レベルアップ、そして
「せいっ!! はっ!! だぁっ!!」
扱う武器を決めて一か月。
訓練とは別に夜の自主練習の時間。俺は槍を構え振り回す。
映画やゲームでやるような、中華風アクションを取り入れた独自の型だ。だが遊びじゃない真剣さがここにはある。
騎士の槍使いから武技も教わり、レベルもだいぶ上がった。
〇赤の勇者クレス レベル9
《スキル》
赤魔法 レベル6
剣技 レベル9
詠唱破棄 レベル2
格闘技 レベル4
短剣技 レベル6
弓技 レベル2
槍技 レベル7
斧技 レベル2
投擲技 レベル5
大剣技 レベル2
双剣技 レベル6
総合レベルは上がらないが、個々のスキルレベルは上がっている。どうも他のスキルレベルが低いからか、総合レベルが上がってない。
ちなみに、総合レベルは体力や魔力に関係している。ステータスを『赤の勇者クレス』に集中して見ると……。
〇赤の勇者クレス レベル9
体力 3000
魔力 2800
と、こんな風に表示される。ガチでゲームみたいだ。
レベル1の体力は200で、肉体的な疲労をすると体力は減っていき、動けなくなると体力は20まで減っていた。だが、今はそうそう減ることはない。
俺は動きを止め、槍を収めて一礼……相手がいなくても普段から礼儀を忘れない。
「クレスさまー! お夜食の支度ができましたー!」
「ほら、さっさと来なさいよ。お茶が冷めちゃうわ」
「今日のお夜食はホットサンドね。おいしそうじゃない」
訓練場の一角にシートを広げ、少女が三人座っている。
メイドのメリッサ、青の勇者シルキー、ドロシー先生だ。
20日ほど前からシルキーとドロシー先生が加わり、メリッサの夜食は夜のおやつタイムとなった。俺とメリッサが夜に会っているとメイドの間で噂になり、シルキーとドロシー先生が俺を問い詰めたのだ……別に隠すことじゃないから正直に言ったけど、なぜかメリッサの機嫌が悪くなったんだよなぁ。
メリッサはすかさずタオルを差し出す。お、濡れていて気持ちいい。
「ありがとう、メリッサ」
「いえ。私にできるのはこれくらいですから」
「助かるよ。本当にありがとう」
「は、はい「ちょっと、さっさと座りなさいよ」……むぅ」
シルキーに急かされたのでシートに座り、夜食を食べる。
今日の夜食はホットサンド。食べると体力が回復し、魔力も少し回復した。
「ふぅ……ごちそうさま。今日も美味しかったよ」
「お粗末様です。私も料理スキルのレベルが2になりました。もっとおいしい夜食を作れるように頑張ります!」
「うん。メリッサが俺の専属料理人になってくれたらいいのに。なーんて」
「えぇぇぇっ!? わわ、私なんかが、その」
あ、あれ? メリッサが赤くなってしまった。何か変なこと言ったかな。
すると、咳払いをしたドロシー先生が言う。
「ごほん! それよりクレス、あと三日で出発でしょ。支度は済んでるの?」
「はい。ジーニアス王国に行く準備はできています」
ジーニアス王国。そう……緑の勇者マッケンジーに挨拶に行くんだ。
転生前に挨拶したときは、クレスの舐め切った態度に一瞬で見切りをつけ、世界中の王国から腕利きの戦士を集めて魔王討伐に向かおうとしてたからな。クレスが使い物にならないって判断はすごい。伝説の勇者を一瞬で切り捨てるとは、かなり頭が回る男だ。
でも、今回は違う。俺も鍛えているし、失望させないつもりだ。
「ジーニアス王国かぁ。どんなところかしら」
「緑が豊かな王国らしいです。エルフの住まう地としても有名ですね」
「詳しいのね、クレス」
「ええ。一度行った……じゃなくて、本で読みました」
転生前のクレス、ジーニアス王国にあるエルフの娼館に通ってたからな。
そこの奴隷商館でたまたまロランを見つけて買ったんだ。でも、今回は違う。娼館に興味がないわけじゃないけど、ロランを買わなくては。
「当然だけど、ジーニアス王国にはあたしも行くからね、クレス」
「はい。シルキー様」
「……あとさ、前から気になってたけど、その様付けと敬語やめてよ。同い年でしょ?」
「ですが、勇者「いいから、やめて」……わかりました、じゃなくて、わかった」
「よし。じゃあシルキーって呼びなさい」
「ああ、シルキー」
「っ……う、うん」
俺としてもこっちのが呼びやすい。転生前のクレスは呼んでも無視されるか険悪だったからな。
すると、ドロシー先生がむくれる。
「クレス……あたしもドロシーでいいわよ」
「そうはいきません。ドロシー先生は俺の魔法の先生です。先生を呼び捨てするなどあり得ませんし、敬意をもって接するのは当たり前のことです」
「…………」
あれ、なぜかそっぽ向かれた。
◇◇◇◇◇◇
翌日。俺の装備が完成したとの知らせを受け、ドワーフのロッコさんの工房へ。
シギュン先生と一緒に行くと、テーブルの上に赤い刀身の剣が並んでいた。
「よぉ、できてるぜ」
「おぉ……これが」
赤い刀身の刀と双剣、そして槍。
投擲用ナイフは普通の物だ。鎧は戦国時代の武士の甲冑みたいなもので、これも赤を基調とした動きやすい造りとなり、武器を収めるホルスターと一体になっていた。
「素材はヒヒイロカネ製。赤魔法と相性がいい素材だからおめぇにピッタリだぜ。硬度はダマスカス鋼の六百倍、重さはその半分ときたもんだ。これだけの装備で貴族の屋敷が十軒は建つ。早々壊れたりはしねぇだろうが大事にしてくんな」
「は……はいっ!!」
思わず見惚れるほどの美しさだった。
俺は鎧を着て武器を収める。腰には刀を差し、某アニメで見た抜刀術の構えをする。
「───ふっ!!」
抜刀、そして刀を鞘に納める。
一連の動きを流れるように行ったせいなのか。
〇赤の勇者クレス レベル10
《スキル》
赤魔法 レベル6
剣技 レベル10
詠唱破棄 レベル2
格闘技 レベル4
短剣技 レベル6
弓技 レベル2
槍技 レベル7
斧技 レベル2
投擲技 レベル5
大剣技 レベル2
双剣技 レベル6
抜刀技 レベル1
なんと、レベルが10になり『抜刀技』のスキルを得た。
同時に、閃いた。
剣技
・二連斬り ・兜割り ・疾風突き
・四連斬り ・掬い上げ
奥義
・十連刃
剣技の項目に『奥義』が追加された。
十連刃。流れるような動きで十回連続で斬る技だ。
そうか、レベル10で各スキルの奥義を得るのか。もしかして20になればまた習得するのかも。
「どうした?」
「……新しいスキルを得ました。そして剣技スキルがレベル10になって、奥義を得ました」
「ほぉ、奥義を得たのか。ふふ、ならば試してみよう、訓練場に行くぞ」
「はい!!」
シギュン先生と一緒に工房を出て、訓練場へ向かう。
これで目標のレベル10を達成した。
まだまだ未熟だが、少しは強くなったと思う。
三日後、ジーニアス王国へ向けて出発する。そこの奴隷商館でロランを買って、鍛え上げて、黄金の勇者として覚醒させて……今度こそ魔王を倒すんだ。
俺は裏方に徹するぞ。謙虚に、慎重にいく。
でも、俺の考えは甘かった。
未来の出来事を知っていても、未来が変われば意味なんてない。俺はそのことに気付いていなかった。
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