ジークが楽しそうでなにより
私を膝に乗せてコタツに入ってるジークがみかんを剥いている。……なんか似合わない。絶世のイケメンさんだからかね。
「キティあーん」
「あーん」
口を開けるとみかんが放り込まれる。甘くておいしい。
もきゅもきゅと噛んで飲み込むと次の粒が口に入れられるので、また頬張る。
「……かわいい」
「魔王様、あんまり餌付けしてるとキティがご飯食べられなくなりますよ」
ジークにみかんを食べさせてもらっっていると、シオンから苦笑いで注意を受けた。
「分かっている」
「魔王様、みかんをキティの口に突っ込んでる時点で分かってません」
シオンの注意を受けてもジークの手は止まらない。
すると、レオンが両手に皿を持って入室してきた。
あま~い匂いが漂ってくる。
「キティ~きな粉餅作ってきたぞ~」
「おおっ!きな粉もちぃ」
好物です。
皿には通常の餅が四等分されていて一口サイズになっていた。レオンの優しさが染みる。
シオンはそれを見て苦い顔をしてたけど。
「……レオン」
「まあまあ、シオン、落ち着け。ちょっとくらい平気だって」
レオンとシオンで言い合いが始まる。
話題の中心のきな粉餅は既に魔王様の手によって私の口に運ばれております。
もっきゅもっきゅとおもちを噛んでいると、ジークの強い視線を感じる。なになに?
ジークは私の膨らんでるほっぺたをつんつんすると、はむっとほっぺたを噛んできた。
「!?」
食感が気に入ったのか、ジークはそのままガブガブし続けている。
と言っても、歯は立てられてないから餅を伸ばす時みたいに唇で挟まれて引っ張られてるだけだけど。私はおもちじゃないよ~。食べないで~。
抱き込まれているので私はされるがままだ。
ジークはボソッっと一言。
「柔らかい……」
そらそうだ。
しばらく堪能されていると、ジークが首を傾げ始めた。なんだなんだ?
「何か違和感が……」
ジークが一人呟くと、私はそのままもぞもぞとお腹や腕を触られ、持ち上げられる。
とどめにジークが一言。
「……キティ、重くなったか?」
「「「!?」」」
「や!はなせ~」
「ダメですよ、ペットちゃん。観念して下さい」
私は小さい足を必死にバタつかせるが、脇を掴まれて持ち上げられているのであまり意味ほない。
「先生の鬼!悪魔!こんな辱しめをして楽しいかー!」
「まあ、強いて言えばちょっと楽しくなってきた所ですけど。俺にお願いをしたかったら獣の姿になってきて下さいね」
「うきゃああああああ」
私は遂にソレに足を乗せてしまった。
「あ、やっぱり太ってますね」
女子の敵、体重計に。
しくしくしく。
私は部屋の片隅で膝を抱えている。
「き、キティ?みんなでキティの体重を見ちゃったのは謝るよ。ほらクッキーあげるから機嫌直せ?」
「レオン!キティに無闇矢鱈と甘いものを与えないでと先生に言われたでしょう!」
「あ、すまんシオン」
レオンは出したクッキーを直ぐ様引っ込めた。
別に、ジークに体重を見られるのはいい。
だが、その他に体重を計られるところはおろか、体重までバレるとはどういうことだ。
これでも乙女だぞ!!
