転移強奪

地平をバイクに乗り疾走する勇者。


今回の異世界転移を

少し後悔しないでもない。

まさかここまで酷いとは、

正直思っていなかった。


さすがにあの様子では

経済を回し活性化させるどころか、

生産することすらままならない。


おそらくこの先、武器も防具も

ロクな物を手に入れることは

出来ないだろう。


前の勇者のお下がりか、

『伝説の』と前置きが

付いていそうな骨董品を探すか、

いっそ敵から奪うしかないだろう。


レベルが低くて大した魔法が使えない、

レベルアップに時間も掛けられない、

武器や防具に頼ることも出来ない、

この先は自分が創造する能力だけが

頼りの戦力ということになる。


-


多勢に無勢となれば、

やはりこの先は奇襲や

ゲリラ戦法でいくしかない、

遊撃を選んだのはそのためでもある。


しかもチマチマ削っていたのでは、

時間が掛かり過ぎて

タイムオーバーになってしまう。


中々にハードモードなゲームではある。


所詮は一度死んだ身、

ゲームオーバーになっても

次の転生でやり直せばいいし、

この世界も所詮は

ゲームの世界のようなもの、

そう考えれば

いっそ滅茶苦茶をしてやろう

という気にもなって来る。


敵拠点である古城近辺を

敵に気づかれない程度に離れた距離で

下調べして、仕掛けを施す勇者、

後はいつ仕掛けるか

そのタイミングを見計らう。


-


「さぁ、ショータイムだ」


魔族というものは

やはり夜行性であろうから、

活動が盛んではない昼間を狙う、

こちらの時間で正午頃を見計らって

いよいよ動き出す勇者。


彼の左右上空に

異空間につながるゲートが現れ、

そこから巨大なボックス型をした

人間世界の兵器が出現する。


空に浮く多連装ロケットランチャー、

そこから発射音と共に

敵拠点目掛けて

ロケットミサイルが次々と撃ち込まれて行く。


十二連装のロケットミサイルが

打ち尽くされると、

弾切れの兵器は消え、

また新たに次の兵器が出現する。


これに勇者は

自らが使える数少ない補助魔法、

命中補正の魔法、加速付加、

攻撃力アップの魔法を掛け、

命中精度を高め攻撃力を増していく。


ミサイルは敵拠点である古城を

次々と直撃し爆発音と共に崩れ落ちていく。


-


これが彼が考え出した

魔法が使えず物資がない中で

魔王軍と戦う方法。


物がないならある所から

強奪して来るしかない。


そう考えた彼は、

自分が元居た人間世界の兵器を

この世界に転移させる能力を創造した。


そして次にそれを半オートで

自在に使いこなす能力を。


この兵器はあくまで

人間世界に実存しているものであり、

彼が無から創り上げた物ではない。

実際にそちらの能力も試してみたのだが、

まだそこまで複雑な物を

創り上げるまでには至っていなかった。


バイクも同様に

人間世界から転移で持ち込んだ

歴とした日本製品。

遊撃隊としての機動力を考えた場合、

やはりバイクが最適であろうと

彼は判断したらしい。


人間世界から転移という名の強奪で

自分がイメージした物を

持って来ているのだが、

人間世界の何処から持って来ているのかは、

彼自身もよくわかってはいない。


ロシア製かもしれないし

中国製なのかもしれない。


あちらの世界では兵器が大量になくなり

大騒ぎをしているだろうが

それも彼の知ったことではない。


勇者はこの能力を

転移強奪てんいごうだつ』と名付けた。



「じゃあ、第二段階と行きますか」


勇者はバイクに跨り

敵拠点である

崩落した古城へと走り出す。





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