神々の戯れ

「ちょっと、

あんた達が騒ぐから、勇者が

びっくりしちゃってるじゃないの」


どうやら国王の話を聞く限り

この世界の人間はすべて

こういうものらしい。


実物を確認させてもらった

訳ではないが、

おそらく肉体的には男性、

精神的には女性、

というタイプの人間種なのだろう。


勇者が元いた人間世界でもよく

男は体が強いが精神的に弱く、

女性の方が精神的に強い、

などと言われていたが、そう考えると

肉体的にもメンタル的にも強い、

強い人間ということになるのだろうか。


神が介入して実験でもしたような

そんな匂いがしないでもない。


『まさかまた神の後始末を

させられるんじゃないだろうな』


この勇者、以前も

神の後始末をさせられた経験がある。


-


そうなると素朴な疑問が

どうしても浮かんで来る。


「子孫とかは

どうやって残してるんだ?」


「あらやだ、

子供は木の股から生まれて来るに

決まってるじゃないのっ」


まさかそんな人間世界の世迷言が

本当にあるだなんて思っていなかった。


「あ、キャベツから生まれたり、

コウノトリが運んで来ることもあるわね」


人間世界で子供に

『赤ちゃんはどこから来るの?』

と尋ねられた時、

大人が方便として使う常套手段が

まさか本当のことだったとは

勇者も思っていなかった。


ますます神々の悪戯(いたずら)にしか思えない。


まぁしかし

この世界の人間の方が完成品で、

勇者が知る人間世界が未完成品、

神々が戯れで創ったという

可能性だってある。


そこは、既成概念や固定概念に

捉われるのが大嫌いである勇者、

自分達が正統種だとも主張しない。



「じゃぁ、

勇者の世界では

子供は何処から生まれて来るのよ?」


「いやまぁ、それは、

女の股からかな」


「あらやだ、この世界にも

大昔は女がいたって言う神話があるのよ。


女の数が極端に減ってしまって、

このままだと人間が種として滅びるから

男だけでも生きていけるように

子供が木の股から生まれるようになったって」


『あぁ、

これはビンゴだわ』


勇者はこの世界に

神々の介入があったことを確信する。


それがこの世界の人間を

滅ぼさないようにするためなのか、

単なる戯れに過ぎないのかは分からないが。


しかしそれも大昔のことのようなので

今回それはそれで置いておこう、

そこにあまり深入りすると

過去の経験上ロクなことにならない。


-


とりあえず国王から

魔王を何とかして欲しいと

頼まれる勇者。


しかし『何とかして欲しい』と

言うのは何とも曖昧な表現である。


倒して欲しいでもないし、

仲良くしたいでもない、

微妙な女心でも

そこには反映されているのか、

依頼はもう少し

明瞭にして欲しいものだ。



国王自ら魔王の城へと

案内してくれると言うので

後をついて行く勇者。


「ちょっとー、

お邪魔するわよ」


まさか城の中まで

案内してくれるとは思わなかった。


『え? どういうことだ?』


国王がずかずかと

城の中に入って行くと、

魔王と思われる巨漢が

奥から出て来る。


「ちょっと、

あんた何本当に

勇者なんか連れて来てんのよー」


やはり魔王もオネエ口調だった。


『ちょ、ちょっと待て、

ここは人間以外もオネエなのか?』


勇者は混乱し過ぎて

眩暈がして来そうな勢いだ。


「この間あたし

ちゃんと言いましたぁ、

今度は勇者連れて来るから、

覚えてらっしゃいって、

言いましたからぁ、ちゃんと」


「キーッ! 悔しいっ!」


「あらでもちょっと、

この勇者男前じゃない」


魔王も国王と全く同じ様に

勇者に密着して

スキンシップを図ろうとして来る。


「ちょっと、あんた

うちの勇者に変なことしないでくれる?

この泥棒猫っ!」


「キーッ!なんですってっ!」


魔王と国王は勇者の前で

延々と罵り合いを続ける、

オネエ口調で。


『もうこれ、

ただのオカマの痴話喧嘩だろ』

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