お嬢様は脱出したい


 「お嬢様、何をしてるんすか?」


 「え、あ、ヒ、ヒカル!?」


 都会から離れた、海の見える場所に立っている大きな別荘で、ノアは窓から脱出しようと試みていたところ、ヒカルに見つかって連れ戻されていた。


 「えっと……その……さ、山菜を取りに行こうと思ったのよ! ここの山菜取っても美味しいでしょ?」


 「いやここ海の近くですから、山菜取れないっすよ。お嬢様、幾ら何でも嘘が下手くそすぎません?」


 「う……」


 ノアは焦りのあまり全く場違いな嘘をついてしまい、ヒカルに呆れられてしまう。しかし、ノアはそれほどまでに焦っているのが現状だ。なぜなら……。


 「で、でも純と会えないんだから仕方ないじゃない! は、早く会わせてほしいわ!」


 そう、純と会えないから。これまで学校がある期間はずっと二人一緒にいたというのに、今は会うことすら叶わない。しかもノアはさらにどうしても言いたいことがあって……。


 「早く純にあって私も「純のことが世界で一番大好き!」って言いたいのよ! あの時純が同じことを言ってくれたから……もう決心がついたの!」


 それはやはり告白だった。ディ●ニーは結局助けてもらった時に純が気絶してしまい、そしてノアは安全確保のためこの別荘にしばらくいることになってしまったため未だ出来ていない。


 最悪ラインという手段もあるが、それはノアとしても嫌だった。直接会ってこの思いを伝えたいから。それをしたいからこそ無謀にも脱出しようとしていたのだ。


 「うーん、お気持ちはわかりますけどねー。旦那様がまだ六条家を警戒しているので難しいんですよ。それに……学校も転校を考えているとかで」


 「き、聞いてないわそんなこと! て、転校なんてしないわよ!」


 「とはいえ旦那様も一人娘のノアお嬢様が心配なんですよ。そこはお気持ち汲み取ってあげてくださいな」


 「そ、それは……」


 ノアもわかっている。父親が自分のことを心配してくれているからこそこういう手段をとっているんだと。それはわかるし理解をしてあげたいが……でも。


 「……で、でも嫌だわ。純と離れ離れになるなんて、絶対に嫌!」


 これだけは、どうしても譲れない。せっかく一緒にいられるというのに、それを邪魔されるだなんて、ノアとしてはたまったものじゃないのだ。


 「まあそういうと思いましたよ。でもこればっかりはあーしもできることあんましないんでねー」


 「……じゃあ見逃してくれる?」


 「無理です。ここから東京まで結構距離あるんで。しかも今、夜だから余計危ないし。絶対行かせません」


 「ぶー」


 「可愛く怒ったって無駄っすよ」


 とヒカルはノアのことを引き止めているものの、本心としては会わせてあげたい気持ちもなくはない。おそらくこのまま会わせずにいると毎日今日みたいに脱出しようとするだろうし。とはいえ行かせればクビになるのは間違い無いのでこれまた難しい。


 「ま、そんなに行きたいなら旦那様と奥様に直接いうしか無いっすね。明日はこちらに来られるようですよ、お二人とも」


 「そ、そうなの?」


 「ええ。一家団欒でもしたいとお考えなんでしょう。ま、その時に言うかどうか、お嬢様次第ですけどね」


 「……」


 前に純と同じ学校に行きたい、といった時は色んな世界を知ることは大事だということで受け入れてくれた。だけど今回は自分の身の危険が晒される危険もあるわけで……認めてくれるかはわからない。


 特に父親は自分のことをとても心配してくれているようだから……やっぱり、反対されるかもとノアは考える。でも……それでもノアはどうしても譲れない。純と一緒にいることを。


 「……ねえヒカル。もし私が両親と縁を切っても、一緒にいてくれる?」


 ふと、ノアはそんな質問をヒカルに投げかける。


 「縁を切る気なんすか? うーん、なるだけそうはして欲しく無いですね、給料めちゃくちゃ減るんで」


 「……え、それって」


 「ま、一緒にはいてあげますよ。ノアお嬢様は私の妹みたいなものですからね」


 「ひ、ヒカル……!」


 「あ、ちょ、抱きつかないで! く、苦しい!」


 少し照れならがそういうヒカルにノアは感激して、つい抱きついてしまった。ああ、やっぱり自分は周りに恵まれているな、そう思いながら。


 「全くもう……。でもまあ、縁を切るのは最終手段で。きっとお二人とも、話せばわかるんじゃ無いすか?」


 「……そうかもね。なるだけ、私の思いをぶつけるしかないものね! 頑張るわ私、純と結婚するために!」


 「恋人が先じゃないんですか!?」


 「私たちが恋人になったら結婚するに決まってるじゃない」


 「は、はあ……」


 ほんと、自分の主人はどこまでも思い人のことが好きなんだなと、ヒカルは呆れた顔が出てしまうも、少しだけクスリと笑う。ああ、賭け金今から変えられねえかな、なんてくだらないことを思いながら。


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