一難去ってまた一難


 六条家がお嬢様を誘拐した事件から数日後。計画の主導者である柚様はしばらく八条家のお屋敷で確保していたが、六条家が多額のお金を渡したとかで釈放された。まあ、流石に今争いを悪化させるわけにはいかないし、今回の計画は柚様の独断らしいから、大ごとには至らなかったんだろう。


 ただ、そうは言っても見逃せない問題がいくつかあるわけで……。


 「……しにてー」


 「……ね、ねえ野原くん。最近それが口癖になってるよ。な、なんとか治さない?」


 「……しにてー」


 「……ダメだこりゃ」


 その問題は、俺が「しにてー」としか言えなくなるぐらい辛いものだ。


 まず一つ目に、しばらくお嬢様が学校に来られなくなったこと。六条家の誘拐が失敗してしまったとは言え、またいつされるかわからないと旦那様が思ったらしく、しばらく八条家の別荘にいさせているらしい。だから俺はあの日殴り合いで倒れた以降お嬢様と会ってない。


 そして二つ目に、俺があの時勢いで「俺が世界で一番好きなのはノアですから」と言ってしまったこと。これはまぎれもない本心だし、いつかお嬢様に言えたら……とは思っていたものの、いざこうして振り返ってみるとめちゃくちゃ恥ずかしい。なんなんあれ、カッコつけすぎでは俺!? しかもお嬢様の反応は柚様に邪魔されて見れなかったし……ドン引きとかしてないよね!?


 とまあ、この二人が主な原因となって、今俺は部室で「しにてー」を連呼しているわけだ。はあ……辛い。


 「やっぱ大好きなんだねー八条さんのこと」


 「え!? い、いや……そ、その……」


 「いやバレバレだから。それに学校中でもう二人は付き合ってることになってるよ」


 「え、そうなの?」


 「そりゃああれだけイチャイチャしてたし。心当たりあるでしょ?」


 「う……」


 俺は学校に友達なんてほとんどいないから、そういう情報全然入ってこないけど……何かとカップルって言われるからやっぱそう思われていたんだな。……でも、俺だってそうなりたいけどさ……やっぱお嬢様と俺は住む世界が違うから……。


 「でもさ、なんで本当に付き合わないの?」


 「なんでって……いや、俺とノアは住む世界が違うっていうか……」


 「ああ、そう言えば八条さんって凄い家柄の人なんだっけ」


 「うん、日本有数の名家だよ。だから俺みたいなやつとは釣り合わない……だろうし」


 「そうかな? 身分差の恋、私大好きなんだけど」


 「え?」


 確かに、何かと身分差の恋を描いた漫画や小説はたくさんある。でもそういう物語では大体駆け落ちとかしているイメージとかが俺の中ではあるし、やっぱ現実に持ち込むにはどうかと思う。


 「いや、でもやっぱ現実ではないでしょ。駆け落ちとかリスキーすぎるし」


 「いやいや、事実は小説よりも奇なりって誰かさんも言ってるわけだし。そもそも二人の仲だったらもうどんな困難でも乗り越えられるんじゃない?」


 「そ、そう……?」


 「いけるよいける! だからしにてーばっか言ってないで何かしようよ!」


 「うーん……」


 駆け落ちはともかく、言われてみれば「しにてー」ばかり言っていても何も始まらないし進まないか。それは反省しよう。


 「でもするって言ったって何を……」


 「駆け落ち?」


 「だからそれはリスキーでしょ!」


 どうやら桃原さんは俺たちによほど駆け落ちをしてほしいらしく、また進めてきた。いやでもそれは俺を育ててくれた旦那様や奥様への恩をあだで返すようなものだし……。


 「でも好きなんでしょ? 大好きなんでしょ、八条さんのこと。このままじゃ一生会えないかもよ?」


 「………………」


 一生会えない。それを言われた時、俺はどきりとしてしまった。そうだ、お嬢様がこの学校に戻ってくる保証なんてどこにもない。もしかしたら監視を強化できる元々通われていた中学の付属高校に戻られるかもしれない。


 そうなったら……俺はもう二度とお嬢様と会う機会がなくなるかも。……タダでさえ毎日会えなくなった日々で「しにてー」と連呼するようになったぐらい、落ち込んでいたのに……。


 「…………やばい」


 考えてみたら、めちゃくちゃやばい。多分俺生きていけない。


 「でしょ! だから駆け落ちしちゃいなよ!」


 「…………しちゃうか!」


 「うん、しちゃおう!」


 もはや俺は駆け落ちするという選択肢しか考えることができず、桃原さんに進められるがままに駆け落ちを計画するに至ってしまった。我ながら馬鹿丸出しだし、成功したとして生活どうすんのって感じだけど…………。


 お嬢様に会いたい。その思いが強すぎて……どうにでもなれって思っちゃうや。


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