2(8)-3 End point / Divided consciousness
『10/7 Thur. 12:46』
何度見ても変わることなくその時刻は表示され続けた。
昼休みの書庫。俺はそこで蔵書の整理に当たっていた。隣に立っているのは有希人。普段の半分――もしくはそれ以上にふざけた口調からは想像できない真面目さで作業を続けている。
「サボってないでサッサと仕事しようよ」
このセリフを有希人が言うのも分かっていた。
「でさ、秀クン。二林サンとなんかあったの?」
記憶と同じように有希人に問われた。
「あった、のかもしれない」
今朝の舞花は俺の記憶にあるように涙の跡のある頬をして朝早くに俺の部屋にいた。だが、涙の跡のことを訊く前に立ち去ってしまい、その後の登校のときもそのことは聞けなかったし、聞いてはいけない気がした。
「なにその曖昧な答えは?」
「……よく分からなくてな」
そう、分からないのだ。俺の状況も舞花の涙もそれがどういうものなのか分からないでいた。だから考えずにはいられなかった。
「……そっか」
俺から普段とは違う雰囲気を感じたのか、有希人はそれきり黙ってしまった。
考えるのを続けながら、俺も黙々と作業を進めた。
※※※※※※※※※※
そして、その日の放課後。やっとここまで来た。俺の記憶が途絶えるのは今日の夕方。もう少しだ。書庫での作業を終えて下校する途中も俺はずっと考えていた。
こんな奇妙な状況がもうすぐ終わるのかもしれない。それとも全く別のなにかが凝るのかもしれない。どうなるのかは分からない。でもこの先で何かがある。そのことだけは何となく確信していた。
俺は見慣れた住宅街を歩く。十字路の街灯は相変わらずチカチカと点滅していた。ここからは記憶があいまいになる。
そして、俺は十字路を曲がった。
※※※意識が二つに分離する※※※
俺は気付いた――
「まただ」
道路に漂う異臭に――
「これで何度目だ?」
それは吐き気を誘うような焦げた鉄の臭いで――
「また繰り返すのか?」
一体これはなんだ?
「また初めから」
これは人間なのか?
「また戻って」
これは死体?
「またやり直し」
分からない。
「もう嫌だ」
判からない。
「もう進みたくない」
解からない。
「もう触れたくない」
わからない。
「もう感じたくない」
ワカラナイ。
「もう見たくない」
思考が続かない。
「もう進むな」
感覚が機能しない。
「もう触れるな」
まるで脳と心が繋がっていないようだ。
「もう感じるな」
なぜか俺は死体を見下ろしていた。
「もう見るな」
黒い、髪が、見える。
「見るな」
白い、脚が、見える。
「見るな」
紅い、血が、たくさん、たくさん、見える。
「見るな」
そのすべてに見覚えがある。
「見るな!」
多分、きっと、もしかしたら、これは、舞花?
「見るな!!!」
頭が、痛い。
「なら身を倒せ」
目が、痛い。
「なら目を瞑れ」
鼻が、痛い。
「なら神経を閉じろ」
全身が、痛い。
「なら何も感じるな」
なぜ、なんだ?
「やはり訪れた」
なぜ、舞花が、倒れている?
「最悪の結末」
なぜ、その顔が、ぐちゃぐちゃになっている?
「絶望的な最期」
なぜ、その体が、めちゃめちゃになっている?
「幾度と無く訪れる」
なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ?
「これが運命なのか」
何故、何故、何故、何故、何故、何故?
「これは定めなのか」
ナゼ、ナゼ、ナゼ、ナゼ、ナゼ、ナゼ?
「これは摂理なのか」
なぜ、何故、ナゼ、舞花が――
「この終わりでは舞花が――」
――死んでいる?
「死んでしまう」
俺の思考はそこで途切れる
「俺の思考はそこで途切れる」
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