装備を決めろ

 模擬戦から早一か月、俺のレベルは少しだけ上がっていた。


〇赤の勇者クレス レベル8

《スキル》

赤魔法 レベル6

剣技 レベル9

詠唱破棄 レベル2

格闘技 レベル2

短剣技 レベル3

弓技 レベル2

槍技 レベル2

斧技 レベル2

投擲技 レベル2

大剣技 レベル2


 現在のレベルは8だ。

 マーヴェリック殿から大剣技を習い、武技を教わったことでレベル2に上昇した。

 剣技も順調に上がっている。あと一つでレベル10になる。

 そして、少しだけわかったことがある。


「あんた、レベルが上がるの遅いわ」

「え……」

「おそらくだけど、多種多様なスキルを覚えやすい代わりに、レベルが上がりにくいのよ。あたしのレベルは今のところ18……このアストルム王国に来てかなり上がったわ。新しいスキルこそ入手してないけどね」


 と、シルキーが言う。ちなみにシルキー、自分の国に帰ることなくアストルム王国で鍛えている。

 転生前は顔見せだけしてすぐに帰ったはずなのに、どうしてここに留まっているのか聞くと。


『あ、あんたとあたしはパーティーを組むのよ? その……れ、連携もあるし!』


 とのことだ。ちなみにこの一か月、連携訓練はしていない。

 あ、ちなみにここは魔法訓練場。シルキーに呼び出されて来たんだ。

 

「ま、多種多様なスキルを組み合わせて戦う戦法は悪くないわ。剣に短剣に槍に斧、全部持って戦うのは無理だし、どれか絞ってレベルを上げるのもありかもね」

「なるほど。となると、やっぱり剣技は外せないし……短剣と双剣、投擲に槍も欲しいな」

「欲張りはダメよ。ま、魔法はあたしに任せなさい」

「……聞き捨てならないわね」

「あ、ドロシー先生」


 すると、ドロシー先生が渋い顔でこっちに来た。途端にシルキーも渋い顔をする。


「クレス、武器を極めるのはいいけど魔法も疎かにしちゃダメよ。その歳で詠唱破棄を使えるってことがでれほどのことなのかよく理解しなさい。どこぞの勇者様はまだ使えないようだしね」

