青の勇者シルキー
青の勇者。
後方支援に特化したウィザードタイプの勇者で、魔法適正が高い者に選ばれるらしい。シルキーは攻撃魔法に特化していたが、前のクレスが使い物にならなかったおかげで前線でも戦えるようにと剣技を習っていた。
だが、シルキーの剣技は一般兵クラスまでしか上がらず、近接戦闘ができないのに前に出て戦い、魔法を使うという最悪な戦闘スタイルだったことを覚えている。
勇者クレスはかなり嫌われていた。憎まれていたと言っても過言じゃない。転生前のシルキーの死にざまは、勇者クレスを呪いながら死んだくらいだからな……あの目つきと怨嗟の声は忘れられない。
でも、今度のクレスは違う。日本人の曾山光一の精神で転生してるからな。
「よし、どうかな?」
「はい。お似合いです勇者さま!」
俺は自室で礼服に着替え、メリッサに髪を整えてもらい、鏡の前で最終確認をしていた。
国王に呼ばれたからな。訓練着では行けない。
「はぁ……緊張する」
「国王陛下にお呼ばれですからね。仕方ないですよ」
「あはは……」
国王じゃなくて、シルキーなんだよな。
転生前の記憶が確かなら、シルキーは連絡もなしにここに来たんだ。自分のレベルが10を超えたから、ほかの勇者がどんなレベルなのかを確かめに来たんだよな。
転生前のクレスはまだレベル1のままで、鼻で笑われたことを覚えてる。
「勇者さま。わたしは応援しかできませんが……頑張ってください!」
「ありがとう、メリッサ」
メリッサは、夜食を作るようになってから態度も徐々に砕けていった。
今では友人のような関係だ。転生前のクレスはめっちゃ避けられてたからな。これも礼儀正しく謙虚にしているおかげだろう。
俺は剣を腰に差し、深呼吸した。
「よし、行ってくる」
「いってらっしゃいませ、勇者さま」
メリッサに見送られ、俺は自室を出て謁見の間へ向かった。
◇◇◇◇◇◇
謁見の間に到着、王の前で跪く。
転生前のクレスじゃあり得ない行動だが、王を前にしたらこれが普通だ。
「表を上げよ」
「はっ」
「騎士プラウドと騎士シギュン、魔導士ドロシーより報告は受けている。修行は順調のようだな」
「はっ。騎士プラウド、騎士シギュン、魔導士ドロシーの教えを受け、強く成長している実感があります」
「そうか。魔王討伐も夢ではない。このまま励むように」
「はっ!!」
ま、魔王討伐するのはロランだ。俺は強くなってサポートに徹するけどな。
待てよ……国王に依頼してロランを探してもらうのはどうかな。でも、黄金の勇者の話をしなきゃならんし……ドロシー先生やプラウド先生たちに「黄金の勇者って知ってます?」って聞いても「なんだそれ?」って感じだったしな。
とりあえず、ロランは奴隷商人のところにいるはずだ。
アルストム王国じゃない。マッケンジーのいるログラ王国の奴隷商館だ。そこでマッケンジーと出会ったんだっけ。
ロランとの出会いは最悪だった……マッケンジーと初対面で喧嘩して、イライラしたクレスは城下町の娼館で遊んでたんだ。それでもイライラが収まらず、たまたま目に入った奴隷商館で、サンドバッグ代わりに買った奴隷がロランだったんだよなぁ。
「勇者クレス。いきなりだが、今日ここに青の勇者シルキーが来城している」
「そうでございますか」
「……驚かぬのだな」
やべっ、今のは驚くところだよな。
シルキー、ノンアポでここに来たんだ。本来なら修行中だし、顔合わせは先のはず。
自分のレベルが高くなったからって、他の勇者より優れてるってマウント取りに来たんだよな。
確か、シルキーのレベルは10……俺は7だ。こりゃマウント取られるな。
「いえ。いずれ顔を合わせ共に戦う身。顔を知らずとも仲間であると、勇者に任命された時から心の中に。私は一人ではない、そう思い修行に励んでいましたので」
「なんと……」
ふぅ、なんとか誤魔化せた。ちょっとクサいセリフだったけど。
「お待ちください、謁見の許可はまだ」
「うるさいわね。中にいるんでしょう? 赤の勇者様、がね」
「あ、青の勇者様、お待ちを!」
なんか外が騒がしい。それにこの声……ああ、来たな。
謁見の間のドアが開き、一人の少女が入ってきた。
青く長い髪、魔法使いっぽい杖を持ち、どこか猫を思わせる挑戦的な眼差し……外見は間違いなく美少女だ。確か、スタイルも抜群のはず。
