♯X

3(9)-0 / 8-6? Into the < >

闇が広がっていた。

この光景も見慣れてきた。

それでも恐怖は消えない。

この魂が闇と分離していることはやはり恐怖なのだ。

それから解放される方法は一つだけ。

この闇に融けてしまうことだけだ。

だからもう考える必要なんてない。

恐怖から解放され、安堵を得られるのだ。

ならばもうそれ以外のことなんて必要ない。

逆らうことなく、ただ身を任せればいいのだ。

そうして闇と一つになるだけでいいのだ。

だから――

「ゴメンね、少し待ってくれないか?」

ふと声がした。

この魂しか存在しない場所にいつの間にか人がいた。

その姿は、銀髪の、小柄な、少女にも見える、少年だった。

(君はだれ?)

「ボク? ボクは榊有希人。君を良く知る人物であり、君がよく知る人物でもある」

魂の中で呟いた言葉は彼に届いたらしい。

(君は僕/私/俺のことを知っているの?)

「うん。だからキミはキミとしてあるべき姿を思い出そう」

(あるべき姿?)

「そう、あるべき姿だよ。もう目覚めたらどうだい?」

少年はゆっくりと、そしてはっきりとした声で言葉を紡ぐ。

「秀クン」

 その言葉を少年――有希人が呟いた瞬間、『俺』は肉体と精神を取り戻した。

「おはよう、秀クン」

「なぁ、有希人。分からないことだらけなんだが、説明してくれるか?」

「あぁ、もちろんね」

 いつもと同じ調子で有希人は快諾してくれた。


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