筋肉痛って割と痛いよね
私は満足していた。
昨日はジークが仕事をしている間、隊長さん達+時々レオンがいっぱい遊んでくれたからだ。隊長さん達は仕事はどうした?と思わないでもなかったけど私には関係ない。
隊長さん達は私に体力をつけさせるために、室内鬼ごっこや子供が習うような体操を教えてくれた。さらに鬼ごっこの時には足の遅い私に合わせてゆっくり走ってくれるという気遣い。つまり隊長さん達はほぼ歩いていた。
楽しくてついつい、限界を越えるまではしゃいでしまった。
そうして、事件は起こった。
次の日の朝、私は起き上がろうとした。だが、出来なかった。
「うぐにゃあ!!」
私の全身を激痛が襲ったからだ。
「どうしたキティ!?」
「に゛ぃぃぃぃ!」
既に起きていたジークが駆け寄って来る。
「じぃくぅぅ、全身が痛い……」
ジークに手を伸ばすと握ってくれる。
そして隣の部屋に控えているシオンに指示を飛ばした。
「シオン!医者を呼べ!」
「はっ!」
シオンは急いで退室していった。
「キティ、待っていろ。直ぐに医者が来るからな」
「お兄ちゃんもついてるぞ」
レオンもジークとは反対の手を握ってくれるが、握り締められ過ぎて痛い……。
「レオン……いたい」
「はっ!!キティ、そんなに辛そうな顔をして可哀想に……。大丈夫だ、もうすぐ先生が来てくれるからな」
お前の手が痛ぇっつてんだよ。
レオンの手から逃れようと身を捩ると全身を激痛が走る。
「にゅっ」
「キティ!」
「いたいぃ~じぬぅぅぅぅぅ」
もう半泣きだ。
そしてジークとレオンによしよしと宥められること数分、医者が到着した。
「筋肉痛ですね」
「……へ?」
「筋肉痛です」
医者は事も無げに言った。
「なん………だとっ……?」
私は驚愕に目を見開く。
「こんなに痛いのに筋肉痛な筈ない!!」
診察ミスに決まってる……ハッ!さてはヤブ医者か!
「誰がヤブ医者ですか?医者らしくここにメスがあるのですが」
「ごめんなさい先生私は筋肉痛です」
「素直な子は好きですよ」
「わーい」
頭を撫でられる。……何か怪しい薬品とか付いてないよね。
クンクン匂いを嗅ぐ。
うん、何の匂いもしない。大丈夫だ。
ほっと胸を撫で下ろす。
「今まで録に運動もしてこなかった人が急に動けばこうもなりますよ。数日経てば痛みも大分引きます」
え?このまま放置?
「せんせ~痛み止め的なのはないんですか~?」
「ないことはありませんが、ペットちゃんは俺の出す薬は嫌そうなので自粛しているのですよ?」
意訳:失礼なクソガキに出す薬はねぇ。大人しく寝てろ。
こんなところか。間違ってはいないと思う。
医者はニコニコと微笑んでいるが絶対こいつの腹の中は真っ黒だ。腹黒ってやつだ。
学習せず、またもや失礼なことを考えているとジークに抱き締められた。
ジークさん?痛いんですけど。リアルにギチギチいってるんですけど……。
「キティ、もう鬼ごっこも体操も禁止だ。移動も俺が全部運んでやる」
わお、それは楽そう
とか思っていると、医者が余計なことを言いやがった。
「魔王様、ペットは甘やかすと付け上がります。適度な躾も大切ですよ。それに、健康のためには散歩くらいさせてあげないと」
「ふむ……」
ジークは考え込んでしまった。
私としては甘やかしてくれていいんだけど。
あ、でも鬼ごっこは楽しかったからまたやりたいなぁ。
あ、因みに、シオンとレオンは筋肉痛って診断が出た時点で仕事に行ったよ。薄情な奴等だ。
「少しずつ運動量を増やしていけばいいんですよ。そのうち常人並みの体力になります」
「うむ」
それだけ言うと、医者は忙しいので、と帰って行った。
「キティ、腕を上げろ」
「は~い」
ジークに寝間着を脱がせてもらう。
すぽんっ、と脱がされ、すぽんっ、とワンピースを着させてもらう。
赤ちゃんに戻ったみたいだ。
ジークも世話をされることはあってもすることはなかったのか、心なしか楽しそうである。
朝ご飯もアーンで食べさせてもらった。これはいつものことか。
ゆっさゆっさ、私は運ばれている。
誰に?勿論ジークにである。
筋肉痛ごときで相当心配掛けたらしく、痛みが引く迄の数日間は私を持ち歩くことにしたらしい。ごめんね。
私は私でジークの肩に顎をのせてご機嫌だ。ジークが構ってくれるのが嬉しくて仕方がない。
飼い主様ラブだからね。
ジークが大きな両開きのドアを開けると、中にはシオンとレオンが居た。
「キティ!大丈夫かい?起き上がれたのか」
「暫くは安静にしているんだよ?」
二人とも優しい言葉を掛けてくれる。さっき薄情とか思ってごめんね
もうちょっと雑な対応をされるかと思っていたのだが……。
あ、そっか。ジークも含めてこの人達筋肉痛になったことないんだ。だからどんなものか分からないんだな。
過保護になるわけだ。
ジークは部屋の奥にある豪華な椅子に座ると、足の間に私を座らせた。
もしやジークが仕事している間ずっとこのまま?
