そこそこ強く

「はぁぁっ!!」


 俺は武技『疾風突き』を繰り出し、シギュン先生の胸を狙う。

 だが、疾風突きは難なく躱された。シギュン先生は俺の真横に移動し、剣を叩き落そうと木剣を振りかぶり───。


「っだらぁぁぁっ!!」

「っ!?」


 俺は無理やり剣から手を離し、横薙ぎのラリアットでシギュン先生に裏拳を食らわせる。

 予想外だったのか、拳はシギュン先生の鎧の胸部分を擦る。俺は足を踏ん張ってブレーキをかけ、シギュン先生に蹴りを食らわせようとした。


 そう、俺は格闘技のスキルを得ていた。

 深夜の特訓で剣を振るだけでは成長しない気がして、訓練用のデッサン人形を相手に格闘技の真似事をしてみた。

 カンフー映画で見るような木人椿を参考に叩いていたら、格闘技のスキルを手に入れた。


〇赤の勇者クレス レベル6

《スキル》

赤魔法 レベル4

剣技 レベル7

詠唱破棄 レベル1

格闘技 レベル1


 これが現在の俺だ。

 そこそこ強くなってると思う。でも、まだシギュン先生には届かない。


「甘い」

「あだっ!?」


 蹴りはあっさり躱され、木剣で叩きのめされた。

 くそ、いけると思ったんだけど……残念。


「格闘技のスキルを持っていたのか?」

「はい。自主トレで人形相手に素手で戦ってたら覚えました」

「ふむ……剣を失った場合の戦術として使えるな。よし、他にも使える武器をいくつか用意しよう。お前は飲み込みが早い。スキルを習得しておけ」

「はい!!」


 と、いうわけで。

 プラウド先生が用意した武器を持ち、漫画やアニメで見た動きを真似て動く。すると新しいスキルをいくつか習得することができた。


〇赤の勇者クレス レベル6

《スキル》

赤魔法 レベル4

剣技 レベル7

詠唱破棄 レベル1

格闘技 レベル1

短剣技 レベル1

弓技 レベル1

槍技 レベル1

斧技 レベル1

投擲技 レベル1


 すっげぇ。一日でこんなにスキルをゲットできた。

 どれも武技は習得していない。だが、扱いはできるようになった気がする。

 近中遠距離なんでもございって感じだ。


「剣技をメインに、他の武器の扱いも指導してやろう。さらに厳しく指導してやる」

「よろしくお願いします!!」

「素直でいい返事だ。お前は本当に鍛えがいのある勇者だよ」

「そ、そんな。自分はまだまだで……」

「そうね。増長しても困るから言わなかったけどあなたなら心配ないわね。いい? 一つのスキルを習得するのに、本来なら数か月はかかるのよ? それをあなたはたった数十分武器を握り演武を行うことで習得した……私やプラウド以外の者が見たら腰を抜かす光景よ」

「え」

「オレも正直驚いてるぜ。これが勇者の力なのかと納得しているが、一年もしないうちに追い抜かれそうだ」

「え」


 俺っておかしいのかな……でもまぁ、早くスキルや武技を習得できるなら別にいいか。

 

 ◇◇◇◇◇◇


 魔法の訓練も順調だった。

 

「魔力総量2200……うん、もう立派な魔法使いね」

「や、やったぁ~……ふぃぃ」


 魔力枯渇訓練を続け、詠唱破棄のレベルも2になった。

 これで、ハイファイアとファイアウォールを詠唱破棄できる。念じるだけで高威力の火炎魔法を自在に放てるのは最高だった。

 ドロシー先生はモノクルを押さえる。


「とんでもないわね……訓練を初めて一年もたたない奴が、一流魔法使いと同等の魔力を得るなんて。これも赤の勇者の力なのかしら」


 たぶん、赤の勇者になったときに飲み込んだ宝石の力……かもしれない。

 成長促進効果でもあるのかな。今のところ、勇者っぽい力は感じないけど。


「使える魔法も増えてるわね。順調順調、そのまま訓練を続ければ、もっと強力な魔法も覚えられるわ」

「はい」


 赤魔法 レベル5

・ファイア

・ハイファイア

・メガファイア

・ファイアウォール

・オールファイア


 お、新しい炎魔法だ。

 メガファイアはハイファイアの上位で、オールファイアは?


