レッツパーティー!
私はきょとんと首を傾げた。
「パーティー?何の?」
「……知らん。なんか定期的にやるやつだ」
どうやらここ、魔王城でパーティーが催されるようだ。本日。
急だな。
そして何故か私も出席しろと言われた。作法とか全然知らないんだけど……。
そんな私の不安を知ってか知らずか、ジークは続けた。
「安心しろ、魔族は人間と違ってマナーにはうるさくない。純粋に集まって騒ぐだけの会だ」
「ほうほう、それなら安心」
一安心した私はジークに凭れ掛かる。
ジークはそんな私をなでりなでり。落ち着く……。
「そんな訳だから、キティ」
「ん?……みぎゃっ!?」
私はジークの膝上からベリッと剥がされた。他ならぬジークの手によって。
なんですか?
床に下ろされてクルリと反転、ジークの方を向かされる。
「キティ、パーティー開始まであと二時間を切っている」
「え?何でそんなギリギリに言ったの?」
「俺も忘れていた」
「あちゃー」
それじゃあしょうがないね。
ジークは私を頭のてっぺんから足先まで見ると、ちょっと落ち込んだような表情を見せた。
「流石にパーティー用のドレスの着付けや髪型まで俺は出来ないからな。俺の手で着飾ってやりたかったが、レオンとシオンに頼むとしよう」
「え?」
その瞬間、私は両側から腕をとられた。
「さあ、キティ?」
「お着替えの時間だよ?」
「……キティ、かたっくるしいドレスとか髪型したくないんだけど…………」
私のその言葉のシオンはにっこり微笑んだ。
「魔王様の命令だから仕方がないだろう?これで思う存分キティを可愛くできるね」
「でもね、世の中のペットのオシャレなんて精々裸にかわいい首輪つけるくらいだよ?」
「キティ、尊厳までは捨てちゃいけないぞ」
レオンに可哀想な子を見る目を向けられた。
「はぁ……疲れた…………」
「キティ、可愛いぞ」
ぐったりした私をジークは持ち上げ、片腕に座らせた。
ほっぺにチュッチュッとキスが降ってくる。
「くすぐったい……」
「キティはどこに出しても恥ずかしくない美人さんだ。レオン、シオン、良くやった」
「「ありがとうございます」」
私を着替えさせる二人はとても生き生きしていた。
お人形遊びの人形の気持ちが理解出来たような気がする。
私が着ているのは、フリフリの白地に薄く水色がかったドレス。定番のコルセットとかをされるかと思ったがそんなことはなく、着心地はそんなに悪くない。
履かされた靴は殆どヒールがなく、普通に歩けるような可愛い靴だ。
私も自分の変身の出来に満足していたが、不意にジークが眉をひそめた。
直前まで上機嫌だったのに……。
ジッとこちらを見詰めてくる。
「……こんなに可愛かったら拐われないだろうか」
「魔王様がパーティーなんてつまらないからキティ連れていきたいって言ったんですよ」
「だがレオン、こんなに可愛いんだぞ。誰でも持ち帰りたくなるだろう」
「実際に持ち帰って来た人が言うと重みが違いますねぇ。でもそんな時の為にこれを作ったんじゃないですか」
レオンはそう言うと、私の首に何かを装着した。
見えないので触って確かめる。
「なに?これ……首輪?」
「首輪の形をしたチョーカーだ」
「いやそれもう首輪じゃん。何の為に着けるの?」
私の疑問にはジークが答えてくれた。
「それを着けていればキティの居場所はいつでも特定出来るしキティが危機を感じたらすぐに駆け付けられる。だからキティの盗難も防げるというわけだ」
「盗難て」
だがジークはそれでひとまず納得したようだ。
ならまあいいや。
「それじゃあ行くか」
ジークは私を片腕に座らせたまま歩き始めた。
ん?このまま行くの?
