今と昔の雪遊び
・過去ワンライ参加作
・お題「冬遊び」
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「ねぇねぇ、雪だるま作ったんだ!あとね…雪うさぎも!」
とっても可愛く作れたんだ、見においでよ!
冬の寒い日。雪が降り積もり、辺り一面が銀世界となるそんな日に、彼は決まってこんな台詞を言い、冷えた手で私の腕を掴み、玄関先へ引っ張っていくのだった。
私が「寒いから嫌よ」と言っても聞く耳持たず。普段は見た目不相応に大人びた表情をしていることの多い彼が、年相応の、子供らしい笑顔を浮かべ、ウキウキした様子で私を玄関先へ連れ出そうとする。
そんな彼の笑顔を見ていると「寒いから」なんて理由で彼の要望を却下するのも申し訳なく思えてきてしまってー結局、彼に連れられるまま、銀世界へと足を踏み入れることになってしまうのだ。私は彼の「笑顔」に弱いと、つくづく思う。
「じゃーん!!どうどう?可愛いでしょう?」
そんな私の思いに彼は気付いていないのだろう。家を出た時と変わらない笑顔で、自分が作ったのであろう雪だるまと雪うさぎを指差し、どう?どう?と期待に満ちた眼差しで、私を見つめてくる。
私は改めて、彼の作った雪だるまと雪うさぎを見た。
(うーん…)
彼が作ったという雪だるまと雪うさぎは、本来「雪だるま」や「雪うさぎ」と呼ばれるものとはかけ離れた不恰好な姿でそこに鎮座している。お世辞にも、可愛いといえたものではない。
(全く、もう……)
彼はいつもそうなのだ。
不器用な癖に、雪が降れば、こうやって不恰好な雪だるまと雪うさぎを作る。
そして「可愛いでしょう?」と言いながら、私に感想を求めるのだ。
「可愛いって言え!」とでも言いたそうな、期待に満ちた眼差しで。
だからー
そんな顔を見てしまえば、こう言うしかないじゃないか。
「うん、可愛いわよ」
そう言えば彼は「本当!?」と顔を輝かせ、いっそう嬉しそうな笑顔でにかり、と笑う。
その笑顔が、私は好きだ。
でも…
(流石にこの不恰好なままじゃ、雪だるまも雪うさぎも可哀想よね……)
そう思って私は、彼が作った雪だるまと雪うさぎに手を伸ばす。
不恰好なそれらの形を整えて、そして、彼の方を向いて
「でも、こうしたらもっと可愛いと思うわ」
そう言えば、彼はあーあ、とひとりごち、嬉しそうだった笑顔を苦笑に変えて。
「悔しいなぁ…なんで君はいつもいつも、そんなに綺麗な雪だるまや雪うさぎを作っちゃうんだい?」
どこか拗ねたように、そう言う。
そんな彼に、私はくすりと笑って、
「経験の差よ。私は貴方よりずっと長い間、ここで雪だるまとか作ってたんだもの」
綺麗に出来て当然でしょう、そう言えば彼は「それもそうかぁ……」と、やっぱり悔しそうな様子で呟いた。
これが、数十年前の冬遊びの話。
**
いつかと同じように、雪が降り積もったとある日の朝。
私は、せっせと雪だるまや雪うさぎを作っていた。
その隣に、彼の姿はない。
雪が降る度に、不恰好な雪だるまと雪うさぎを作り、子供らしい笑顔を浮かべて、それらを私に見せに来ていた彼は、もういない。
それでも、雪が降ればこうして雪だるまや雪うさぎを作ってしまうのはー
(わぁ!君が作る雪だるまや雪うさぎは、本当に綺麗!僕もそんな風に、作れたらいいのになぁ……)
そんな風に、彼が私の元へ帰ってきてしまうのではないかと、柄にもなく期待しているから、なのかもしれない。
そう思いながら、私は自身の隣をそっと見やる。
そして、ぽつりと呟いた。
「……早く帰ってきなさいよ。貴方抜きで雪遊びしたって、何にも楽しくないんだから」
あの時とは違う、虚しくてただ寒いだけの、ひとりぼっちの冬遊び。
それは嫌で嫌で仕方ないのに、こうして遊んでいれば、いつか貴方がひょっこりと、私の隣にしゃがんでいるのではないかと。
貴方が、帰ってきてくれるのではないかと。
そう思ってしまうから、この虚しく寂しい冬遊びは、やめられない。
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