第19話 祈り

拝啓、コスガ=イシ=キィコ様


初めてお手紙を差し上げます。突然のことで驚いてしまったかしら。ごめんなさい。けれど、どうしてもあなたに伝えたいことがあって、少し長くなるかもしれないけれど、許して頂戴ね。

あなたに初めて会ったときのこと、忘れたことは一度もありません。本当に、一瞬でも忘れたことがなかった。あの日の喜びのことを。あなたが、はじめて私の歌を聴いたときのこと。

キィちゃんは、私の本当の歌を聴いてくれる唯一の人です。

あなたが私の唯一であるように、あなたの唯一が私であるということを、私は最初、心から嬉しく思いました。そして、そのうちに恐れるようになったのです。何もかも話したくなって、全て、一つのかくしごともなくあなたと関わり合いたいと思ってしまうから。

罪という言葉を、以前の私はなんとも思っていませんでした。だってそんなことは生きていくことになんの関係もないからです。それに私は、自らの行いを罪だと思ったことはありませんでした。親に売られてあの学院に入った時から、自分は何か大きな使命を持って生まれたのだ、と思い込むようになりました。そしてその使命の前には、どのような人間も平等で、世界は常に、自分とそれ以外とに分かれていた。だからキィちゃんに出会った時も、先輩に頼まれたから歌っていただけで、ああ、先輩のことは、どこから話せばいいのかわからない。手紙というのはとても難しいのね、何が言いたかったのかよく分からなくなってしまう。

ともかく私は、あなたに会って、これを罪だと決めることにしたのです。

今こうして書いてみてはっきり分かりました。私はずっと罪を犯してきた。そう思えることが、どれだけ嬉しいことか。戦うということは、誰かを大事に思わないと出来ないことで、それをあなたは教えてくれた。私はそれを知らずに沢山の人を捨てて生きてきた。


けれど、今は違う。私は最後まで戦うつもりです。

そして、あなたには本当のことを知っていて欲しい。

私が、谷にいる本当の理由のこと。この世界が、どう生きてきたのか。一つの道筋のこと。それをあなたにお話します。

もちろん、希望の話として。あなたという希望を、信じているという証として。

すべてお話します。長くなるけど、許してね。

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