「は? はぁぁ? 詠唱破棄なんてすぐに覚えるし。青の勇者が魔法特化っての知ってる? 青魔法のレベルは現在15、あんたはいくつ?」

「ふん、12よ。でも黄魔法はレベル14、緑魔法はレベル17……あたし、あんたより若いし才能の塊だしね。あたしが青の勇者になった方がいいかもね」

「はぁぁ? あたし、魔法を覚え始めてまだ一年も経ってないし。たった数か月でレベル15なんて、あと一年したらどうなっちゃうのかしら?」

「あ、あの……喧嘩は」

「「あんたは黙ってて」」

「はい……」


 シルキーとドロシー先生は相性最悪だった。

 互いに天才という肩書を持つからか、同族嫌悪とでもいえばいいのか。転生前は接点がなかったが、俺が真面目になったことで接点が生まれた。


「つーか、あたしとクレスが一緒に訓練してるんだからドロシーはあっちに行ってよ!!」

「あたしはクレスの専属教師よ!! あんたこそいつまでアルストム王国にいるつもり!? 自分の国に帰りなさいよ!!」


 やばい。ヒートアップしてきた。

 さすがに止めなければと思い二人に割り込もうとすると。


「ここにいたか、クレス」

「あ、シギュン先生。何か御用でしょうか」

「少し付き合って欲しい場所がある。以前言った、お前に合った剣のことでな」

「あ」


 そういえば、そんな話をしたっけ。

 俺の身体に合った剣を作るという話だ。実は俺、頼みたいことがあったんだ。


「場所は城の中にある装備製作所だ。ドロシー、シルキー殿、申し訳ないがクレスを借りるぞ」

「「はぁ!?」」

「お、俺、行ってきますね。シギュン先生、早く!!」

「む……ああ」


 俺は逃げ出し、シギュン先生は首を傾げた。


 ◇◇◇◇◇◇


 装備製作所は、鍛冶場みたいな場所だ。

 兵士の武器や鎧を作ったり、修繕したりする場所で、なんとドワーフがいるらしい。

 ドワーフ。ファンタジーにありがちな種族だ。鍛冶が得意らしいけど、それはこの世界でもそうだった。

 到着したのは、ザ・工房って感じのところだ。


「ここだ」

「わぁ~……初めて来ました」

「普段はあまり来ないからな。一か月前に話をして、ここで作れそうな武器を一通り揃えてもらった。その中でお前に合いそうな装備を見繕い、お前用に調整する」

「じゃあ、俺の意見とかも取り入れてくれるんですか?」

「お前の装備だぞ。当たり前だろう」

「……よっし」


 実は、ちょっとお願いしてみたいことがあった。

 シギュン先生と一緒に工房に入ると、小さな髭面のおっさんが出てきた。


「おう、おめーか」

「ロッコ。装備を見に来た……ああ、こちらが赤の勇者クレスだ」

「そうか。オレはロッコ、見ての通りドワーフだ」

「はじめまして。クレスと申します」


 ドワーフのロッコさんに頭を下げると、少しだけ驚かれた。やはり謙虚な姿勢が珍しいのか。

 ま、そんなことはいい。ロッコさんに案内されたのは、武器庫と呼ぶにふさわしいラインナップの倉庫だ。剣や槍、短剣、斧、槌。異国の鎧や兜がこれでもかと揃っていた。


「じゃ、装備を見ていけ。一般兵から騎士が身に着けてるモン、町の武器屋で扱ってそうな装備も見繕っておいた。おめーに合う装備もあるだろうよ」

「ありがとうございます。では……」


 俺はさっそく剣を見る。

 でかい剣、ショートソード、ククリナイフ、カトラス、レイピアなど、ゲームで見たことがある武器がいくつもある。

 俺の目的の武器は……あった。これこれ。


「ほぉ、そいつか」

「はい。これがいいです」


 ロッコさんは『お目が高い』と言わんばかりだ。

 そう、俺が探していたのは『刀』だった。

 片刃で七十五センチほどの長さで、刀身は細い、斬るための剣だ。日本人だからなのか、刀を振ってみたいと思っていた。それに、この剣はクレスに合う気がする。


「それはサムライソード。異国の剣士が使う剣だ」

「まんまですね……でも、これがいいです」

「いいだろう。お前向けに作り直してやる。それは練習用に持っていけ」

「はい!!」


 というわけで、俺のメインウエポンは『刀』になった。

 それ以外に、二刀流の短剣を背中に背負い、投擲用ナイフを腰に差しておく。

 短剣を二本にした理由は、短剣技と双剣技が両方使えるから、投擲用ナイフはかっこいいから。そして、三節混のように分離できる槍を折りたたんで専用のホルスターに差しておく。

 鎧は軽く柔軟性のある武士のような甲冑にした。どうも戦国時代っぽくてかっこいい。

 シギュン先生は俺の装備を見てうなずく。


「ふむ、剣に短剣に投擲用ナイフ、そして槍か……近中遠とバランスが揃っているな」

「はい。あとは魔法もありますので、これでいきます」

「わかった。では、お前用に新調してもらおう。ロッコ、曲がりなりにも赤の勇者の装備だ。最高級の素材で頼むぞ」

「任せときな。勇者様の装備専用に『ヒヒイロカネ』を準備してある。オレのドワーフとしての腕、見せてやるぜ」


 作業をするというので、ロッコさんの工房を後にした。

 

「武器は決まったな。では、明日からお前の選んだ武器を重点的に鍛えることにしよう」

「はい!!」

「ジーニアス王国に出発するまであと一月だ。それまで、レベル10を目指して精進するように」

「はい!!……あ、そっか」


 そうだった。シルキーが普通に滞在してるから忘れてたけど、俺もマッケンジーに会いにジーニアス王国に行くんだった。

 転生前、ジーニアス王国に向かう途中で魔獣が出るんだけど、迂回して事なきを得たっけ。そしてジーニアス王国の奴隷商館でロランを買ったんだ」


 そうだ……もうすぐロランに会える。

 ロランを買って、鍛えて、黄金の勇者に覚醒させる日が近い。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


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