死因が幼女のスリーサイズなのは嫌なんだって
只今、
「よしよし、キティ。何も恥ずかしいことはない。少し間違えただけだ」
ジークのマントにくるまれて赤ちゃんみたいに抱き上げられた私を誰が成人済みだと思うだろうか。いや、誰も思わない。
さっきの間違いよりもこの体勢の方がよっぽど恥ずかしいと思うけど今はそれどころじゃない。
ジークが揺らしてくるんだけど激しすぎて酔いそう。絶対に子守りさせちゃいけないわ。
「ジーク……ゆらさないで……うぷっ」
アトラクション並みの揺れがピタリと止まった。
ジークの顔を見ると、ミリ単位の違いだが眉を下げている。
「すまんキティ、お前があまりにも可愛くて調子にのってしまった」
「気にしないよ~。でも次からは割れかけの卵レベルで丁寧に扱って欲しい」
「わかった」
ジークは神妙に頷いた。
「まっ魔王様、お茶が入りました」
「ああ、キティのミルクもあるか?」
「はい、ホットミルクを用意しました」
部屋の机の上にお洒落なカップと猫の絵が描いてあるカップが置かれた。
ジークは机の前のソファーに座り、私を膝に乗せた。
「私お酒がいい」
「ミルクを冷ましてやろう」
「……」
だめなのか、ペットが酒を飲むのはダメなのか。
ジークが軽い冷却魔法を使おうとするが、それを止める。
「だめ、フーフーして」
「………何か違うのか?」
「飼い主としての愛情」
「そうか」
おお!イケメンが真顔でふーふーしてる。
違和感が半端ない。写真撮りたい。
何度か息を吹き掛けたところでカップを差し出された。
「ほらキティ、飲め」
「飲む」
じい~
カップに口を付けると視線を感じた。
視線の元にいたのは静止している数人の男達。
なんだ?やんのか?
こっちには最高権力者の飼い主様が付いてんだぞ。
フーッ、と威嚇するとジークに頭を撫でられた。
わかる。小動物が威嚇するのってちょっと可愛いよね
すると男の人達がぼそぼそ話始めた。
「……どういうことだ?幻覚が見える。働きすぎで俺は遂に心を病んでしまったのか?」
「俺にも見えるから大丈夫だ。お前はまだ働ける。休ませねぇぞ」
「あの幼女何で魔王様にあんな態度とれんだよ。殺されっぞ」
「てか何で威嚇してくんだ?死んだ目が地味に怖いんだけど……
成る程パニック中らしい。
仕方がないから威嚇を止めてちびちびミルクを飲む。
「何だ、もう止めてしまうのか」
「うん、疲れた」
「残念だ」
ジークには威嚇とか効かなそうだよね。精神攻撃とか無意味でしょ。
寧ろ私が全力で殴っても気付かなそう。
「飲んだ……」
「魔王様直々に冷ましたものを躊躇いもなく……」
「恐れ多い……………」
外野がうるさいなぁ。何だよ!なんか文句あんのか?
ムカついたのでその辺に置いてあった端末を手繰り寄せる。
するとまた男達が騒ぎだした。
「あ!!それには機密情報が……」
「まあいいだろう。どうせログイン出来ないんだから」
ははは、と笑いやがった。
ふっ、私をただの幼女だと思うな!見てろよ。
端末に魔力を流して起動させる。
ふむふむ、ログインには五十二桁のパスワードが必要なのか。めんどくさそ~
ほお、流石魔王城、ハッキング対策も他とは桁違いだ。
だ~け~どぉ~このキティちゃんにかかれば突破できないセキュリティなどない!!
魔力を強める。
……十数秒で入り込めてしまった。
中の情報をあさっていく。
ジーク以外は私がアクセス出来たことに気付いていないみたいだ。ジークは私の真後で見てるからね。
ジークは気付いた上で微笑ましそうに見守ってくれている。
あ、ここで得た情報をどこかに流そうとかは考えてないよ。飼い主様の不利益になるようなことはしません。
あるファイルで私は思わず声をあげてしまった。
「うわっ
「どうした?」
ジークが画面を覗き込んでくる。
ここには美人なお姉さん達の写真とスリーサイズが事細かに載っている。しかも全員がこの魔王城の制服を着ている。
ひでぇ、不細工が一人もいないぞ。しかも全員ぼんきゅっぼん。
ただ単にここには美人しかいないのか、不細工は載せていないだけなのか。後者だろう。
私は容姿はかなり優れている自覚があるのでこのリストに載っても見劣りしない自信がある。だから容姿で選ぶのは別にいいと思う。
ただ、体型で選んでいるなら私はこのリストを作った奴を張っ倒してもらう。……ジークに。
貧乳差別は良くない!!
「ジーク、これって何かのお仕事で使う情報なの?
「いや、完全に個人で楽しんでるだけだろうな。ここには普通に非美人ひびじんも居る」
「そっか」
非美人って優しい表現だなぁ。
そして私達の会話を盗み聞きしていた男達の一人が顔を青くし始めた。やっと見られていることに気付いたらしい。おそらくこの美人さんリストを作った人だろう。
仕事用の端末じゃなくて自宅の方に保存しろよ。
「おい馬鹿!だからもうちょっと偽造しとけって言っただろ」
「はぁ?普通パスワードも知らねぇのにここまでたどり着けると思わねぇだろうが」
「まぁ、ちゃんと本人達に報酬渡して了承得てんだから大丈夫だろう」
「人に情報を売ってる訳でもないしな」
……みんなグルだったのか。
そして報酬が貰えるとな!?
「お兄さん達」
「ん?なんだ……ですか?
「私の写真とスリーサイズを五万でどうでしょう!」
ピシリ、と部屋の空気が固まった。
背後から心なしか冷気が漂っている気がするが気のせいだろう。
何故か男達が全員顔を青く染めて震えている。
なんだ?嬉しくないの?目は死んでいても美少女だぞ。
やっぱり体型か、胸なのか。
そんなことを考えていると男達が襟首を正した。
「間接的な死因が幼女のスリーサイズとか嫌なので謹んでお断りさせて頂きます」
男達は全員が同じ角度で頭を下げている。
めっちゃ丁寧に断られた。
私、成人済みですけど?
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