「ドロシー先生、オールファイアってなんですか?」

「オールファイアは全体攻撃魔法よ。あんたが指定した敵にファイアを同時に食らわせるわ」

「おお……すごい」

「魔力の消費が激しいから気を付けなさい。それに、呪文を見ればわかるように、レベル2の詠唱破棄じゃ発動しないから。ちゃんと呪文を唱えなさいよ」

「はい」


・メガファイア

『紅蓮の炎よ、全てを焼き尽くす炎よ、我が願いを聞き現れよ、メガファイア』


・オールファイア

『炎の嵐よ、我を仇なす物を焼け、紅蓮の裁きを、そして怒りを、オールファイア』


 長いな。

 しかも文章が中二臭い……これは詠唱破棄できるまで使いたくない。

 というか、わかっていたが見事に炎系だけだ。

 俺もけっこう成長したな。

 

〇赤の勇者クレス レベル7

《スキル》

赤魔法 レベル5

剣技 レベル8

詠唱破棄 レベル2

格闘技 レベル1

短剣技 レベル1

弓技 レベル1

槍技 レベル1

斧技 レベル1

投擲技 レベル1


 うんうん。レベル1ばっかりだけどいい感じ。

 修行も順調だし、このまま鍛えよう。


「そういえばあんた。他の勇者のこと聞いてる?」

「え? シルキーとマッケンジーのことですか?」

「…………知り合いみたいな言い方ね。あたしも名前を聞いたの今朝なのに」


 やべっ、まだ会ってないのにこの態度はおかしい。


「え、えーと……俺もついさっき聞いて。その、同じ勇者だし、仲間意識を……なんて」

「ふーん。まぁいいけど。それより、青の勇者がここに来る話は聞いてる?」

「青の勇者? シルキー……さんがここに? なぜ?」

「ま、勇者だしね。顔合わせくらいはしに来るんじゃない?」


 シルキーか……大丈夫かな。

 前のクレスの記憶では、シルキーとは初対面で大喧嘩になったんだよな。あいつ、高飛車で勇者に選ばれたことを誇りに思ってるから、舐めた態度のクレスと大喧嘩したんだ。早々に見切りを付けられたっけ。

 それに、どこで聞いたのか勇者クレスがガキ大将だったことを知ってて、勇者に相応しくないとかいろいろ言ってたな。

 

「なるほど……青の勇者は後方支援、魔法のプロでしたっけ」

「ええ。青魔法をメインに、各種属性魔法を習得しているらしいわ。ま、あたしのが上だけどね」

「それはそうでしょう。ドロシー先生ほどの魔法使いはこの国にいない。俺はドロシー先生の生徒であることに誇りを持っていますよ」

「っ!! そ、そう……ありがとう」

「いえ、お礼を言うのは俺の方です」


 ドロシー先生には感謝しかない。

 もちろん、教えて欲しいことはまだたくさんある。


「あ、あのさ……その、今度よかったら、一緒にご飯でも「失礼します!!」


 ドロシー先生がモニュモニュと何かを喋ったと思ったら、兵士さんが敬礼して俺たちの前に。


「赤の勇者様。国王がお呼びです!! 正装に着替え謁見の間までお越しください!!」

「わかりました。伝令、ありがとうございます」


 兵士さんに頭を下げ、ドロシー先生に言う。


「申し訳ありません。用事ができましたのでまた」

「…………そうね」


 なぜか頬を膨らませるドロシー先生に頭を下げ、俺は着替えるため自室へ向かった。

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