ダメ魔族まっしぐらだなぁ
とりあえず私は成人済みだと教え、保身しか頭にない男共に謝らせた。
うむ、許してやろう。
グワシッ!!
思わずそんな効果音を付けたくなるような勢いで頭を掴まれた。
ギギギっと、壊れた人形そっくりの動きで後ろを振り返る。
そこにいたのは、何時もの甘々飼い主様ではなく、正しく魔王様だった。
……怒っていらっしゃる。
「キティ」
「ふぁいっ!」
「バカなペットは可愛いが、やはり躾が必要だと思わないか?」
冷気を纏った魔王様は、私の頭を掴んでいる手に力を込めた。
ギリギリと音が聞こえる。完全に力加減間違ってるよ。
「痛い!痛いよジーク!!DVだ!動物愛護団体に訴えてやるぅ」
「残念だが愛護団体のトップは俺の部下だ。そいつが俺に逆らうと思うか?」
「まじか。おーぼーだ。権力者!すてき!」
権力もお金も大好きです。
「そうか、俺も可愛いキティは好きだ。だからこそ金欲しさにバカなことをしようとするんじゃない。キティの写真なんて出回ったら誘拐犯達がキティの前に列をなすぞ。スリーサイズなんてもっての他だ。キティの魔性にやられた幼児性愛者が沸き出す。金なら俺がいくらでもやる」
「出た、人を駄目にする魔法の言葉、『金ならいくらでもやる』。一度は言われてみたかった。キティ幸せ」
頭を掴まれてぷらーんとぶら下げられている状態でジークに向かって両腕を伸ばす。うごうご。
捕獲された虫の気持ちが分かった。
「キティは素直だな。もうしないか?」
うんうんと私は何度も頷いた………つもり。頭 掴まれてるから動かない。
「うん、キティ、ジークの嫌がることしない
「いい子だ」
ジークの纏う空気が柔らかくなると、膝に乗せられて抱き込まれた。すっぽり。うん、このフィット感しっくりくる。
ふ~、躾回避成功。と思っていたら、耳元でジークがぼそりと呟いた。
「次はないからな……」
……キティは何も聞こえなかった。
ジークの懐に潜り込み、温もりを堪能する。
すると、しくしくと啜り泣く声が私の耳に入ってくる。
まるでこの世の終わりかのように這いつくばって泣いているのは、この情報管理部隊の隊長だ。例のリストの持ち主だった。
隊長がこれって大丈夫なの?
例のリストはジークの『うちの子が興味を持ったら困る』という素敵な理由で完全に削除された。だが彼の端末は未だに私の小さなお手ての中にある。
すまんのう。
「カイン隊長、いい加減泣き止んでくださいよ~」
隊長はカインという名前らしい。部下に慰められている。
……隊長さんでいっか。
お詫びにキティちゃんのマル秘世界の美人百選画像をダウンロードしてあげた。
ジークの膝を降りててこてこと歩いていき、画面を涙で濡れる隊長さんに見せる。
「何……これ………」
「キティちゃんが厳選に厳選を重ねた美人のお宝画像たち。どう?うれしい?」
「確かに美人だけど……」
「ほら、隊長さん、一般に出回らない秘蔵写真ばっかだよ。レアなんだよ」
ぐいぐい画面を押し付ける。
だが隊長さんは一向に嬉しそうな顔をしない。
なぜだ。私は頬を膨らませる。
「なぜ嬉しそうじゃない?」
「だって、これ……………男じゃん」
キティは美女よりもイケメンが好きです。
「イケメン見たらテンション上がんない?」
「逆に敗北感でテンション下がるかな……」
「私は見たらテンション上がるから隊長さんも嬉しくなるでしょ?
「価値観の押し付けがひどい」
ふう、取り敢えず隊長さんを泣き止ませることには成功したぞ。
呆れられてるって?いやいや気のせいだよ。
隊長さんの顔に付いた涙やら鼻水やらを拭ってあげる。ふきふき。
あ、やべっ、これ台拭きだった。
隊長さんのポケットに突っ込んで証拠を隠滅する。
隊長さんと目があった。二人とも真顔である。
「……」
「……」
スッとジークの元へ逃げ、その長いおみ足にしがみつく。
すると、隊長さんが私ではなくジークに話し掛けた。
「……魔王様」
「何だ」
「少しかわいさが分かった気がします」
「そうだろう」
何故かジークが誇らしげにしている。
あれか、出来る魔族ってのは駄目な子が好きなのか。
……好きなだけ甘えてもいいってことじゃない?
「キティ、駄目だ。甘えるのは俺だけにしろ」
「……あい」
ジークは心が読めるのですか?
「うおぅ」
ジーク万能説を考えていたら急に持ち上げられた。しっかりとかかえ込まれる。
はぁ、温かい。
ジークの首筋に頬擦りする。すりすり。
ふぃ~。
一息つくと眠くなってきた。
急激な眠気がキティを襲う!!回避不可能だ!
「どうしたキティ。疲れたのか?」
コクリと頷く。体力の限界がきた。元引きこもりにしては頑張った方だ。褒めて欲しいくらい。
ジークの低い声がさらに眠気を誘う。子守唄レベルだ。
目を擦るとジークに手を掴まれて止められた。
「寝てて良い。連れて帰ってやる」
「うにゅ……」
ジークの誘惑に抗い、隊長さん達、情報管理部隊の面々に目を向ける。
「隊長さん達ばいばい。またくるね」
ジークの腕の中から手をフリフリ。
もはや意識は半分夢の中だ。
隊長さん達はニッコリ笑ってくれた。
「ああ、今度はお菓子を用意して待ってるよ」
隊長さんの言葉を聞き終えると同時に、私は夢の世界に旅立った。
ジークハルトは腕に重みが加わったのを感じた。
「寝ましたか」
「寝たな」
最近まで誰とも話さない生活を送っていた引きこもりにしては、よく頑張っただろう。
カインは寝息を立てるキティを呆れ半分、微笑ましさ半分で見詰めた。
「魔王様に抱っこされて寝るとは、肝が据わっていますね」
「ああ」
だからこそ、この魔王に怯えなかったからこそ、ここまでお互いに気を許しているのだろう。
自分達ではこんな関係は作れない、とカインは思う。
次の日の朝五時
キティはカインの部屋に突撃した。
「隊長さん!!宣言通りまた来たよ!!」
「早過ぎる!!」
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