赤の勇者、一般兵くらいには強くなる

「目を逸らすな!1 恐怖は動きを鈍らせるぞ!!」

「は、はいっ!!」


 デッサン人形を使った修行は終わり、本格的な模擬戦が始まった。

 相手はシギュン先生。横からプラウド先生が怒鳴り、悪いところを指摘する。

 今までは棒立ちの人形相手だったが、シギュン先生は頻繁に反撃してくるようになった。


「剣で受け、身体を使って躱せ!! 木剣なら骨折で済むが真剣ならあっという間に戦闘不能だぞ!! いいか、見て動け、恐怖に打ち勝て!!」

「はい!!」


 もちろん、手加減はしているのだろう。

 シギュン先生のすごいところは、俺に合った実力であいてをしてくれるところだ。自分で言うのもなんだが、俺ってばそこそこ強くなったと思う。それなのに、シギュン先生はその一歩上の実力で俺の相手をして叩きのめしてくれる。俺が強くなればその一歩上に実力を上げて戦うのだ。

 俺はシギュン先生と戦いながら隙を伺い───。


「───ここだ!! 二連斬り!!」


 渾身の二連斬りを叩き込む───が。


「残念」

「あらっ───あっだぁ!?」


 あっさり躱され、木剣でしこたま叩かれた。


 ◇◇◇◇◇◇


〇赤の勇者クレス レベル4

《スキル》

赤魔法 レベル3

剣技 レベル5

詠唱破棄 レベル1


 現在、俺のレベルは4まで上がった。

 やはり、魔法より剣技に力を入れてるからだろうか。新しい武技も習得し、シギュン先生との模擬戦にも力が入っている。


 剣技

・二連斬り

・兜割り

・疾風突き


 兜割りはジャンプ斬り。疾風突きはダッシュ突きだ。

 小学生の頃、傘を持つとよくやった遊びと同じだった。まぁこっちは遊びじゃなくガチで殺しにかかる技だけどな。

 剣技は順調にレベルが上がっている。魔法に関しても同じだ。

 ドロシー先生との魔法修行では。


「ファイア!! ファイア!! ファイア!!」

「……あのね、詠唱破棄があるんだから叫ばなくていいのよ」

「す、すみません。つい……」


 ついつい、ファイア!! 叫んでしまう意外は順調だ。

 だって魔法だし……日本人の精神を持つ俺にとって最高に気持ちいいんだもん。

 

「魔力総量も700まで上がってる。一流の魔法使いは最低でも2000の魔力が必要だけど、あんたは1000もあれば十分でしょう。レベルも剣技のが高いし、牽制くらいのレベルで」

「それじゃ駄目です!!」

「……なぜ?」

「俺は魔法をもっと使えるようになりたい。魔王軍相手に剣技だけ、魔法は牽制なんて考えじゃ駄目だと思うんです!!」


 俺は、前のクレスの記憶にある三人の魔王軍幹部を思い出す。

 漆黒の騎士ヒルデガルド。妖艶な美女ブラッドスキュラー、虎ミミ少女天仙娘々テンセンニャンニャン。あの化け物たちはきっと甘い考えでは倒せない。

 俺が倒すんじゃなくてロランを覚醒させ、黄金の勇者として戦ってもらう。俺はそのサポートをするために、最低限の強さを手に入れなければならない。


「ドロシー先生、俺に魔法を教えてください。俺は……強くなりたいんです!!」

「っ……な、なかなか言うじゃない。いいわ、これからはもっとスパルタで鍛えてあげる」

「はい!! よろしくお願いします!!」


 強くなる。そして……ロランを迎えに行くんだ!!


 ◇◇◇◇◇◇


 俺は鍛えた。

 一日の修行を終え、メシを喰ったら自主練習。筋トレやランニング、素振りを夜遅くまで行い、泥のように眠って三時起きし早朝ランニング。朝めしを喰って修行して魔法修行して自主練して……を繰り返した。

 若い身体はいい。寝れば回復するし、夜食を食べても太らない。

 夜食? ああ、実は……。


「勇者さま、お疲れ様です」

「ああ。いつもありがとう、メリッサ」


 メリッサが、夜食を届けてくれるようになった。

 自主練で練習場で剣を振るう俺を見かけ、毎日毎晩差し入れをしてくれるようになった。サンドイッチの具を毎回変え、タオルやドリンクもくれる。

 夜の訓練において、マネージャーみたいな存在だ。本当にありがたい。

 今日も、汗だくで演習場で自主練していると、タオルとバスケットを持ったメリッサが来てくれた。


「お疲れ様です勇者さま、そろそろ休憩のお時間です!」

「ああ、わかった」


 時間にして夜の11時くらいか。月明かりだけの練習場だがけっこう明るい。

 メリッサが地面に布を敷き、その上に夜食を並べる。


「相変わらずすごいな。メリッサの夜食」

「余りもので申し訳ないのですが……」

「いやいや、助かってるよ。このサンドイッチが俺のエネルギーになってる」

「あ、ありがとうございます」


 サンドイッチを頬張りながら、なんとなく聞いてみた。


「なぁ、メリッサはどんなスキル持ってるんだ?」

「わたしですか? わたしは『掃除』と『裁縫』くらい……あとはその、最近になって『料理』のスキルを習得しました」

「あ、この夜食?」

「はい。勇者さまのおかげです。レベルを上げれば料理人補佐の仕事につけるかもしれません。今はレベル1ですけど、レベル10まで上げればなんとか」

「へぇ~。料理かぁ……」


 この夜食作りが役に立ってるならよかった。あ、そうだ。


「あのさ、この夜食の食材って」

「余り物です。廃棄予定の食材とか……あ!! もちろん悪い素材じゃないんです。ちゃんと食べられる」

「わかってるよ。そっか、見つかったらヤバいかな?」

「だ、大丈夫です。使用人邸のキッチンで料理してますし」

「そっか……じゃあさ、こうしよう」


 俺はポケットから小袋を取り出し、メリッサに渡す。

 中身は金貨。そう、俺のお小遣いだ。この世界に通貨は金貨、銀貨、銅貨、そしてお札。通貨や価格も日本とそんなに変わらない。


「こ、これ……」

「食費と手間賃だよ。メリッサに甘えてばかりじゃ悪いしな。これで食材を買って夜食を用意してくれ。残りはバイト代……じゃなくて、手間賃としてメリッサにあげる」

「で、ですがこんな大金!!」

「いいよ別に。金はもらったけど修行で忙しくて使ってないし。こんな美味しい夜食がタダで食べられる方がおかしいからな」

「で、ですが……」


 袋の中は、金貨十枚と札が十枚ほど入っている。金貨が500円、札は一万円札が10枚ってところだ。105000円……ちょっと渡しすぎたかな。まぁいいや。

 恐縮するメリッサに、俺は背筋を伸ばして言う。


「ではメリッサに命じる。そのお金でこれからも美味しいサンドイッチをよろしく頼む。あ、高級な食材とか買って来いって言ってるわけじゃないぞ。いつも通りの素朴な……あはは、すまん」

「……っぷ、あははっ! わかりました、このメリッサにお任せを」


 メリッサはようやく笑った。

 俺はお茶をもらい、一気に飲み干す。


「うっし。じゃあ修行再開といきますか!!」


 俺はまだまだ強くなる。

 強くなって、ロランを迎えに行って、黄金の勇者を覚醒させて魔王を倒させる!!




〇赤の勇者クレス レベル4

《スキル》

赤魔法 レベル3

剣技 レベル5

詠唱破棄 レベル1

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