赤の勇者、魔法と武技の訓練

「あんたの魔力総量は500ね。ま、一般人の二倍くらい」

「……それはすごいんですか?」

「なんの訓練もしていない一般人が200くらい。スキルを持つ魔法使いが400くらいだから、普通より少し多いくらい……ま、いいんじゃない?」

「そ、そうですか。ちなみにドロシー先生はどのくらい?」

「あたしは8000ね」

「…………」


 俺の魔力量は500、ドロシー先生は8000……16倍かよ。

 一般人より多く、並の魔法使いのちょっと上か。まぁ高望みはしない。

 魔法の訓練が始まり三日。ドロシー先生と一緒に俺の魔力量を調べた。まぁ、チートを期待していなかったといえば噓になる。本当のチート持ちはロランだから別にいい。

 まずは、俺を鍛えなければ。ロランのことは後回しだ。


「じゃ、始めるわよ。まずはおさらい、詠唱ありでいいから魔力がなくなるまでファイアを撃って。魔力が枯渇したらエーテルを飲んで回復。無詠唱でファイアが使えるまでやるわよ」

「はい!!」


 エーテルというのは魔力を回復させる薬だ。魔力が枯渇すると素振りの比ではないくらい疲労する。その状態で魔力を回復させると、魔力総量が少し上がるらしい。

 ドロシー先生はこの方法で魔力総量を上げた。


「無詠唱で魔法を使えて、なおかつ魔力総量も上がる。まずは初級魔法のファイアを極めなさい。詠唱ありの状態でも中級くらいの威力はあるから、実戦で大いに役立つわ」

「はい!!」

「…………今さらだけど、あんた素直ね」

「先生の指導を受ける身ですから。当然ですよ」

「ふーん……今までの奴らはあたしを女だとか子供だとか言って舐めた態度取ってたけど、あんたは違うみたいね。ホントはどう思ってる? 同世代の女の子にタメ口利かれて、先生だとか呼ばなくちゃいけないなんて嫌じゃないの?」

「全く思いません。俺が魔法を使えないのは事実ですし、ドロシー先生の授業が素晴らしいのも事実です。それに、先生の授業……俺は好きですよ」

「っ!! そ、そう……じゃ、さっさと始めなさい」

「はい!!」


 なぜかドロシー先生はそっぽ向いた……生意気なこと言って怒らせたのかな。

 よし、失態は魔法で取り返そう。

 今日中に無詠唱のファイアを極めてやる!!


 ◇◇◇◇◇◇


 無詠唱ファイア。

 呪文はわかっている。それを一瞬で頭の中に浮かべることだ。一字一句間違えてはいけない。

 「あ」という文字は頭に一瞬で浮かぶ。それを「燃え上がる炎、焼き尽くせ、ファイア」に置き換えるだけだ。簡単じゃないか。


「はっ!!」


 手のひらを天にかざす。ダメだ出ない。

 大丈夫。できる。頭の中に浮かべろ。

『燃え上がる炎、焼き尽くせ、ファイア』を頭に浮かべるだけだ。

 出ろ。出ろ。浮かべろ。


「───はっ!! おぉぉっ!?」


 出た。ファイア。

 無詠唱。呪文が浮かんだ。一瞬で。

 忘れるな。連発だ。浮かべろ。


「はっ!! はぁっ!! 燃えろっ!!」


 わかった。コツを摑んだ。出る、出るぞ。ファイアが出る!!

 あ、きた。


〇赤の勇者クレス レベル2

《スキル》

赤魔法 レベル2

剣技 レベル2

詠唱破棄 レベル1


 赤魔法のレベルが上がった。お、総合レベルも上がった。

 無詠唱でファイアを撃つのが条件だったのか? なんか新しいスキルも覚えてる。詠唱破棄。


「───やめ」


 ドロシー先生? 何言ってんだ? あれ、身体が重い?


「止めなさい!! すでに魔力が枯渇している!! これ以上は死ぬわよ!! あぁもう、ウォータ!!」

「ぶへっ!?」


 水の玉を顔面に喰らい、ようやく俺の手からファイアが止まった。

 なんか記憶がおぼろげだ。身体に力が入らず地面に倒れてしまう。すると、ドロシー先生が仰向けに起こし、エーテルの瓶を口元に持ってきてくれた。


「飲みなさい。ゆっくり……」

「ぅ……」


 冷たいエーテル。あぁこれ、元気ハツラツなアレに似てる味なんだよな。うまい……はぁ~、ちょっとづつ身体が動くようになってきた。


「ドロシー先生、赤魔法のレベルが上がりました。それと、詠唱破棄?ってスキルも」

「……大したものね。一つの魔法に身も心も完全に集中することで手に入る『詠唱破棄』スキルを、レベル2に上がると同時に習得するなんて。詠唱破棄は本来、レベル20以上になって初めて手に入るスキルよ」

