運命の日から……後日


 「……はっ!」


 ノアはいつもよりも朝早く起きて、パチパチと目を動かしながら目を覚ます。……そして昨日のことを思い出し、一人勝手に……悶えていた。


 「……純と……つ、付き合っちゃった……」


 勢いがあったあの時とは違い、今のノアはあの時のことを冷静に考える余裕がある。だからこそ思い出して……ことも大きさに気づいてしまったのだ。そのため顔を真っ赤にして、今は恥ずかしがってしまってる。


 「……じゅ、純が起きてる時に初めて……ちゅ、チューまでしちゃったし……初めて、純から抱きしめてくれた……きゃー!」


 そしてめちゃくちゃ嬉しがっていた。なにせ長年こうなってほしいと思っていた展開になったから。ただ、それだけに……あの時もっと一緒にいられなかったことだけは、ノアは残念がっているが。


 「……でも、あの後純と一緒に入れなかったのだけ不満だわ……。そ、そりゃあ私はお屋敷に戻らないといけなかったし、純も家に戻らないといけなかったけど……。も、もっと……色々したかったのに」


 「いやこれからいつだってできるじゃないすか」


 「あ、ヒカル!」


 話を途中から聞いていたのか、ノアが気づかないうちにヒカルはスマホをいじりながらツッコミを入れる。ちなみに今彼女がしているのは「短期高収入バイト」の検索だ。


 「いやせっかくねーお付き合いしてるんすから色々やれますよ。まあ一線は超えてもらうと困るんすけど」


 「一線?」


 「あ、わからなくて結構です。ま、とかくお好きになさっていいのではないですか?」


 「じゃあ純の家で暮らすわ」


 「それは許可できないっすねー」


 「どうしてよ!」


 「どうしてって……ま、まあ……一線越えるかもしれないすから」


 ヒカルは濁した言い方をしながら誤魔化す。そう、流石に一線を超えてもらっては八条家としてとても困る。それはやはり……まだ高校生の二人なので。万が一の責任を取りようがない年齢だからだ。


 「で、でも他にもできることあるんじゃないすか! ぎゅーって毎日したりとか」


 なのでそれから話をそらすべく、ヒカルは代案をいう。


 「それは前からしてたわ」


 「……確かに。そ、それじゃあ教室でイチャイチャするとか!」


 「それもしてるわ」


 「……」


 よく考えてみれば、ノアからの一方的なアプローチだったものの、二人の様子はカップルそのものだったわけで。そのため今からノアができる目新しいことは……あまりない。


 「……まあ純が何かしらしてくれるんじゃないすか」


 なので純次第になる。まあ……ノアの好意を知って、自分の好意に正直になれた今の純なら前よりも恥ずかしがらずにあれこれできるとヒカルは思うが……でもあいつヘタレだしなあ、あんま変わらんのではとも思わなくはない。


 「そうかしら! なら早速純に会いに行きたいわ!」


 「え、今からスカ? あの……まだ六時ですから純も起きてないんじゃ……」


 「純は起きてるわよ! 私の勘がそう言ってるの!」


 「へ、へえ……(どういう勘だよ)」


 とはいえ主人の決断には逆らえないのが従者の定めであるわけで。ヒカルはすぐにノアの身支度を手伝い、車の鍵を取りに行く。ほんとは運転はあのジジイことセバスにやらせたかったのだが……。


 【私はこれからハワイでバカンスをしに行く】


 と抜かして長期休暇を取っているため、ノアのわがままの対応はほとんどヒカルが務めることになってしまった。


 (敗者にクチナシか……)


 なんてことを思いながら、まあでも二人が幸せな姿を見るのはまんざら嫌でもないので、チャチャっと準備を済ませた。にしても本当に純が起きているとは思えないが……なにせ健全な高校生が6時に起きることなど、ありえないのだから。


 「さて準備できましたよお嬢様……って、その袋は何すか?」


 「純の家にお泊まりする準備よ。今日は学校がお休みだから、お泊まりしたっていいじゃない」


 「いやでも……それは色々問題が……」


 まさか泊まる気でいたとは、さすがノアお嬢様とヒカルは思う。同棲がダメならお泊まりならいいだろうと考えたってことだよな……だけどなあ、お屋敷は監視がつけられるからなんとかなるけど、純の家はそうはいかないし……。


 「ならヒカルも一緒にお泊まりすればいいじゃない」


 「へ」


 ノアはさらっとそんなことを言った。いや、確かにそうすれば余計な心配とかなくなるかもしれないけど……恋人になったばかりの初々しい二人のイチャイチャを見せつけられながら一緒の空間にいるって……。


 (……いやメンタル死ぬわ)


 彼氏ができたことないヒカルにとって、それは拷問みたいなものだ。


 「ダメです。許しません」


 「ぶーヒカルのケチ。でも嫌よ、今日は純の家でお泊まりするって決めたの」


 「くっ……」


 だがここまで決意してしまったノアを心変わりさせる手段なんてあるはずものなく……。


 「……わかりましたよ。んじゃあーしも寝間着とか用意してきますわ」


 結局ヒカルは行く羽目になった。……ま、まあクビになるよりはマシか……二人のイチャイチャを見るぐらい。


   ――――――――――――

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