よわむしなこころをまもりたくて
・過去ワンライ参加作
・お題「泣いたことさえ嘘にした」
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「ねぇ…貴方、泣いているの?」
最近、彼女にそんな言葉を投げかけられることが増えた。
そんな時、僕は決まって、こんな言葉を彼女に投げかける。
きっと、きちんと笑えていないだろう、そんな笑顔を浮かべながら。
「何言ってるの?僕が泣くわけないでしょう?」
嗚呼、なんて滑稽な言葉だ。
自分の言葉が嘘だと分かっているから、だからこそ、なんて滑稽な事を言っているんだと自らを嘲り笑いたくなる。
だって、本当は分かっているんだ。
涙はなくとも、自分はずっと、泣いているんだって。
「…でも、」
ごめんね。僕は泣くわけにはいかない。
いや、独り泣いている自分を肯定するわけには、いかないのだ。
君がそう言ってくれるのはとても嬉しい。
弱い自分を晒して、泣いて喚いてもいいのではないかと、そう思ってしまうくらい、自分は既に、彼女に絆されてしまっているのだろう。その自覚はある。
「辛い時には、泣いてもいいのよ」
その言葉に甘えて、彼女の目の前で泣きたくなることだって、ある。
だが、それでは駄目なのだ。
そうやって、彼女の言葉に肯定を示し、彼女に甘えてしまっては。
そうしてしまえば、きっと僕はもう耐えられない。
彼女が居なくなった時、再び独りになってしまった時。そうなってしまった時に、独りきりで涙を流す寂しさに、きっと僕は、耐えられない。
だからこうして、彼女の前では嘘をつく。
独り涙を流していることを、決して悟られないように。
僕の弱さを、悟られないようにする為に。
だって、それを彼女が知ったその時、彼女はきっと、僕をうんと甘やかすに違いないのだから。
僕の身体をそっと抱きしめ、泣いてもいいんだと、弱音を吐いてもいいのだ、と。甘い甘い毒を吐くに違いないのだから。
その優しさを知ってしまうのが、僕は怖くて怖くてたまらない。
だから。
僕は、今日も明日も、その先もずっと、
傷ついたことも、泣いたことも。
全て嘘にして、わらいつづける。
(それが僕の、精一杯の自己防衛)
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