3(9)-3 彼女との朝
ピッ………
アラームが鳴った瞬間に目覚ましを止めた。
「見たか、この野郎!」
携帯をベッドに向かって放り投げながら俺は勝ち誇ったように言い放つ。
……自分でも分かるくらいのアホな行動。徹夜明けのテンションなんて毎回こんなもんだ。正確には徹夜じゃなくて早朝から起きていただけだが。
「さてと」
今朝は舞花が起こしにこないのはもう分かっている。俺は既に制服への着替えを終えているので、そのままリビングに向かうことにした。
まだ少しおかしなテンションを引きずったまま俺は部屋のドアを開けて、勢いよく廊下に出る。すると――
ゴンッ!
「……イッたぁ」
肩のあたりに可愛い声を出すナニカがぶっつかった。
(嫌な予感がする……)
今、俺の耳には若い女性の声が聞こえた。そして今この二林家に若い女性は、おばさんには失礼だが、一人しかいない。つまりは――
「しゅ~~う~~……!」
やっぱりこの声は舞花だ。しかも相当に恨めしそうな口調だったりする。俺は横に向き直って、
「おはよう、舞花!」
とりあえず爽やかに朝の挨拶をしてみた。
「ずいぶんと派手な挨拶じゃない?」
鼻の頭を抑えてご立腹の舞花がそこにいた。部屋から出た直後の俺にぶつかったのだろう。身長に差があったので俺は肩、舞花は鼻がぶつかったのだ。
「そうだな……」
反論できない俺。
「秀! 前から言ってるけど、周りにはしっかりと注意をはらって―――」
そこで始まった舞花の説教は、結局騒ぎを気にしたおばさんが止めに来るまで続いた。説教をされていい気はしなかったが、昨日のことで舞花は元気がないかもしれないと心配していた俺にとっては、むしろ嬉しいことでもあった。
「はぁ……」
一階のリビングに向かうために階段を降りながら溜息を一つ。
「ねぇ、秀」
隣を歩いていた舞花が話しかけてくる。まだ説教し足りないのだろうか?
「本当に悪かったって。今度からは注意するよ」
俺はとりあえず本気で謝ることにした。
「いや、そうじゃなくて……」
「へ?」
なら何なのだろう。
「その、おはよう。まだ言ってなかったでしょ?」
舞花は少し恥ずかしそうにそっぽを向いたまま呟いた。
(可愛い…!!)
俺にはその姿がとても可愛く見えた。
「どうしたのよ?」
ずっと見つめたままの俺に、舞花は振り返って不思議そうに尋ねた。
「いや、その、別に……」
俺は恥ずかしさからとっさに目を逸らした。
「?」
舞花は不思議そうな表情のままだった。
朝の通学路。
いつも通り少し早めの時間に舞花とともに登校する。他愛もない会話を繰り返していると、唐突に舞花が俺に質問を投げかけてきた。
「で、秀。あんた数学の課題はやってきたの?」
俺は待ってましたとばかりに言い放つ。
「やってきたぜ」
「……本当に?」
「……なんで最初に出てくるのが疑問なんだよ?」
「普段の行いのせいじゃない?」
「………」
残念なことに俺自身その言葉に共感してしまうので、反論はできない。
「それでどのくらい解けたの?」
少々疑い気味に訊いてくる舞花。
「一応全部解いたぞ」
「……本当に?」
「……教科書と、格闘しながら」
恥ずかしながら、課題には訳の分からない言語の羅列していた。sinだのtanだの意味不明な記号が踊るそれに対して、俺はいつもより数時間早く起きて闘いを挑んでいた。その結果が今朝の異様なテンションだったりする。
しかし無気力のふりを止めると決めた。こういう部分でも変わっていかないといけない。
「そんなことだろうと思ったわ」
俺の返事に舞花は少し呆れていた。
「しょうがないわね。今度教えてあげるわ」
「マジで?」
「こんなことで嘘ついても仕方ないでしょ」
願ってもないことだった。舞花の成績は学年でもかなり上位の方で、そんな舞花に勉強を教えてもらえるというのはとても心強いことだ。
「よろしくお願いします!!」
ビシッと運動部仕込みのお辞儀をする俺に、舞花は吹きだすように笑った。
こんな日常がずっと続いたらいい。いや続けれられるようにしないといけないんだ。
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