ep7 失敗失敗また失敗
リビングに何度目かの爆発音が鳴り響く。
エリューはあれから何度も修理魔法に挑み、失敗を重ねていた。その度に木片は飛び散り、回数を重ねる毎に破片が小さくなり集める量も多くなっている。
穴から見上げる空は、日が高かったはずなのにいつのまにか茜色に変わっていた。
「……エリュー」
別室で薬草の仕分けをしていたルーサーはリビングの入り口に凭れかかりながら小さな魔法使いに声をかけた。
「もういいわ」
「あの、でも。次こそ必ず成功させるので!」
エリューは焦りながら、地面に広げられた羊皮紙に向かう。
何度も上から書き足された魔法陣は原型がわからず、彼女の手はインクで黒く染まっている。
これでは幾ら正しい陣を描けたとしても不発に終わって当然だろう。
「エリュー」
「だんだん木材が上に上がるようになってきました。もう少しすれば——」
「これ以上は家が壊れてしまうわ」
必死に声を上げるエリューを遮るようにルーサーは首を横に振った。
破片が何度も当たった壁は傷つき、壁紙が少し破れただでさえ古い家がさらに傷ついていく。
周りの惨状を改めて確認したエリューは、呆然と立ち尽くした。
まんまると見開いていた目が、伏せられ、肩が地に着くほど落ちうなだれる。
「……申し訳ありません。お役に立とうと思ったのに……ルーサー様にご迷惑を……」
涙声。体の前でローブを握る手は白く、震えていた。
自分の不甲斐なさが情けないのだろう。その姿は、何度挑戦しても魔法が使えず泣いていたかつての自分と重なった。
「責めていないわ。貴女はよく頑張ってくれた。その気持ちだけで十分よ」
「……でも」
あれから結局エリューは休憩も入れず、ずっと屋根を修理しようと頑張ってくれていた。
屋根の大穴をふさぐことはできなかったが、その一生懸命に努力する姿を誰が責められよう。
「……すみません。明日の朝、また来ます」
帽子をかぶり、壊れて折れてしまった箒を拾いエリューは帰り支度をはじめる。
「エリュー。泊まるところはあるの?」
「いいえ。この辺りに野宿します」
あまりにもはっきりとした即答にルーサーは目を瞬かせた。
彼女はルーサーに弟子入りを志願しに来た。泊まる所もなにも考えず。
弟子にすることはできない。ならば、突き放せばいいのだろう。だが、ルーサーはそこまで非情にはなれなかった。
「……今晩はここに泊まって行きなさい」
「ですが……」
「こんな山奥に女の子一人で野宿は危険よ」
「大丈夫です。携帯テントはありますし!」
大きなカバン持ちあげながら、エリューは気丈に笑う。
魔法界から出て来たばかりの幼い少女は、まだ自然の恐ろしさを知らないのだろう。
「野生の動物に襲われたらひとたまりもないわ。いいから、今日はここに泊まっりなさい」
玄関へと続く扉を塞ぐようにルーサーは立ちふさがる。
エリューはルーサーを見上げたが、ルーサーもまた、己の意思を曲げずにエリューを見下ろす。
「……ルーサー様にそんなにご迷惑をおかけするわけにはいきません」
「明日も修理、頑張ってくれるんでしょう? 今日はもうゆっくり休んで」
ルーサーの優しい言葉にエリューの表情は嬉しそうに輝き彼女を見上げる。
「もしかして弟子に……」
「……それとこれとは別。貴女がその魔法を成功させてくれないと、雨漏りになってしまうから。それまではいてもらわないと」
ルーサーはふいっと踵を返す。弟子にするつもりは毛頭ない。
「晩ご飯を作ってくるから、それまでゆっくり休んでいて。ここは夕焼けが綺麗に見えるから」
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