3(9)-4 昼休みの屋上

その日の昼休み。朝のうちに連絡を取り、今日は有希人とともに屋上で昼飯を食べていた。

「それで何の用なんだい? サボり魔サン」

 購買のサンドウィッチを食べながら有希人が問いかけてきた。ちなみに俺は舞花が作ってくれた弁当を食べている。今日も変わらず美味い。

「開口一番サボり魔扱いかよ」

「実際に昨日サボったじゃない」

「訳は分かるだろ? しかも一回サボっただけじゃ『魔』は付かないだろ」

「……それもそうだね」

 すぐに納得する有希人。コイツにしてみればあんまりこだわるような話題ではなかったらしい。

「それでなんだけど……」

「昨日のことか?」

 俺は先回りして有希人に訊いてみた。

「いや、そうじゃなくて……」

 どうやら間違えていたらしい。少し残念だ。

「あ、昨日のことも後で訊くよ」

 表情に出ていたのだろう。有希人が付け加えた。

「で、まず今後の方針を決めよう」

 本題はこれらしい。

「方針?」

 俺は問い返した。

「そう、方針。まず、これはほぼ確定だと思うけど二林サンの死は止める。これでいいかい?」

「あ、当たり前だろ!!」

 思わず声が大きくなる。いきなり大きな声を出したので有希人が驚きながら耳を塞いでいた。

「秀クン、もう少し静かにしてよ」

「あ、あぁ。分かった」

 申し訳ない気もするが、今のは有希人が悪い。

「次にどうやってそれを止めるかだけど……。事故の状況が分かってない今は『なぜそうなったのか』を突き止めないとね」

「たしかにその通りだな」

 俺たちは『舞花が事故にあう』ことはしていても、具体的に『どういう事故にあう』のかはまだ知らないし、もっと言えばあの状況が事故であるか事件であるかも知らないのだ。

「それで昨日考えたことがあるんだ」

「それは?」

「逆行した先の時間のことだよ」

 思わず首を傾げる。また良く分からない話になる流れかもしれない。

「逆行した先の時間っていうのは、要するに君が未来から過去に戻って目覚めたタイミングのこと。よく考えればこれって変だよね?」

「俺が目覚めるのは昨日、つまり5日の夕方だ。それがどう変なんだ?」

「だってその日に事故は起こってない」

「そりゃそうだろ。事故は明日、7日に起こるんだぞ?」

「うん、だから5日に逆行するのはおかしいんだ」

(…? どういうことだ?)

 分かるような、分からないような。そんな微妙な表情を浮かべていたのか、有希人はよりかみ砕いて説明を始めてくれた。

「いいかい? ボクらの目的は『事故を止める事』。これが目的なら逆行するのは7日でいいんだ。事故は7日に起きるんだから、その日に戻って事故を止める方が時間的なロスがなくて合理的だろ」

「言われてみれば、確かにその通りだな」

「でも逆行する先は5日。これがなぜなのか、ボクなりに考えてみたんだ。ここから先は仮説になるけど、いい?」

「あぁ、構わない」

 俺の頭では考えつかなかっただろうことだ。仮説でもなんでも聞いておきたい。

「5日に事故につながる『なにか』が起こるんじゃないかな? その『なにか』を知らなければ事故は止められないのかもしれない」

(『なにか』、か)

 もちろん心当たりはあった。

「この仮説が正しければ、昨日の秀クンの行動は大正解だったよ。その顔、やっぱり昨日『なにか』があったんだね?」

 思っていたことが表情に出ていたのだろうか。有希人は少し自慢げな表情をしていた。

「確かにあったけど……」

(あの話を話していいものなのか?)

 昨日の出来事は舞花のプライバシーに密接に関わっているだろう内容だ。おいそれ話してしまっていいもの躊躇いがある。

(でも有希人は現状を知ってる唯一の仲間だ。俺にはない視点も出来れば欲しい)

 有希人は普段こそ軽そうな言動をしているが、根は真面目で他人思いな奴だ。そこは信頼している。だから、

「……絶対に口外しないと約束できるか?」

「もちろん」

 有希人は即答した。その姿に俺は力強く頷いた。

「実は昨日の帰りに――」



「なるほど」

 話を聞いた有希人の反応は意外とあっさりしていた。

「あぁ、ごめんよ。軽く流してるってわけじゃないんだ。でも話がいきなり過ぎてちょっと理解が追い付いてないっていうか」

「そりゃそうだよな」

 納得する俺。直接話を聞いていた俺でさえあまりに突拍子がない話だと思ったほどだ。

「えぇと、秀クンはどう思う?」

「どうって?」

 有希人が俺に問いかけるが、その意味は良く分からなかった。

「その人――織条サンだっけ?――の言って事は本当だと思うかってこと」

「個人的な感想をいえば嘘であることを願うが、たぶん本当だな」

 俺は確信を持ちながら有希人の問いに答えた。

「なんで?」

「織条さんはまっすぐに舞花の事を見て話していた。嘘を吐いているなら相手のことをまっすぐ見るなんて無理だ。おばさんの出産がどうのって話にも蹴りがつく。舞花を産んだのは織条さんだから、おばさんはそのことを話せないんだ」

 俺は一気に自分の考えを打ち明ける。

「出産?」

 そういえばまだ言ってなかったな。

 俺は昨日の廊下で舞花から聞いた話をかいつまんで有希人に説明した。

「なるほどね」

 話を聞き終えると有希人はゆっくりと頷いた。有希人の中でも話がつながったのだろう。

「これが事故につながる『なにか』なのか?」

 今度は俺が有希人に問う。

「だろうね。どう繋がるかは分からないけど」

 有希人がそう言うのとほぼ同時に、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

「……ここまでみたいだね。それじゃ、頑張って」

 有希人が俺を励ますかのようにそう言った。

「おうよ」

 俺はそれに答え、俺達はそれぞれの教室に向かった。

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