第6話 唐突に、ミトコンドリア

 さて、この奇妙な生活も一週間もすれば慣れてくる……はずはない。

「おはよ」

「うん、おはよう」

 まぁ、何ともなしに安さのみを目的として互いに動いた結果、すごく気まずい。

 そもそも俺は割と無理して上京した人間だから、この家を追い出されたら帝国大学生ホームレスという極めてアレな存在となってしまう。

 そもそも、家賃が安い九大に行かずに帝国大学に行ったのも自分のわがままだ。己の才を縛られることなく発揮してみたい、そう思って俺は上京した。

 だから……この何とも言えない気まずさを打開したい。

 というわけで、口を開いてみる。


「アオは、何を研究したいんだ?」


 そう何となしに問いかけた時である。

「ん?」

 アオの眼が輝いた。

 俺はこの眼に見覚えがある。

 そうだ……

「シュンは生物学に興味があるのですか?」

「えっと、その……」

 俗にヤベー奴、といわれる人間が目を輝かせるときの眼だ。

 全身がぞわっとする。

 これは、ヤバイ。


「私が興味あるのはミトコンドリアといわれるもので、これは真核細胞と呼ばれるものには必ず入っているものであり、これをどうにかすることで不妊治療をすることもできます。そもそも、不妊の原因の一つとしてミトコンドリアの老化という物狩り、それだけミトコンドリアとは細胞の生命の根本となっているのです。ただミトコンドリアは酸素を用いてATPを作っているのではなく……」


 結局、俺は朝から二時間ほどミトコンドリアの凄さについてきかされた。

 だが残念、俺は哲学を学びたい人間なのだ。

 頭に入らなかった……。



         続く

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