運命の日
「の、ノア……」
もう夕暮れも近い時間に到着した俺は車の中から降りて、ノアの側にいく。ここは……確か、八条家が所有している山の中にある公園。昔、よくお嬢様とここにきて遊んだ記憶がある。ここにもいろんな思い出があるけど……お嬢様は、一体何を持ってここを選んだんだろう?
「純、待ってたわ」
お嬢様は俺の手をとって、公園にあるベンチに俺を連れていく。そしてそのベンチに座らせて、俺とお嬢様は隣同士に座る。ああ、やばいな……覚悟を決めたとはいえ、やっぱりドキドキする。それに今日のお嬢様、本当に綺麗なんだ。月のように美しくて、太陽のように輝いているから。
「ねえ純。今日の貴方、とっても素敵」
「そ、それはノアだって……いや、ノアの方がすごく素敵だよ」
「ふふっ、ありがとう」
天使のような可愛くて美しい笑顔を向けて、お嬢様は俺にお礼を言ってくれた。ああ、心臓がばくばくしてしまう。お嬢様の目を見るだけで精一杯だ。
「覚えてる? ここで私たち、いっぱい遊んだこと」
「……うん、覚えてるよ。俺にとって、かけがえのない場所の一つだからね」
「よかった。じゃあ純、私がどうしてここに来て欲しかったかはわかる?」
「そ、それは……」
正直、いろんな記憶を辿って思い返してみてるけど……お嬢様がどうしてここを選んだのかは、わからない。本当に思い出がたくさんあるんだ、一緒に遊んだこと、一緒に怒られてしまったこと、一緒に笑いあったこと。でもそれはここだけの話じゃない。だからわからないんだ。
「わからなくて大丈夫よ。これは私だけが知っていることだから」
「ノアだけが……知ってること?」
一体それは何だろうか。俺はお嬢様のいう言葉に耳を澄ませて聞く。
「小学生の頃、一度私がここに遊びに来た時……家に帰りたくなくて、逃げ出したことは覚えてる?」
「もちろん。あの時は俺……すごく心配だったから」
事実記憶を鮮明に思い出せる。あの時突然お嬢様がどこかに行ってしまって……俺含め従者たち、そして旦那様たちも一緒に探したんだ。確かあの時は……。
「その時、純が一番に私のこと見つけてくれたわよね」
「……うん」
そう、俺が一番最初にお嬢様を見つけた。子供だから視界に入りにくい斜面の場所にお嬢様がいたから、同じ子供だった俺が見つけることができたんだろう。ただ、すぐに万事解決とはならなかったけど。
「でもあの時私、いじけちゃって純にたくさん迷惑かけちゃったわ」
「……仕方ないよ。色々と我慢できない年頃だし」
あの時俺がすぐ帰ろうと言ったんだけど、お嬢様は泣きながらそれを拒否した。その理由は単純で……両親と会うことができず、寂しい思いをしていたから。当時は六条家との対立がピークだったこともあり、中々旦那様たちも忙しかったんだ。
だけど、そんなこと子供にとっては関係のない話で。寂しいと感じていたお嬢様は、自分が行方不明になればきっと構ってもらえると思って行動した。
「ありがとう。だけど……あの時、純に怪我までさせちゃったのは、やっぱり後悔してるの」
「あれぐらい別に……かすり傷ぐらいだよ」
あの時、見つからないよう必死に隠れた、山の急な斜面であったため、お嬢様が足を踏み外してそのままずるっと下に滑り落ちそうになってしまったんだ。俺はその時お嬢様に怪我なんてさせたくない一心で必死に手を伸ばして、何とかお嬢様を助けることができたんだ。まあ、少し怪我してしまったけど。
「強いわね純は。……でもあのあと純が言ってくれた言葉、すごく嬉しかったの」
「言った言葉……?
「あら、それは覚えてないの? あの時純はこう言ったのよ。「俺がお嬢様を絶対退屈させない、いつでも一緒にいるから」って」
「……あ!」
恥ずかしさからつい記憶から消していたのかもしれない。でも確かに、今思い返してみれば俺は確かにそう言った。……だって俺は、あの時からお嬢様のことが好きだったから。絶対に、守りたいって思ってたから。
「思い出した? ふふっ、本当にあの時の純はかっこよかったのよ。もちろん、今もだけど」
「……あ、ありがと」
「そこからかしらね。元々思ってはいたけど……明確に自覚し始めたのは」
「え……? それって……」
そういうとお嬢様は俺の顔をじっとみて、少しモジモジとしながらも……何か言おうとしている。それが何か、俺はバカだからわからない。だけど……きっといいことだってのは、わかる。
「…………ねえ純。ディ●ニーで、私のこと世界で一番好きって言ってくれたわよね」
「え!? あ、そ、それはその……」
や、やっぱり聞かれてた……。わ、わかってはいるけど、それでも……心臓の音が、ばくばくと破裂しそうな勢いで動く。きっと、今までの俺であれば気絶していたかもしれない。だけど……そんな情けないことしてるん場合じゃないから。
「……純」
お嬢様は俺の瞳をじっとみて、大きく深呼吸をしたのち……口を開いて、俺にこう言ったんだ。
「私、貴方のことが世界で一番好き。昔も今も、これからも」
頰を赤くしながらも、俺の顔をまっすぐ見てそういうお嬢様。それに俺は……心の中で大絶叫をしていたのかもしれない。脳みそが破裂したっておかしくないぐらい、嬉しいんだ。
ただ、俺でも不思議なことに……体はすごく落ち着いていた。きっと……体もするべき時だって察したんだろう。
「…………俺もだよ。俺は……ノアのことが……大好きだ。だから…………」
次の言葉を出せ俺! ここで……!
「お、お付き合いを前提に俺と一緒にいて!」
…………え。お、俺何を言ってんだ!? お、お付き合いを前提にって……へ、へえ!? ああ、「ノア」もなんか驚いた顔してるし……や、やらかした俺!
「……ふふっ。やだ」
「へ!?」
し、しかも断られた!? あ、ああ……や、やばい……し、死に……。
「結婚を前提に、私と一緒にいてくれないと嫌よ」
「……け、結婚?」
たいと思ったけど。ノアはいつだって俺の予想を上回る。満面の笑みでそういうノアは、夕暮れ時の風景と相まってすごく美しくて……頭がぽかんとして、見とれてしまったけど、俺は正気を取り戻そうとする。
「ええ、結婚。だって私はこんなに純のことが……」
だけど、ノアが俺の唇に「ちゅっ」と口づけをしたので……戻れるわけがなかった。まるで時が止まったかのように、その時間はゆっくりと流れる。ああ、何も考えられない。頭が真っ白だ。だけど……俺が今、世界で一番幸せだってことだけは、わかる。
「大好きなんだもの! 愛してるわ、純!」
そしてノアはキスをした後、俺を思いっきり抱きしめた。
「……俺も、大好きだよ」
そして俺も、ノアのことを抱きしめ返す。……こんな日が来るだなんて、思っても見なかった。こんな幸せなこと、俺にはあまりに勿体無いぐらいだけど……ノアのとろけるような、幸せそうな笑顔を見ると……俺は、ノアの幸せになる事ができたんだなって、思える。
これから俺は、胸を張って……ノアをずっと幸せにしていかないとな。
――――――――――――
続きます。これからの二人の砂糖まみれな絡みに乞うご期待です。
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