飼い主バカのクッキング







 目の前でピョコピョコ跳ねるキティを見て俺は思う。


 ウチの子はどうしてこんなにも可愛いのだろう、と。


「魔王様、キティで遊ぶのもいいですがそろそろ拗ねますよ」


 レオンに注意されて我に返った。おやつをお預けされたキティの頬はパンパンに膨らんでいる。

 遊び過ぎたのか。既に拗ねてしまったようだ。


 俺は高く上げていたチョコレートをキティに差し出す。

 キティは無言でそれを受け取り、もそもそと包装を破き始めた。そんな不器用なところもキティの愛らしいポイントだ。


 まあまずご機嫌を直さねば。


 俺はしゃがんでキティの持っているチョコレートの包装を取り去ってやる。


「キティ、あーんしろ」

「……むぅ、あーん」


 チョコレートを差し出すとキティは素直に食い付いてくる。そして頬を緩めるのだ。


「おいし~い」


 もう機嫌は直ったようだ。はぁ、単純で可愛い。

 誘拐されないように気を付けねば。


 キティを抱き上げる。そうするとキティはコテンと肩に頭を預けてきた。

 この子の高い体温が冷え込むこの時期にはありがたい。


 コタツに行き、キティを膝に乗せて座る。

 そうするとキティは大体昼寝を始めるので俺は読書をする。キティが夜眠れなくなると困るので後で少し運動させなければ。


 本のページを捲ると、ペットの餌を手作りするという内容が書かれていた。

 ふむ、そういえば食べ物を手ずから与えたことはあっても手作りしたことはなかったな。

 前にキティがカレーを作ってくれた時は見ているだけだったし、今度は俺がキティに何か手作りするのも悪くないな。

 視線を落とし、無防備なキティの可愛い寝顔を見ると益々その気持ちが大きくなった。


 垂れた涎をハンカチで拭いてやる。




 さて、そうと決まれば早速レオンに準備をさせよう。



「え゛?魔王様が料理!?」

「何が悪い」

「いえっ!なにも悪くないです!キティに作るならクッキーとかがいいですかね」

「そうだな。甘味の方が喜ぶだろう」


 サラリとキティの頭を撫でる。キティの眠りは深い為ちょっとやそっと騒いだくらいじゃ起きない。


「クッキーなら今すぐにでも作れますけど、どうしますか?」

「……そうだな、今から作ろう」


 少し可哀想だが、膝の上のキティをクッションに移して俺は部屋を後にした。




 今まで生きてきた中で二度目の調理室に入る。


「じゃあ魔王様、まずこれを混ぜてください」


 レオンから粉などが入ったボウルを渡された。前回のカレーよりも大分難易度が下がっている気がするが、まあいいだろう。

 ヘラで中身を混ぜ始める。


「レオン、これでいいのか?」

「はい、そのまま続けて下さい(やっべ~!!俺魔王様に料理させちゃってるよ。絶対に失敗させられねぇわ)」

「レオン、震えているがここは寒いか?」

「いえ、己の内の寒気と戦っているので気にしないで下さい」

「そうか」


 様子のおかしいレオンは放っておいて俺は無心でボウルを混ぜる。





 暫くすると、中身が固くなってきた。

 だんだん色も変わってきている。


「……レオン、何だかとても固くなったのだがこれであっているか?」

「え?固くなった……?うわっ!!これ金じゃないですか!?」


 ボウルの中身はいつの間にか黄金に輝く金属に様変わりしていた。


「クッキーの生地を作るのは難しいのだな」

「いやっ、クッキーの材料から錬金する方がよっぽど難しいですよ!!世界中の人間が喉から手が出る程望んでいる術ですからね!」

「魔族はその限りではないだろう。さて、クッキーが出来ないのであればこれは捨てよう」


 今必要な物ではないしな。

 ゴミ箱に捨てようとしたらレオンに止められた。


「いやいやいや!!ちょっと待って下さい!これだけの量があればかなりの価値になりますからっ!売って何かキティに買ってあげましょう!!」

「ふむ、それもそうだな」


 キティの為になるならばとっておこう。


 金はその辺に置いておいて、新しい生地の作製に取り掛かった。





 それから試行錯誤すること数回。

 調理台の上には色とりどりの宝石が無造作に置かれている。

 全部何かしらの価値ある鉱物に変わってしまった。後残りの材料は一回分しかない。

 そして何故かレオンの顔が青白くなってきた。


「ちがうちがう……俺のせいじゃない……」


 何かブツブツ言っているが放っておこう。


 さて、最後の一回だ。

 気を引き締めねば……。


 俺は材料を混ぜ始めた。






 部屋に戻ると、丁度キティが起きたところだった。


「ん……ジーク?おはよう」

「まだ昼だキティ」


 寝起きのキティを抱き止める。そしてついでに涎も拭いてやった。

 キティが少し首を傾げて俺の懐に鼻を埋めてくる。


「スンスン、ジーク何か甘い匂いがする」

「ああ、キティの為にクッキーを焼いたんだ」


 コタツの上に今持ってきた皿を置いた。


「おおっ!!……クッキーはおいしそうなんだけど何で周りに宝石類が乗せてあるの?」

「クッキーを作ってる途中で何故か出来たからな。キティにやる」

「え、よく分かんないけどすごい。じゃあ大事にしまっておくね」


 そう言って宝石類を自分のポケットにしまい始めたキティは何て可愛いのだろう。

 ポケットがパンパンになってもまだ押し込もうとしている。


「キティ、後で持っていかせるから押し込む必要はない」

「あ、そっか」


 キティは宝石を皿に戻した。



「……」

「……?」


 キティにジッと見られる。

 ……ああ、そうか。


 俺は皿からクッキーを一枚取るとキティの口元に差し出した。


「キティ、あーん」

「あーん」


 最近のおやつは全部俺が食べさせていたからな。キティの中ではそれが癖みたいになったのだろう。


 何て愛らしいんだ。


「キティ、おいしいか?」

「うん、おいしい!」


 キティはクッキーを一枚も残さずに平らげてくれた。




 因みに、最後の材料を混ぜる時はレオンの体を魔法で操って俺がやった。そうしたら成功したので、俺が直接やると無意識に何かが働いてしまっているのだろう。直ちに改善しなければ。

 そしてレオンは俺の魔力酔いでダウンしてしまった。今は自室のベッドに寝かせてシオンに介抱させている。



 さすがに悪いと思ったので、俺が作った金は全部レオンにやった。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る