キティが立派な引きこもりになるまで


「ん? ジーク、これなに? 入れ墨?」


 ある日、ジークの肩になんか王冠みたいなかっこいいマークがあるのを発見した。


「これかっこいいねぇ。他の場所にもある? 全身見て回っていい?」

「よくない」

「う」


 宝探し感覚でジークの全身を見ようとしたら抱き込まれて止められた。ついでにジークの体をペタペタしてた両手も掴まれて動きを封じられる。


「……だめ?」

「……別にいいか……」

「よくないですよ魔王様」


 オッケーしそうになったジークをレオンが止めた。ちぃ。


「それは魔界の王族に現れる印だ」

「ほうほう、じゃあリンちゃんも肩にこのマークあるの?」

「いや、印が現れる場所はランダムだ。叔父上はたしか鎖骨の辺りだったか」

「お~、せくしーだねぇ」


 そう言ったらジークの腕の締め付けが強くなった。


「……でもジークが一番かっこいいよ」

「うむ」




 シオンがホットミルクを入れてくれたのでジークとまったりお茶をする。


「ところで、キティはなぜあの塔で引きこもってたんだ?」

「おお、結構今更な疑問だねぇ」


 私がここに来て結構経ったよ。


「うんとね、なんか気付いたらあそこにいたの」

「気付いたら?」

「うん。それ以前の記憶がないから」


 私の言葉にジークが目を見張る。





 ―――私があの塔の下で目を覚ました時には、ほとんど何も覚えていなかった。かろうじて自分が魔族でここが魔族の国だということは分かっていたけど、その他は自分の名前も、家族も、何も分からなかった。

 幸い、その塔には誰も住んでなかったけど生活に必要な物はそろってた。なので私はありがたくその塔に住み着くことにした。


 なにも分からないから外にでることが怖くて、でも生きていくためにお金は必要だからあり余るアイデアを開発局に提供してお金をもらおうと思った。

 そして私は開発バカと知り合い、ゲームのチャットなどで交流を持つようになった。


 ゲームを始める時、名前を入力する段階で私の手は止まった。

 数秒考えた後、『unknown』と打ち込んだ。今の私に名前はない。

 生活に必要な物は開発バカに頼んで塔まで送ってもらった。もちろんそのお金は私の稼ぎから出ている。


 いつかは外に出なきゃと思って過ごした最初の百年。


 あれ? もうこのまま引きこもりライフエンジョイしちゃえばいいんじゃない? と思った次の百年。


 引きこもって三百年が経つ頃には完全に『楽して生きたい』が私の人生のテーマになっていた。

 そして私は運命の募集に出逢った。


「そう! それが魔王様のペット募集! そこでようやく私は引きこもりたいんじゃなくて家猫のような食っちゃ寝ごろりんちょの生活がしたいんだと気付いたの!」

「……途中までは割とシリアスな話だったのになぁ」


 レオンが呆れた顔をしてる。


「……それで、キティは今食っちゃ寝ごろりんちょな生活はできているのか?」


 おお、ジークの顔には食っちゃ寝ごろりんちょって言葉は似合わないな。


「うん、キティちょー幸せよ」

「それならいい」


 そう言ってジークはギュッと抱きしめてくれた。


 あま~い。



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