「そ、そうなんですか?」

「ええ。レベル1の場合、二小節以下の呪文を破棄することができる。レベルが上がれば複雑な呪文も呪文なしで発動できるようになるわ」

「お、ぉぉぉ……もしかして、レアなスキル?」

「そうね。少なくとも、この王国では五十人くらいしか持ってないスキルよ」

「…………」


 お、多いのか少ないのかよくわからん。五十ってひとクラス以上だけど。

 当然、ドロシー先生は持っていた。


「さ、立ちなさい。レベルアップしたことで新しい呪文を習得してるはずよ。

「新魔法!?」


 俺は立ち上がり、ステータス画面をチェック。


 赤魔法 レベル2

・ファイア

・ハイファイア

・ファイアウォール


「おお!! ハイファイアにファイアウォール、一気に二つも!!」

「ハイファイアはファイアの上位、ファイアウォールは炎の壁を作りだす魔法よ。まずは普通に魔法を使いなさい。赤魔法のレベルと詠唱破棄のレベルを上げれば呪文なしでも撃てるようになるわ」

「はい!!」

「詠唱破棄があるなら魔法使い向きだけど……あなたは赤の勇者、前衛だからね。ちょっとだけ惜しく感じるわ」

「…………」


 そっか。後衛には青の勇者……シルキーがいるんだっけ。

 魔法が使えるから魔法使いになった気でいた。そうだよ、俺ってば前衛で剣を振るう役だわ。


「でも、覚えておいて損はないわ。あたしの指導にも付いてこれるようだし、これからも励むように」

「はい。俺、ドロシー先生に付いて行きます。これからもご指導、よろしくお願いします!!」

「任せなさい。青の勇者に引けを取らない魔法使いにしてあげる」

「はい!! 俺、ドロシー先生に会えてよかったです!!」

「───っ、そ、そう」


 なぜか赤くなりそっぽ向くドロシー先生。俺、またヤバいこと言ったかな。


 ◇◇◇◇◇◇


 剣技、魔法の修行が始まり二十日が経過した。

 

「打て打て打て打て!! 手を休めることなく打て!!」

「はいっ!!」


 木剣を振る。手には硬い感触。

 相手はシギュン先生。プラウド先生が怒鳴り、俺はその通りに動く。

 人形を卒業し、今では対人訓練中。

 遠慮なく打ちこめと言うのだが少し戸惑った。そしたらシギュン先生が「どうせ当たらんから」と言うので遠慮なく打ちこむ……すると、本当に当たらない。

 シギュン先生も木剣なのに、俺の渾身の剣を難なく捌く。


「クレス、シギュンをよく見ろ───!!」

「───」


 見た。シギュン先生の空気が変わった。今日も美人だ。

 手の動きがおかしい。なんだこれ……手が四本に見える。

 

「───っぐ!?」


 胸を叩かれた。二回パパンと叩かれた。

 木剣が手から離れ、俺は地面を転がる……すぐにわかった。かなり手加減している。

 シギュン先生が俺に手を差し伸べたので掴んで立ちあがる。


「い、いってぇ……い、今のは?」

「今のが『武技』だ」

「武技……」

「ああ。剣技スキルの武技の一つ『二連斬り』だ。一瞬で二度の斬撃を叩き込む武技というわけだ」

「ちなみに、騎士団に入団する兵士の必須武技でもあるの」


 シギュン先生が微笑む。くそ、美人過ぎる。

 でも、なんとなくわかった。


「この二十日で武技を扱える程度の土台はできている。今のシギュンの動きを真似して全力で叩いてみろ」

「はい!!」


 プラウド先生が用意した人形の前に立つ俺。

 シギュン先生の動き。二連斬り……ゲームでもああいう技があったな。

 いける。構えて……狙え。


「───いきます!!」


 二連斬り。一瞬で二回斬るという単純な技だ。

 俺は全力でシギュン先生の動きを模倣する。

 そうか、わかった。武技も魔法と同じ。いける。


「せいはぁぁぁっ!!」


 パパン!! と、人形を二回斬りつける。

 来た。ステータス画面を。


〇赤の勇者クレス レベル2

《スキル》

赤魔法 レベル2

剣技 レベル3

詠唱破棄 レベル1


 やった。剣技レベル上がった。

 魔法と同じく剣技の項目をチェックする。


 剣技 レベル3

・二連斬り 熟練度1


 覚えてる。やった、やったぞ。二連斬りを習得した!!


「よくやった。上出来だ」

「プラウド先生、二連斬りを習得できました!! ステータス画面に二連斬りの」

「落ち着け。確かに二連斬りを習得したが、熟練度はまだまだ低いはずだ。武技を使い続ければ熟練度が上がって威力も向上する」

「熟練度……」

「見ろ」


 すると、シギュン先生が人形前に。

 そして、一瞬だけ姿がぶれたと思ったら、人形が爆発したように砕け散った。


「あれが王国最強騎士シギュンの二連斬りだ」

「…………爆発したんですけど」

「ふふ。クレスもいずれここまでできるようになるわ」


 絶・対・無・理。

 デッサン人形を爆破するくらいの剣技ってヤバすぎる。もうシギュン先生が魔王討伐したほうがいいんじゃね?って思った。


 でも、いける。

 俺は強くなれる。

 前の勇者クレスとは違う。曽山光一の意志を持ったクレスはどこまでも強くなれる!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る