「あなたが赤の勇者クレスね。初めまして、あたしはシルキー……青の勇者よ」
どこか見下すような声で、俺とシルキーは『再会』した。
◇◇◇◇◇◇
「あなた、レベルは?」
「…………」
「聞いてるの? ちょっと!!」
「王の御前だ。勇者だからと言って礼儀を忘れてはいけない。青の勇者シルキー」
「なっ……」
ちなみに、俺は跪いたままだ。
転生前は、ここで大喧嘩したんだ。怒鳴り合い、掴みあい、騎士数人がかりで止められるまで、互いを口汚く罵って……俺の評価はここで一気に落ち、シルキーも落ちた。でも、シルキーは実力もあったし徐々に認められていくんだよな。
ここは、謙虚さを忘れてはいけない。
「青の勇者よ。赤の勇者クレスの言うとおりじゃ。貴殿はここでは客人にすぎん。これが青の勇者を派遣したブルーノ王国の流儀というなら、あちらの国王に話をすべきかもしれん」
「っく……し、失礼しました」
シルキーは俺の隣で跪いた……めっちゃ殺気感じるな。
さて、ここで喧嘩することはなくなった。未来は変わったぞ。
でも、これ絶対に後で絡まれるパターンだよなぁ……仕方ないか。
「青の勇者よ。貴殿が伺うということは聞いておらぬのだが、何用かな?」
「はい。同じ勇者として、赤の勇者クレスの実力を確かめに参りました。私が背を預けるに値する人物か……」
「なるほど……」
「事前に、町で情報を集めました。どうやら彼は、城下町でかなりの不良だったとか……窃盗や恫喝、喧嘩などは日常茶飯事。窃盗団の当目でもあるという話も聞きました」
おいおい、そんな大層なもんじゃないって。
確かに、悪ガキどものリーダーだったけど……喧嘩もしたしカツアゲもしたし、飲食店でただ食いしたし、今でも過去につるんでいた連中は似たようなことやってるけど。
まずいな。ここで真面目に頑張っていること、城下町には伝わってないみたいだ。
「ふむ。だが、貴殿は知らぬようだな。赤の勇者クレスの成長ぶりを。騎士団長、魔導士のお墨付きじゃ」
「なるほど。ですがそれは上辺だけかもしれません。何か魂胆があるかも……」
うわ。壁際に立ってるプラウド先生とシギュン先生の眉間にしわが寄っている。いつの間に来てたのかドロシー先生もいるし……やばい、シルキーの奴に怒ってるかも。
「赤の勇者に質問を。あなたのレベルはいくつでしょう?」
「待て。他者のレベルを明らかにするのはマナー違反じゃ」
「構いません。私のレベルは現在7です」
「……っふ」
シルキーの奴、勝ち誇った顔をしやがった。
「なるほど……勇者に任命後に修行を初めてレベル7とは。私のレベルは12、これは修行の怠慢ではないでしょうか。少なくとも……このような弱者に背中を預けようとは思えませんね」
「異議あり!!」「異議あり、ね」
あ、プラウド先生とドロシー先生が挙手した。
「赤の勇者クレスの成長は素晴らしい!! すでに武技も習得し数多の武器スキルを習得しています!! レベルが上がらないのは武器スキルの数が多いからで、もし剣技スキルだけだったらレベルはすでに15を超えているでしょう!!」
「あたしも反論するわ。勇者クレスの赤魔法レベルは確かに低い。でも、その集中力は称賛に値する。赤魔法レベル2で詠唱破棄スキルを手に入れるくらい魔法適性度が高い。もし赤の勇者クレスが青の勇者だったら、レベルは20を超えているでしょうね」
おいおい、擁護は嬉しいけどステータスをバラしすぎじゃね?
プラウド先生とドロシー先生は、他の騎士に押さえられた。
「と、言っておるが……どうかの? 青の勇者よ」
「…………では、実力を持って証明を」
「実力?」
「はい。私が連れてきた護衛に腕の立つ剣士がいます。彼と模擬戦を行い実力を証明すれば……赤の勇者として認めましょう」
「ほぅ、面白い。赤の勇者クレスよ、どうかな?」
「わかりました。お受けしましょう」
澄ました顔で言う俺。だが……内心ヤバい。模擬戦だと?
こんなイベントなかったぞ。どうしよう。
「よろしい。練習場をお借りします。勝負は二時間後、では失礼」
シルキーは去った。
というか……模擬戦、二時間後かよ!? 展開早くね!?
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