第4話 ウミネコが鳴く海で

 さて、この上野駅近くのお得なシェアハウスであるがどうにも夜は外に出にくい。

 上野駅周辺は知っての通り、アメ横という日本屈指のカオス地帯を抱えている。そのせいか、基本的にこの地域は夜が物騒なのだ。

 俺とアオは二人とも帝国大学の出身であるが、どうも都会のノリに会わず授業が終わったら大体二人とも家に帰っている。そして、この上野周辺の治安の悪さ。いや、場所さえ選べば治安がいいのだが、俺たちが住んでいる周辺がヤバイ。

 というわけで、必然的に夕方以降は家に二人ともいる。

 のだが……。


「……」

「……」


 気まずい。

 俺は今パンキョーの教科書を読んで、アオは漫画を読んでいる。

 この生活スタイルになってから三日、互いにすごく気まずい。

 ……いや、本当に。

「……あのさ」

 とりあえず、この気まずさを何とかしようと口を開く。

「どうしました?」

 アオもうすうす察しているだろう、この何とも言えない居心地の悪さを。

 というわけで、すっごい無難な会話を試みてみる。

「アオはどんな家に住んでたんだ?」

 アオは八戸出身だと言っていた。

 そうなると、きっと俺の知らないような話が出るだろう。

 すると、アオは肩をすくめていった。

「ウミネコの声がうるさい家でしたね。八戸の地は、ウミネコが多い」

「ウミネコ……」

「はい、ウミネコです。シュンはウミネコの声を聴いたことはありますか?」

 俺は首を横に振った。

 少なくとも、ウミネコは熊本の山間にはいなかった。


「にゃあ」


 いきなり、アオがそういった。

「どした?」

 俺はついつい問いかける。

「いや、ウミネコって本当ににゃあ、って泣くんですよ。本当のネコとは違いますけど、にゃあ、って」

「にゃあ……か」

 なるほど。

 にゃあ、って……。

「八戸から南にグーっと下った三陸にも、ウミネコはいますからね。何というか、なじみです」

「そんなにいるのか」

 そう聞くと、アオはクスリと笑う。

「ええ、一度八戸に来たら案内しましょう」

 そういった顔は、どことなく本物のネコのようだった。


「というわけで、次はシュンの家について聞かせてくださいよ。私、地味に九州知らないんですよね」


 そして、このキラーパス。

「はいはい、といってもそんな言うほどは面白くはねぇけどなぁ」

 何というか、ウミネコという未知の鳥が出てくるような面白さは、俺の家にはないと思う。うん。



          続く

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