。プラウド先生!!」


 俺はプラウド先生に頭を下げる。

 プラウド先生は俺の肩をバンバン叩き、笑みを浮かべていた。


 今日、俺たちはジーニアス王国へ出発する。

 目的は、緑の勇者マッケンジーに会うことと、実戦経験を積むためだ。

 魔王軍は現在目立った動きをしていない。だが、俺は知っている……今は力を貯めているんだ。勇者が現れたことを魔王軍はすでに知っているからこそ、万全の状態に持っていこうとしている。


「マーヴェリック、あなたはブルーノ王国に戻って。あたしがクレスと一緒にジーニアス王国へ行ったことを報告してちょうだい」

「わかりました。お嬢」


 シルキーは、マーヴェリック殿を遣いに出した。

 少し心細いが仕方ない。正直なところ、マーヴェリック殿に付いてきてほしかった。


「クレス様っ! 支度が整いました」

「ありがとう、メリッサ」


 馬車の荷台でゴソゴソと荷物整理をしていたメリッサが俺の傍へ。

 そう、この旅にはメリッサも連れて行く。身の回りの世話をするという名目でだ。料理スキルもレベル2だし、お袋の味レベルの料理を作ることは可能だ。


「……はぁ、あたしも行きたかったわ」

「ドロシー先生……」

「いい、魔法をちゃんと使いなさい。いくら詠唱破棄があっても、魔法を使わないんじゃ宝の持ち腐れだわ。あなたの赤魔法は勇者の恩恵もあってかなり強力よ。剣を振るように自然に使いこなせるようになりなさい」

「わかりました。ドロシー先生、ありがとうございます」

「……帰ったらまた訓練するんだから。怪我したら許さないからね」

「はい!! 俺、必ず帰ってきます。ドロシー先生の元へ!!」

「っ……ば、ばか!!」


 なぜか怒られた……なんで?

 そして、重そうな騎士鎧を脱ぎ軽装となったシギュン先生が来た。


「まずは街道沿いに進んでヒバの町を目指す。道中には魔物が出るが低級だから問題ない。お前にも戦ってもらうぞ」

「はい!!」

「初の実戦だ。私がバックに付くが油断するなよ」

「はい!! よろしくお願いします!!」

「……本当に礼儀正しく謙虚な男だ。ふふ」


 シギュン先生が微笑んだ。やべ、この人めっちゃ俺好みなんだけど。

 鎧のせいでわからなかったが、今は平民が着るような服を着てる。ワイシャツにぴちっとしたパンツをはいてロングブーツを履きこなしている。腰にはごついベルトを巻き、細身の剣を差していた。

 髪はロングのウェーブで緩く結び、大きな胸がワイシャツをこれでもかと盛り上げている。


「ちょっと……なにか目つきが嫌らしいわよ」

「うおっ!? し、シルキーか……驚かすなよ」

「ふん。それより、出発準備できたわよ」

「あ、ああ。あとさ、本当にいいのか? 一度国に帰るとかしなくて」

「別にいいわ。どうせ緑の勇者と顔合わせしなくちゃいけないし、一度国に戻ってジーニアス王国へ行くのも面倒だしね」

「そっか。じゃあ、改めてよろしくな」

「ええ。あたしが実戦の恐ろしさを教えてあげる」

「お、お手柔らかに」


 ちなみに、シルキーは実戦経験豊富だった。

 そして、俺に顔を寄せる。


「ま、仲間だし教えてあげる……あたしのスキルとレベル」

「え」


〇青の勇者シルキー レベル14

《スキル》

 青魔法 レベル17

 詠唱破棄 レベル2

 格闘術 レベル6

 杖技 レベル8

 

 なるほど。これがシルキーのスキルとレベルか。

 って……なんでシルキーのスキルを見れるんだ?


「ステータス画面を開いたまま相手の目を見ると、相手の情報が見れるのよ」

「へぇ……知らなかった」

「普通、相手に自分の情報は教えないからね。あんたのもちゃんと見せてよ」

「ああ、いいぞ」

「どれどれ……」

 

〇赤の勇者クレス レベル10

《スキル》

赤魔法 レベル6

剣技 レベル10

詠唱破棄 レベル2

格闘技 レベル4

短剣技 レベル6

弓技 レベル2

槍技 レベル7

斧技 レベル2

投擲技 レベル5

大剣技 レベル2

双剣技 レベル6

抜刀技 レベル1


「ぶーっ!? なな、なにこのスキルの数!? いろんな武器使ってるなって思ったけど、うっそ……そりゃ総合レベル上がりにくいわ。こんなにスキルあるんだもの」

「やっぱりスキルの数と総合レベルは比例するのか……スキル習得しつつ、他の武器も鍛えないとな」

「…………真面目なやつ」


 スキルの数はシルキーの倍以上ある。でも、使える武器が増えるのって面白いんだよな。

 

「なぁシルキー、杖技って杖の技だろ? 教えてくれよ」

「いいけど、あんたの総合レベル上がりにくくなるわよ」


 顔をしかめるシルキー。

 すると、シギュン先生が俺とシルキーを呼ぶ。いつの間にか馬車にいた。


「そこの二人、そろそろ出発するぞ」

「はい!!」

「はいはーい」


 ジーニアス王国へ行くメンバーは、俺とシルキー、シギュン先生とメリッサだ。

 プラウド先生とドロシー先生は見送りで、正門前には十人以上の兵士が並んでいた。どうやら見送りに来てくれたらしい。


「青の勇者シルキー殿。この遠征時においては私の指示に従っていただきますが、よろしいですね」

「いいわよ別に」

「では、私が指揮を執らせていただきます。まずは街道沿いに進みヒバの町へ向かいます。道中、実戦を兼ねて魔獣退治を行い、ヒバの町への到着は七日後です。そこからジーニアス王国へ向かいます」

「わかりました、シギュン先生」

「メリッサ。お前は非戦闘員だ。戦闘時には馬車から動くなよ」

「は、はい」

「シルキー殿。来るべき日のために、クレスと連携訓練も行いたいと思います。異論はありませんね?」

「ないわ。むしろ望むところよ。ってか、敬語いらないから」

「はい。では……出発しよう」

 

 シギュン先生が馬車の荷台に乗り込み、俺とシルキーも荷台へ。

 メリッサは御者席に座り、手綱を握った。


「あれ、メリッサが御者を?」

「はい。馬の扱いは得意です。馬術も習得していますので」

「なるほど……あのさ、俺にも馬の扱い方教えてよ」

「はい!」

「おい、座ってろ」

「あ、すみません」

「全く、スキル習得に飢えているようだな」


 シギュン先生が苦笑する。

 だっていろいろ覚えるの楽しくて仕方ないんだもん。


「では、出発します!」


 メリッサが馬を走らせると、パッカラパッカラ歩きだす。

 兵士たちが敬礼で見送り、プラウド先生とドロシー先生が手を振っているのが見えた。

 俺も荷台から手を振り返す。


「行ってきます!!」


 こうして、ジーニアス王国へ向かう旅が始まった。

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