慧眼の片鱗
馬上試合から一年。グレイスは人生の岐路に立っていた。
寄宿学校にいられるのは遅くとも十九になる歳の秋まで。その前に、身の振り方を決めなければならなかったのだ。
故国に自分の居場所はない。寄宿学校に身を寄せてから父王はただの一度も帰国を認めはしなかった。あるいはグレイスが懇願すれば、父王の勘気も解けるのかも知れないがそこまでして戻らなければならないのか、という思いもあった。
しかし他に道はあるのか。寄宿学校に今度は指導者として入る、ということも考えたがそのためにはまだまだ学識と経験が不足していた。とは言え不足を補うために例えばどこぞの士官学校に入るためには父王に支援を請わなければならない。
物語の騎士たちのように馬上試合で糧を得ながら大陸を渡り歩けたら――と考えるほどには幼くはない。悩み抜いた末にグレイスは、マリアに相談することにした。
「――父君に無心するのは嫌なの?」
二人ともこの頃には気軽に互いの部屋を行き来する仲になっていた。マリアの話し方も以前よりずっとくだけたものになっている。
「嫌ではありますが必要ならばやりますが勝算がないならやりたくないという心境です」
グレイスも二人きりの時は心を飾らない。それだけにマリアはグレイスの言い回しにおかしみを感じてぷっと吹き出してしまった。
「マリア様」
「ごめんなさい。でも、貴女があまりに素直なことを言うのだから」
それからマリアは目を閉じてしばらく考え込んだ後「勝算があれば良いのね?」と言った。
「南方諸島自治都市連合に、外国にも開かれた士官学校があることは知っていますね? あそこに学ぶというのはどうです?」
意外な提案に、グレイスは目を大きく見開いた。
「名門ですね。わたしとしては申し分のない進学先ですが――」
父がそれを認めてくれるかどうかは別問題です、と言う前にマリアがにこりと笑った。
「多国籍の士官候補生が集まる学校よ? そこで作られる人脈は、あなたの父君にとっても価値のあるものなのでは?」
はっと息をのんだ。なるほど、それなら勝算がある。
「ありがとうございます、マリア様」
「礼には及びませんよ。他ならぬ貴女の役に立てたのだから」
「しかし」
「と言って畏まるのをやめる貴女ではありませんよね。わかりました。では、この件は貸しとしておきましょう」
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