赤の勇者、真面目に訓練
「では、素振り始め!!」
「はいっ!!」
訓練が始まって10日。素振りにもようやく慣れてきた。
上段、中段、下段の素振りを繰り返し、最後に上中下段の素振りを行う。八日目には変化を付けた素振りも行った。
例えば、上上下段、中上下段、下中上段と、シギュン先生の指示でコンビネーション素振りを繰り返すのである。
現在、素振りのみの剣術だが、この日は違った。
素振りを終えても突っ伏すことなく立っていられるようになり、息切れこそするがまだ動ける状態になった。するとプラウド先生が言う。
「素振りを初めて十日目、少しは体力が付いてきたな。本日より的を使った訓練を始める。シギュン」
「はい」
シギュン先生が持ってきたのは、デッサン人形のような人型の的だ。
プラウド先生が木剣を握り、シギュン先生が息を吸う。
「上中下段!!」
「はっはっはぁぁっ!!」
「上上下、中上下、上上下段!!」
「はぁぁぁぁっ!!」
「お、おぉぉ……」
シギュン先生の指示の元、木剣を的確に振ってデッサン人形を叩くプラウド先生。剣の鋭さ、威力、速度、どれも俺とは比較にならない。熟練の腕前である。
見惚れていると、プラウド先生の剣が止まる。
「まずは下手でも打ちこむこと……試してみろ」
「はい!!」
木剣を受け取り、息を整える。
上段は頭、中段は胴、下段は腿……何度も何度も素振りした。今ならわかる、これは対人の剣術訓練だ。もちろん実戦はこの通りいかないことはわかってる。でも、剣を振るうことが大事なんだ。
「上上下段!!」
「だぁぁぁぁっ!!」
上段、上段、下段。剣が的に当たる。硬い。実戦は真剣。
手に伝わる硬い感触……そうか、これが剣術なんだ。
「中下上、下下上、中上下段!!」
「はぁぁっ!! だりゃぁぁぁっ!!」
指示は聞こえる。でも、違う部位を狙ってしまった。顔をしかめるが打つ、打つ、打つ。
硬い感触が途切れない。実戦では真剣、これは木剣だ。
いける。俺は剣を使っている。
「───そこまで!!」
シギュン先生の声で剣を止め、気が付いた。
〇赤の勇者クレス レベル1
《スキル》
赤魔法 レベル1
剣技 レベル2
剣技のレベルが上がった。
レベル2だ。初めてのレベルアップだ。
「レベルが上がっただろう?」
「は、はい。プラウド先生」
「剣技を理解し、型を習得し剣術を使用する。これにより剣技のスキルは経験値を得てレベルが上がる」
「はい。言葉では伝えにくいんですけど、その……なんとなくつかめました」
「そうだ。その感覚を忘れるな。剣技のレベルが上がればその分強くなる。今はスキルのレベルだけを上げたが、武技を習得すればスキルレベルに応じて威力も上がる」
「おぉ……」
本当にゲームみたいだ。スキルとかレベルとか武技とか……やっばい、楽しみすぎる。
「素振りは毎日行い、今の的打ちも訓練項目に加える。慣れてきたら模擬戦、そして実戦だ。武技の習得も合わせて行うので覚悟しておけ」
「はい!! よろしくお願いいたします。プラウド先生、シギュン先生!!」
頭を下げると、シギュン先生が微笑む。
「あなた、なかなか筋がいいわ。勇者様というのは伊達じゃないわね」
「お? なんだ、シギュンが褒めるなんて珍しいじゃないか。新人殺しと呼ばれた鬼教官さん?」
「うるさいわね。あなたも新兵殺しって呼ばれてるじゃないの」
「…………」
いやあの、そんな二つ名あったんですか、あんたら……。
ま、まぁとにかくだ。素振りや的打ちを繰り返してレベルを上げて、武技を習得するのがひとまずの目標だ。もう過去のクレスとは違う。真面目に訓練するぞ!!
プラウド先生とシギュン先生は何やら喧嘩しているが、俺は頭を下げた。
「改めて、よろしくお願いします!!」
「おう、厳しくいくから覚悟しておけ!!」
「ふふ、久しぶりに楽しくなってきたわ」
よし、この調子で頑張るぞ!!