「ジーク、こういう時はえすこーとをするんでしょ?キティもえすこーとされたい」
ジークの肩をテシテシと叩いてアピールする。
「キティ、身長差のある相手をエスコートする時は抱き上げるのが主流だ。だからこれも立派なエスコートなんだぞ」
「そうなんだ」
それならこれでいいや。楽だし。
私はジークにコテンと体重を預けた。
「魔王様堂々と嘘吐いたな」
「キティを抱っこしてたかったんでしょ」
レオンとシオンはキティに聞こえないように後ろでコッソリと会話をしていた。
魔王陛下の入場と共に、きらびやかな会場がにわかにざわつき始める。
いつもは無表情で椅子に座っているだけの魔王が、首輪を着けた小さな女の子を抱いて入場しているのだ。しかも、少女の方も遠慮なく魔王の首に腕を回して体重を預けきっている。
今までの魔王を知る者達にとってはありえない光景が目の前に広がっていた。
「ひぇぇ、ジーク、何かすごい見られてるよ」
「気にするな。キティが可愛くて見惚れているだけだ」
「違うと思うけど……」
ジークハルトは迷いのない足取りで壇上に用意された椅子へと向かう。
魔王が座る椅子の横には、フカフカの可愛らしいクッションがいくつも設置されている。
ジークハルトは自分が座るよりも前に、そのクッションの上にキティを乗せる。キティも何の抵抗もせずにちょこんと置かれるままだ。
ジークハルトは半ばクッションに埋もれているキティの可愛らしさに満足したのか、一つ頷いた後、自分も席に着いた。
魔王であるジークハルトが着席すると同時に、中断されていたダンスが再開される。
会場の中央では何組もの美しい男女が舞うが、ジークハルトはそんな光景には目も向けずに傍らのペットに戯れた。
頭を撫で頬をつつき、食事する様子をジッと観察する。
当のキティは、持ってきて貰ったローストビーフをもっきゅもっきゅと咀嚼することに集中している。
「おいしい……さすがパーティー」
心なしかキティの濁った瞳もほんの少しだけ輝いているように見える。
ジークハルトも喜んでいるキティを見れたことで、これまでのパーティーの中で一番機嫌が良かった。自分の分のローストビーフも嬉々としてキティに食べさせる。
キティは持ってきて貰ったローストビーフを食べ終わると、グラス一杯のお酒をペロリと飲み干した。
「けぷっ」
「もうお腹一杯か?」
「まだまだいけるよ」
むしろ食べたりないくらいだ。
そして丁度良いタイミングでシオンが追加の皿を持ってきた。
「はーいキティ、追加の料理とお酒だよ~」
「おおっ!ありがとシオン!」
「どういたしまして」
キティはシオンから皿を受け取る。
「あ、魔王様、リンドヴルム様が来ているそうですよ」
「そうか」
「そうか、じゃなくてちゃんと会いに行って下さいね。あの方は滅多に出てこないんですから」
ジークハルトの気のない返事にシオンが反応する。重要な人物なのか、ジークハルトも渋々頷いていた。
そんな会話など聞き流しているキティは、新たな料理に手をつけようと思ったが、その前にお手洗いに行きたくなった。
ちょっと行って来ようと思いキティは立ち上がった。
「ん?どうしたキティ?」
「お手洗い行ってくる」
「一人で行けるか?」
「よゆー」
「気を付けて行ってこい」
ジークハルトも流石にトイレまでついて行くのはまずいと感じたのか、あっさりとキティを見送った。
皆綺麗な服装をしている時はトイレに行きたがらないのか、それとも飲み食いをあまりしていないからなのか、トイレ周辺の廊下は会場の賑わいとは対照的に閑散としていた。
そこにはキティ以外誰もおらず、シーンと静まりかえっている。
用を済ませると、どうせ誰も来ないからとキティは鼻歌を奏でながら女子トイレの出入口をくぐって廊下に出た。
初めてのパーティーで浮かれていたのかもしれない。
出入口の真横で待ち伏せしていた人物に、キティは気が付かなかった。
「今晩は、小さな
「!?」
その男を認識した瞬間、キティの視界は闇に包まれた。
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