オマケ外伝 (2):亡国の歌姫(ディーヴァ)

廃墟と化した渋谷

廃墟と化した渋谷。


その隆盛を極めた

人間文明の影は既に無く、

建物は崩れ落ちて廃墟と化し、

植物の蔦や蔓が生い茂り、

このまま放置され

長い年月を経ていることがわかる。


『何故ここに渋谷の廃墟が』


誰も人間のいないゴーストタウンに

勇者はただ一人佇む。



勇者は神の関係者から依頼され

この異世界にやって来ていた。


既に文明が滅んだ異世界、

誰もいない筈の世界、

その街に何故か

歌声が響き渡ると言う、

それを調べるのが

今回の依頼内容。


今回は人間世界をよく知る者がいい、

と説明されてはいたが

その意味が今勇者にも理解出来た。



何故勇者がここを渋谷と

認識出来たかと言えば、

看板などがよく見慣れた

それであったこと。


それから廃墟の瓦礫の中に

埋もれた道路標識を見つけ

ここが渋谷であることを

勇者は確認した。


自分が元居た人間の世界が

滅んだとは聞いていない。


もし仮に滅んでいたとしても

すぐにこのような

景観にはならない筈、

ここは滅んでから相当長い年月が

経っているように思われる。


新宿や池袋をはじめ東京中を、

歌声が聞こえるらしいエリアは

すべて探索していたが、

何処も同様に廃墟と化していた。


-


しかし何処か違和感が拭えない勇者。


それ程渋谷に

詳しい訳ではないし、

感覚的なものでしかないが。


日本ではあるが、

海外の外国人から見た

ステレオタイプのような

異国情趣が強調された

純日本的な雰囲気は

まるでジャパネスクを思わせる。



そんなことを考えていると

当然音楽が鳴り出し、

勇者は咄嗟に体をビクッとさせる。


歌声が聞こえるというぐらいだから、

覚悟はしていたのだが、

それでもこの

誰も人がいない廃墟の街に

突然音楽が流れ出すのは

薄気味悪いものがある。


それは人々に

ノスタルジックを感じさせる

郷愁溢れる曲。


『遠き山に陽は落ちて』


続いて人の声で

街に放送が流れる。


「よい子のみなさん、

五時になりました。

外で遊んでいる子どもたちは、

気をつけておうちへ帰りましょう。」


録音された子供の声、

日本に住んでいた者なら

誰しも馴染みがあるであろう

子供達の帰宅を促す音声放送。


赤みがかった夕暮れ色の空、

街は茜色に染まっている。


今この世界では

本当に五時なのであろうが、

それは正確に時を刻む者が

いるということなるのか。


-


周囲が暗くなると

更に奇妙な事が起こった。


今度は一転して大音量で

賑やかな『軍艦マーチ』が流れ出し、

街中のネオンが

煌びやかに輝きはじめる。


廃墟であっても、ネオンだけは

電気が生きていたのか。


そしてやはり

機能が死んでいると思っていた

大型ビジョンに旭日旗が映り

チカチカと点滅しはじめる。



人間がすべて死滅し、

取り残された世界に

誰もいない筈の街に

大音量の『軍艦マーチ』に

旭日旗とネオン。


ネオンと画面の明かりに

赤く照らし出された勇者は

一体何がどうなっているのか

ただただ困惑するばかり。






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