「あ、そうだ。そろそろ魔法の修行も始まるからな」
「え」
今までは毎日剣の修行だったが、魔法の勉強も始まった。
◇◇◇◇◇◇
ここは、魔法専用の演習場。
今日はここで、魔法の習得訓練を行う。
魔法。
魔法神殿で祈りを行うことで得られるスキル。だが、才能ある者でないと習得できないらしい。
祈りを捧げる年齢は何歳からでもいいが、若ければ若いほど可能性があるそうだ。
なので、魔法使いは基本的に若い。
俺の魔法の先生もすごく若い。
「はじめまして。あなたに魔法を教えるドロシーよ」
「よ、よろしくお願いします。ドロシー先生」
「あら意外。あたしみたいな小娘に頭を下げるなんてね。あなたの前の評判を聞いたときは嫌だったけど、剣術を習い始めてずいぶんと変わったようね」
ドロシー先生。
前のクレスのときも魔法を教えてくれたけど、クレスの態度があまりにもひどかったので十五分で辞めちゃった先生だ。
長い黒髪にいかにも魔女って感じのとんがり帽子、すらっとしたドレスを着て、片眼鏡をかけた同い年くらいの少女だ。こうみえてアストルム王国きっての有名魔法使いで、飛び級で魔法学校を卒業し、教鞭を振るう才女なのだ。
「あなた、赤魔法のスキルを持っているのね。あたしは青魔法と緑魔法と黄魔法のスキルを持ってるんだけど安心なさい。魔法のレベルや『魔技』に関してあたしにわからないことはないわ」
「は、はい」
すっげー喋るなこの子……おっと、この子は失礼か。先生だし敬意を払わねば。
「赤は攻撃魔法しか覚えないけど、攻撃特化の赤の勇者にはピッタリね。今のレベルは?」
「い、1です」
「なら、まずはレベル10を目標にするわ。悪いけど勇者だからって手は抜かない。あんたがどうしようもない奴ならソッコーで辞めるから。あたしの教えが欲しければ死ぬ気で学びなさい」
「は、はい!!」
ど、毒舌……プラウド先生とは違う意味で怖いな。
「まずは初歩の初歩。赤魔法の初級魔法を使うわ。ステータス画面を思い浮かべなさい」
「は、はい」
いきなりかい。
でも、言われた通りにする。
〇赤の勇者クレス レベル1
《スキル》
赤魔法 レベル1
剣技 レベル2
「思い浮かべたら、赤魔法の項目に集中」
「は、はい……」
赤魔法 レベル1
・ファイア
「初級呪文が見えるわね? さらに集中なさい」
「は……はい。ぅぅ、地味にしんどい」
「いーからさっさとしなさい」
「は、はい!!」
ファイア
『燃え上がる炎、焼き尽くせ、ファイア』
「文章が見えるわね? それが詠唱文よ。手を上空に向けてその文章を読みなさい」
「は、はいっ!! 燃え上がる炎、焼き尽くせ、ファイア!!」
次の瞬間、俺の右掌から炎が噴き出した。
火炎放射器とは違う。直径一メートルくらいの炎の塊が飛び出し、空の彼方へ消えていった。
魔法。これが魔法なのか。
「驚いたわね。初級なのに中級くらいの威力じゃない。ああ、これが攻撃特化の赤の勇者なのね」
「す、すごい……」
「レベルが上がれば使える魔法も増えるし、威力も上がっていくわ。今は今みたいにダサい詠唱をそのまま喋っていいけど、最終的には詠唱なしで打てるようになりなさい」
「え、そんなことできるんですか?」
「できるわ。感覚よ感覚。一度無詠唱で撃てたらできるようになるから」
「なるほど」
自転車に乗るようなもんか。
小学生のときに乗れるようになった自転車に乗らなくなって十年以上経過したけど、二十五になって乗ってみたら普通にのれたしな。
「魔法は魔力を消費して発動する。魔力量は個人差があるから、あんたの魔力量をあとで調べるわ。ああ、レベルが上がれば魔力も増えるから安心なさい。魔力の消費を抑えるアイテムとかもあるしね」
「ほうほう、それは面白そうですな」
「とりあえず、筋はよさそうね。ステータス画面から詠唱画面まで表示するの、慣れてないと十日くらいかかるんだけどね。あんたは初見でやったから筋がいいわ」
「え、そうなんですか?」
「ええ。ま、あたしの授業を受ければレベル10なんてすぐよ」
「が、頑張ります」
頭を下げ、ドロシー先生の正面を向く……意外と身長が高いな。目線がぴったり合う。
「あの、ドロシー先生のレベルっていくつですか?」
「他人のレベルを聞くのはマナー違反よ」
そ、そうなんだ……プラウド先生たちに聞かなくてよかった。
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