第5話 霧と山と城と
さて、俺の家について家といわれたわけだが……。
「人吉かぁ……簡単に言うと、霧が深い街だな」
そういうと、アオは首を傾げれた。
「霧が深い……そんなにですか?」
俺は頷いた。
そうなのだ、人吉は霧が深い。
「気候の関係でな……人吉期周辺とかも真っ白だったぞ。年がら年中だ」
「それはすごいですね」
アオの眼は輝いていた。
八戸は霧が出ないのだろうか? そう思っていると、アオはにこりとしていった。
「八戸は雪も青森の中では少ないですし、霧も夏にしか出ませんね」
夏しか霧が出ないのはうらやましい。人吉は霧の街だ。年がら年中、霧が出る。寒暖差が大きく、土地が冷えて温まり、濃い霧が出る。
いつも家から出ると、深い霧だった。
中高と久留米に住んでいたが、そこでも霧は多かった。
深い霧は、どうにも俺の人生によくかかわる。
「なんか霧にまつわるエピソードとかないんですか?」
アオは急に俺に聞いた。
「霧にまつわるエピソードか……」
急に聞かれても困る。
何かないかと頭をひねってみると……
「ああ、あるな」
そういった瞬間、アオの顔が変わる。
「ほう、どんなんですか?」
なんだこいつは。地味に犬か猫みたい。
「いや、なんてことないんだけどな……久留米に移住するときに人吉駅に向かったんだけど、霧の中から自転車が来て、間一髪ぶつかりそうになったってだけ」
「普通に面白いじゃないですか。霧の中から自転車って……」
普通にある話だよなぁ、なんて思ってしまう。
ふっと外を見る。
この上野には霧はないな。ほんの少しばかり寂しさを覚える。窓の外は、ただのネオンだった。
「いいなー、霧いいですねー」
ちょっと窓から外を見てセンチメンタルになっていたのだが、ごろごろと転がるアオのせいで、そんな気は失せてしまった。
「……はぁ」
つい、ため息が出る。
「? 何ですか?」
青は不機嫌そうな顔で見る。
「いや、何でもない」
肩をすくめて、そう返した。
続く
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