勇者の宣言
新たな勇者の赴任に
歓喜して湧く異世界の人間達。
人々が集まっている中、
そんな浮かれムードを
ぶち壊すかの如く
勇者は開口一番言い放った。
「お前ら、
どちらがいいか選べ」
「このまま魔王軍に皆殺しにされるか、
この世界の半分をぶち壊して生き残るか」
勇者の言葉に、
それまでぬるい感じで盛り上がっていた人々が
冷や水をぶっ掛けられたかのような雰囲気に。
ゆとりクラスの中に
突然やって来た
鬼軍曹のような物言い。
このままであれば
皆殺しは免れないのだから、
世界の半分ぐらい壊れても仕方ない
と当然この世界の人間達は思う。
この世界、島々には囲まれているが
概ねひとつの大陸で構成されており、
現在はその西側から三分の二以上が
魔王軍の支配下にある、
それが半分まで盛り返すのであれば
むしろ良いことではないか
と思う人々も多い。
何故勇者はそんなことを言うのか。
その真意を理解出来ている者は
まだいなかった。
後々、それが領土などの話ではなく
環境破壊、環境汚染レベルの話だと
気づくことになるのだが。
-
「勇者様は、もしや
禁忌魔法でもお使いになるのでは?」
勇者のそばに居た割と勘のいい少年、
こちらの感覚だとどう見ても
小学生くらいではあるのだか、
見習い魔道士の名をテトと言う。
見習いと言っても
魔法を教えられるような人材は
とうに死んでいるので
ほとんど独学なのだが。
『いや、
禁忌魔法が使えるなら
苦労しないんだけどね』
魔法に関しては
本当に低レベルな勇者、
禁忌魔法が使えるものなら
どんなに嬉しいことか。
しかし勇者はテトを見て改めて思う。
思っていた以上に大人がいない。
十代後半ぐらいから五十代までの
いわゆる働き盛りの層が
ごっそりいないのだ。
例え、魔王軍に勝ったとしても、
この年齢構成比であれば、
ここの人間はいずれ
種として絶滅するのではないか、
そう思わずにはいられない。
しかしそれは今考えても詮無いこと、
まずは魔王軍を倒すことを
考えなくてはならない。
-
勇者はテトに持って来させた
この世界の地図を見て言う。
「戦いがはじまる前に、
西側に人間がいるのなら、
東側のここまで避難させろ。
先程も言ったが、
西側半分は最終的には
人が住めなくなるだろう」
それまでのんびり構えていた
この世界の人々は途端に
慌てふためいて
西側に住む人達に連絡を取りに行く。
さらに勇者は
ここから一番近い敵拠点をテトに聞く。
「ここから、かなり近いな」
まずは最寄りの拠点を叩いて、
ここの人達の安全を
確保するということなのか、
それとも挨拶代りのようなものか。
「とりあえず俺は
ここを拠点にはしない、
常に単独で移動しながら遊撃する。
俺がいると敵がここを狙って
攻撃して来るだろうからな。
俺は奇襲に専念するから、
お前達まで守ってやることは出来ん。
自分の身は自分で守れ」
去ろうとした勇者は、
言い忘れていたことを
言いにわざわざ戻って来る。
「言い忘れたが、
お前らが人質に取られたら、
俺は容赦なくお前らを見捨てるからな。
自分の身は自分で守れよ」
思っていたのとあまりに違う勇者で、
人々の顔は青ざめる。
勇者はそう言い残すと、
止めてあるバイクに跨り去って行く。
さて、バイクは一体どこにあったのか。
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