お嬢様と一緒にテスト勉強


 テスト期間に入った。勉強が嫌いな俺にとって、テストほど億劫なものはないけど、かといっていい加減にこなすわけにはいかない。その理由は簡単。


 お嬢様にかっこいいところを見せたいからに決まってるだろ!


 「あら純、頑張って勉強してるのね。偉い偉い」


 部室で勉強している俺を見て、お嬢様がそんなことを言ってくれる。その言葉だけで何十時間勉強しても疲れない気がするよ。


 「うん。……ま、まあいい成績を取るに越したことはないかなって」


 ただ、もちろんお嬢様に本音を言うわけにはいかない。それっぽいことを言ってごまかしておいた。


 「純ならきっといい成績を取れるわ。あ、そうだ。なら一緒に勉強しましょう! その方がきっとお互いのためにもなるわ!」


 「え!?」


 今までお嬢様と一緒に勉強したことがないため、俺はつい驚いてしまう。正直嬉しい。お嬢様と一緒に勉強できるだなんて執事時代には考えられないことだ。


 だけどお嬢様は名門中学で常にトップを取り続けてきた才女。そんな方と俺が勉強すれば邪魔になるだけなんじゃないか? そう思ってしまって中々複雑というか……。


 「じゃあ私、ここに座るわね」


 「……はい?」


 そんなことを俺が悩んでいると、お嬢様はなぜか椅子に座っている俺の上に座ろうとしてきた。いやいやいや、そこは席じゃないですよと突っ込みを入れたかったんだけど……。


 「さすが純! 純のお膝とてもいいわ!」


 「あ、あわわ……」


 突っ込みを入れる前に座られてしまった。最近お嬢様に何かと抱きしめられることが多かったから、密着されることは慣れ……てはないけど、以前よりは耐性がついている。


 でも今回は違う。俺がお嬢様を抱っこするような体制になっているわけで……ああ、なんて恐れ多いんだこれ! 


 でもたまらない!


 「それじゃあ勉強を始めようかしら。純、今はどの科目を勉強していたの?」


 「い、今は……す、数学を」


 「じゃあ一緒に問題を解いていきましょうか。じゃあ私はここまでやるから、純はこっちを解いて」


 「わ、わかった」


 とまあ、流されるままに俺はお嬢様を抱っこしながら問題を解く羽目になったんだけど……まあ、集中できるわけないよな。全く数式が頭に入ってこないのでこのままではボロクソになってしまう。


 「ふんふん……」


 一方お嬢様はふんふん言いながらものすごい勢いで問題を解いている。さすがとしか言いようがないよこれ。……ほんと、俺なんかと比べ物にならないぐらい。きっとこの調子だとお嬢様が先に解き終わって、俺がボロボロの回答を出すまで待つ羽目になるんだろう。


 ……いや、そんなのだめだ。俺はお嬢様にふさわしい人になりたいから。お嬢様が膝に座ってるからってなんだよ、そんなの言い訳でしかないだろ! ここで男見せないといつ見せるんだって話だ!


 「解き終わったわ。純はどう?」


 「ば、バッチリ」


 そして俺はなんとかお嬢様が解き終わるのと同時ぐらいに終わって、なんとか間に合った。あとは問題があっているかなんだけど……。


 「それじゃあ答え合わせしましょうか。じゃあまずは純、私の方の採点をしてくれる?」


 「わ、わかった」


 俺はお嬢様の回答の丸付けを始めた。ああ、さすがだなあ……バツが一向につく気配がない。こりゃ俺が教えることなんて当然ないだろう。


 「全問正解だったよ。さすがノア」


 「ふふっ。じゃあ次は純のを採点するわね」


 そして今度はお嬢様が俺の丸付けをし始めた。果たして結果はどうなんだ……いや、抱っこしている状態だからすぐにわかるんだけどさ。あ、今のところ問題なさそう。お、おお……!


 「すごいわ純! 全問正解よ!」


 なんと、奇跡的に俺は全問正解することができた。よかった……お嬢様に少しはかっこいいところ見せられて。お嬢様も俺の顔側を向いて頭をなでなでしてくれる。嬉しい。


 「さすが純ね。でも……これじゃあお互いに教え合う必要もないわね」


 「確かになあ。じゃあお互い苦手分野を聞いていこっか」


 「それがいいわ。じゃあまずは私から」


 「え、ノアが?」


 お嬢様に苦手分野なんてあるんだなあ。てっきり全部の科目問題ないのかと思ってたけど。でもその科目を俺が教えられるのかなあ……。


 「ええ。これなんだけど」


 「……あ」


 お嬢様がカバンから取り出したものは……保健体育の教科書。俺は唖然としてしまって身動きが取れなくなってしまった。


 「これ、よくわからないのよね。中学の時はこの授業なかったから」


 そりゃ家全体でお嬢様にそういった知識をつけさせないようにしてたからな……。で、でもこんなエロ漫画みたいなこと俺ができるわけがない!


 「お、俺も無理だなあ。ぜ、全然わからないなあ」


 なのでしらを切る。男が保健体育苦手とかありえないけど、仕方がないことだ。


 「あらそうなの。じゃあ一緒に勉強しましょうか」


 「え、それは……」


 ああ、やばいってこの展開! この体制で保健体育の勉強とかもう……。


 「ごめん遅れちゃった……え?」


 桃原さんが部室に遅れてきた頃には、俺はお嬢様を抱っこしながら気絶していたらしい。ちなみに、保健体育の範囲は薬についてだったので……俺は無駄に気絶をしていただけのようだ。


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