X-3 / 3(9)-0 Into the dark / On your mark

「――さて、面倒だから単刀直入にいこうか。秀クン、君は二林サンと一緒にいて何か感じることないの?」

 どことなく面倒臭そうな顔をしながら有希人がそんなことを聞いてきた。

「感じることっていってもなぁ……」

 舞花になにか特別に感じることはない……と思う。

「いいからよく考えてみてよ。二林サンのことどう思ってるの?」

「舞花のことかぁ」

 俺は舞花のことを思い出す。

「まず口うるさくいだろ、それでクソ真面目、お節介焼き」

 有希人は続けてというように静かに頷く。

「でもちょっと抜けてて、慌てやすいところもあるんだ。そういうところはフォローしてやらないと」

 舞花のことを一つずつ思い出しながら、俺は続ける。

「それからなんでも一人で抱えるところがあるんだ。できれば俺が支えてやりたいけど、どうすりゃいいかなぁ」

 だんだんと有希人の顔がニヤニヤと生暖かい表情になってきた気がする。

「それで、一緒に居ると楽しくて、暖かい気持ちになる。普段は恥ずかしくてからかっちまうけど、ずっと一緒に居たいな」

「そこまで出てくればもう分かるでしょ?」

「……ああ」

 俺には恋愛の経験はない。でもそういく漫画を読むことはあるし、クラスメイトのそういう話を聞くことだってある。そうやって得た知識と比べれば、この気持ちが何なのかはすぐに分かった。

「……俺、舞花のこと好きだったんだな」

 声に出したその言葉はすんなりと俺の心の中心に収まった。

「やっっっと気付いたんだね」

 有希人はグッと溜めを作って言った。しかも深いため息付きだ。

「キミたち2人はさ、一緒にいるともう周りが介入できないくらい『2人の空間です』オーラ出しまくってるのに、これかぁ。もう半年も全然進展がないあたり、二林サンも自覚なしの可能性もでてきたなぁ」

「……そんなオーラ出てたの?」

「出・て・ま・し・た・!」

 なんだかおかしくなって俺たちは声を上げて笑った。なんだか随分と久しぶりに笑った気がする。


「なぁ」

「ん?」

 ひとしきり笑い終わった後、俺は静かに有希人に話しかけた。雰囲気を察してくれたのか

有希人は真面目な表情で答えてくれた。

「俺、舞花を助けられるかな」

「……分からないよ」

 有希人は言葉を選びながらも、正直に答えてくれた。

「でも、やるんでしょ?」

「ああ」

 俺は頷く。

「『好きな子の命がかかってるなら本気を出せ』、そう教えてくれた親友がいるからな」

 やっと自覚したこの気持ちをまだ伝えてすらいない。ここで本気を出さないわけにはいかない。

「急に親友なんて言わないでよ、恥ずかしい」

 有希人はそっぽを向いてしまった。耳まで真っ赤になっているので、どんな顔の色をしてるかは丸わかりだった。

「……あのさ」

「何?」

 俺の問いかけに有希人はそっぽを向いたまま答えた。

「俺と会ってガッカリしなかったか? お前にとっては、その、ヒーローだったんだろ、俺。でも初めて会ったときには俺はもうこんなになってってさ、それで――」

「ガッカリなんてしなかったよ」

 俺の言葉を遮るように有希人が答えた。

「最初に合ったときに『どうして?』って気持ちが大きかったのは確かかもしれない。でもそのあと事情を聞いて、それもなくなった。それから一緒に当番やったり、くだらないこと離したりして、今になってはヒーローのキミに出会わなくてよかったなって思ってる」

「……どうして?」

「だってヒーローとヒーローに救われた少年じゃ、し、親友にはなれないでしょ?」

 『親友』のところが恥ずかしかったのか、ちょっと口ごもっていた。

 またしても耳まで赤くなっている。不覚にも少し可愛いと思ってしまった。


 そんな他愛もない、でも俺たちにとっては大切な話をしていると、辺りの風景が少しずつ変化してきた。闇がこの空間を、俺たちを侵食し始めてきたのだ。

「そろそろ時間だね」

「ああ」

 今なら分かる。この闇は俺が逆行して向かう先、つまり舞花がまだ生きている現実だ。だから俺はこの闇に融けることに安堵していた。舞花の死という耐え難い現実から逃避できるから。

 でも、もう俺はそれに甘えたりはしない。前に進んでいくんだ。舞花を救い、ずっと続いていく現実を生きていくと決めた。

「……どうにかなる、よな?」

「どうしたの、弱気になって」

「いや、なんかもう色々と手遅れかもしれないと思ってさ」

「……知らないの?」

「何を?」

「キミは遅れを挽回して最上の結果を出すの、得意でしょ?」

「……ああ、そうだ。そうだったな」

 俺たちは力強く頷き合い、そして笑った。

 

そして二つの肉体と魂は闇と一つになっていった。

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