「キティ」
ジークに後ろから声を掛けられ、抱えている膝ごと抱き上げられた。
真顔で見詰められる。ジークはいつも真顔だが、今はよりいっそう真顔だ。
「まるまる太ったキティも愛らしいが、……5㎏増はヤバイ」
はい、ダイエットをしましょう。
じいいいいいいいい。
レオンの足に抱きつき見上げる。
私の目の前にはレオンの持つおいしそうなお団子。じゅるり。
「くっ、だめなんだキティ!!お前にはあげられないっっ!」
「だじょうぶ。キティがまんできるよ」
目が自然と引き寄せられるだけだよ。
「キティ、こっちにおいで」
「あっ」
ジークによってレオンにへばり付いていた手が剥がされた。
そのままお膝に乗せられ、涎を拭かれる。
いくらなでなでされても私の気は晴れない。
お団子は向かいのソファーに座ってる先生の胃に消えていった。満足そうな顔がなんとも腹立たしい。
先生から顔をそむけてジークの服をぎゅっと握りしめる。
「み゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛」
「ああ、キティ、そんなに悲しそうな顔をしないでくれ」
ジークにぎゅうううと抱きしめられた。
レオンが私を見て不思議そうに言う。
「外見はここに来た時からほとんど変わってないのになぁ」
「まあ筋肉も少しですが付いたのでしょう。脂肪が劇的に増えた訳ではないですが、これを機に食生活を改善しましょうね、ペットちゃん」
「うにぃ~」
「駄目だ、拗ねてるな。キティ~?」
つーん。
ぷいっと顔をそむける。
レオンの方なんか見向きもせずジークの膝の上で丸くなった。完全なる八つ当たりだ。
ジークは無言で頭を撫でてくれる。
そんな私を見て先生がため息を吐いた。
「はぁ、仕方ないですね。あと2kg痩せたら一日一回だけおやつを食べてもいいですよ。ただし量は俺が決めますが」
「なぬっ!?」
私はガバッと顔を上げた。
「ほんと?ほんと?2kg減ったらおやつ復活?」
「ええ、だから不貞腐れないで下さいよ?」
「全裸で体重計ってくるっ」
フリフリは結構重いから割と重さが減る筈だ。
「そういうことじゃないです」
医務室で体重を計ってこようと立ち上がったら先生にガシッと肩を掴まれて止められた。
意外に力が強くて一歩も進めない。
振り向くと、先生が胡散臭い笑みを浮かべている。
「ペットちゃん、楽しく運動できる方法を教えてあげましょうか?」
「いやな予感がするから遠慮する」
「ペットちゃん、楽しく運動できる方法を教えてあげましょう」
「選択の自由」
「そんなものはないです」
「むぐっ」
先生は言い切ると同時に私の口に飴を突っ込んできた。
ダメって言った張本人が甘味を与えていいのか。そうは思いつつも飴玉を転がす。
………ん?この味、どっかで食べた覚えが……。
ボフンッと音がして、私の視線は一気に低くなった。
「にゃん!?」
……この感じ、何か覚えがあるぞ。
下を向くと、ちっちゃなお手てにフワッフワの白い体毛が目に入る。
「ああっ!!相変わらず仔猫姿のペットちゃんは可愛らしいですね。撫でてあげましょう!」
先生が興奮しだした。
体中を撫でくり回される。
「み゛ぃー!」
「ああ、すみません。ペットちゃんをこの姿にしたのはちゃんとダイエットのためですよ」
そう言って先生は白衣の胸元からネコじゃらしを取り出した。常に持ってんのかそれ。
目の前でふりふりされたら本能でじゃれついてしまう。
ちっちゃい手で一生懸命引っかいて飛び付く。先生がハァハァ言ってても気にしない。
「シン」
ジークが先生を呼ぶと、ネコじゃらしがジークの手に渡る。
「キティ」
「みゃん!」
ジークが揺らしているネコじゃらしに喜んで飛び付いた。
先生が満面の笑みで言ってくる。
「これでじゃれていれば結構な運動になりますよね。ペットちゃんは人型だと動かないですし。2kg痩せるまで毎日やりましょうね」
「みぃ!?」
それは自分の趣味も入ってるんじゃないの?
「みぃ~?」
「聞こえませんね」
疑いの鳴き声はスルーされた。
「キティ、おいで」
ジークに呼ばれたので寄って行くと抱き上げられた。
そしてジークの眼前まで持ち上げられる。
「キティ、俺が毎日相手をしてやるからな」
ジークがそこはかとなく楽しそうだ。
……仕方ない。
「みゅい~!」
私は元気よく鳴いておいた。
その後、しっかり2kg痩せた。
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