飽きる。絶対に飽きるぞ。
上にあるジークの顔を見る。
「ん?ああ、キティは暇か。暇そうにしていたらシンにこれを渡せと言われた」
そういって差し出されたのは色とりどりの毛糸だ。まるくなってるやつ。
シンって誰だ?あ、医者か。
「何で毛糸?」
「筋肉痛には良いらしい。どう使うのかは知らんが」
「………………そっか」
そんなの信じないでよ。てか私完全にバカにされてるよ。あの腹黒め。
ペット猫は毛糸でじゃれてろってか。にゃんにゃん
ジークの邪魔になるのもいけないので大人しく毛糸をいじり始める。
するすると丸い毛玉をほどいていき、糸にする。
確か指だけで編み物って出来るんじゃなかったっけか?よし、やり方知らないけどチャレンジしよう。
結論から言えば、出来なかった。
暫くの間、一人であーだこーだやっていたが毛糸は編まれるどころか絡まる一方。いい加減絡まった毛糸をほどく作業にも飽きてきた。
両手に毛糸をもったままうとうとしてきた。
カクン、カクンと船を漕ぐ。
そのまま遊びに飽きた仔猫は、飼い主にもたれ掛かって昼寝に入った。
「はぁ、可愛い。うちの子はよく寝るな」
ジークハルトはキティを起こさないように優しく頭を撫でる。
大人しく毛糸で遊び始めたのも可愛かったが、安心しきったように眠る今も相当可愛らしい
気ままで、本物の猫みたいだ。
シオンがブランケットを持ってきたので、ジークハルトはそれでキティを包んでやる。
レオンは可愛い妹分の寝顔を写真に納めている。
キティのアルバムでも作る気なのだろう。完成したら献上させようとジークハルトは決めた。
ジークハルトはキティの頭を撫でたまま仕事を続行した。
「キティ、起きろ。部屋に帰るぞ」
「んむぅ……」
ジークの声で目覚め、目をくしくしする。
「ジークお仕事終わった?」
「ああ、キティのお陰ではかどった」
「それはよかった」
どうやらもう執務室をでるとこだったらしい。既に立っているジークに抱き上げられていた。
廊下を歩いていると、ジークの部屋の方から歩いてきた先生に出くわす。
「あ、せんせ~」
「おや、ペットちゃん。本当に毛糸でじゃれていたのですねぇ」
私の手にはグシャグシャになった残骸が握られたままだった。恥ずかしい。
先生は人好きのする笑みを浮かべてはいるが、腹の中ではバカにしているに違いない。
「魔王様、お疲れ様でした。失礼します」
「ああ」
先生はジークに頭を下げると、そのまま歩いて行った。
部屋の前に着くと、ノブに魔法で保護された袋が提げられていた。
中には、作りたての湿布薬とお大事に、と書いてあるメモが入っていた。
タイミング的に、これはあの先生が置いて行ったのだろう。
「これがツンデレってやつか……」
先生、結構いい人じゃないか。
ありがたく使わせてもらおう。
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