お嬢様は尾行調査をするそうです


 「ヒカル、あそこに純がいるのね?」


 「はい、そうっすね。あ、これは尾行調査なんで純に見つからないようにしてくださいよ」


 「わかってるわ。決定的証拠を掴んで純を取り返すまで待てってことよね」


 「まあそう言うことでいいっす。んじゃ尾行しましょ。あーしについてきてください」


 今日は休日。昼時で街には活気があふれているわけだが……その中でノアとヒカルは人々に気づかれないようコソコソと行動していた。理由は単純である。


 なんと今日も純は桃原さんと一緒に行動していたのだから。


 「しっかし二人で何をしてるんだか……。あ、カフェに入った」

 

 「ええ!? わ、私……純と一緒にカフェ行ったことないのに……」


 「落ち着いてくださいお嬢様。カフェぐらいじゃ大したことじゃありません」


 ノアは二人がカフェに入る様子を見ると、ショックで倒れそうになる。それをヒカルがキャッチして、ノアをなだめる。


 「で、でも! だ、男女が一緒に建物に入ったらそれは浮気になるって聞くし……」


 「いやそもそも付き合ってないのに浮気もクソもないですから」


 「う、うう……」


 「まあ様子を見ましょうよ。まだ慌てるような展開じゃないっすから」


 と言うわけで、二人はこっそりとカフェに入り、バレないよう遠巻きから二人の様子を見ていた。しかし、盗聴器を仕掛けることができなかったため、会話は聞こえてこず何を喋っているのかわからない。


 「な、なんだか楽しそうに喋ってるわ。や、やっぱりあの二人……」


 「いやわざわざカフェに来て暗く会話する人なんてそうそういないですから。まだ問題ないっすよ」


 そんなこんなで数時間。二人はカフェから出てどこかに向かいだした。


 「数時間も一緒にカフェにいてなお一緒にどこかにいく……。ね、ねえヒカル。じゅ、純は本当にあの女に惚れたりしてないのよね?」


 「……多分」


 流石に数時間も一緒にいて、なおかつまだどこかに向かっている純と桃原さんを見て、ヒカルも下手に大丈夫と言えなくなってきた。若干汗すらかいている。


 「た、多分……じゃ、じゃあやっぱり純は……」


 「いーや多分じゃないです絶対ないですよ! お嬢様しか勝たんですから!」


 だがノアにこの場で泣かれてしまってはかなりめんどくさいことになるのはわかりきったことなので、なんとかなだめながら尾行を続けていく。すると次はおしゃれな書店に入っていった。


 「本屋ねえ……。ま、ここなら間違いとか起こるはずもないだろうし……ん? あ、やべ」


 こっそりと書店での二人の様子を見ていると、どうも純が桃原さんに照れている様子が見られる。それにいち早く気づいたヒカルはその光景をノアに見せまいとするも……。


 「じゅ、純……」


 間に合わずにその光景をノアは見てしまった。それがショックだったようで、あわわわと震えながら虚ろな目になってしまう。


 「もっと……もっと早く私が告白していれば……」


 そして虚ろな目になりながらボソボソとそんな泣き言を言いだす始末。もちろんヒカルはその言葉がもろにグサグサと刺さって、滝のような勢いで汗が流れ出しているものの、それでもなんとか弁明をしていく。


 「ままままだ大丈夫ですから! そ、そうだ! こ、この場でお嬢様があの二人の元に行けばいいんじゃないすか? ええきっとそれがいい!」


 「……そ、そうね」


 もはや弁明というよりはやけくその提案だった。だが後がないと思っているノアはその提案に乗ってしまい……。


 「……こ、こんにちは、二人とも」


 ノアは二人の元に行って、話しかけてしまった。


 「の、ノア!? ど、どうしてここに……」


 「た、たまたま二人のこと見かけちゃって。な、なんだか随分と楽しそうだなあって……」


 平然を取り繕うも、今にも泣き出しそうな震えた声でノアは喋る。すると桃原さんはそれを見てクスッと笑い……。


 「大丈夫だよ八条さん。八条さんが思ってるような間柄じゃないから私たち」


 「……ふぇ?」


 「ここからは野原くんから聞いてね」


 桃原さんはノアが思っていることを察したのだろう。優しい笑顔でノアにそう言って離れた場所に移動して、純にバトンタッチする。


 「い、いや……その……。この前、部活で桃原さんと話し込んじゃったから。その時ノアも一緒に話せるよう共通の話題になる本がないかなあって……探してたんだ」


 「……!」


 「俺は女性向けの小説に疎いからさ……。だから桃原さんと一緒に探してもらってたんだよ。それで、これなら絶対喜んでもらえるってさっき言ってもらって……ノアに渡すのが楽しみだったんだ」


 純は選んだ本をノアに見せる。その小説はとても面白そうだったが、それよりもノアは純が自分のために何かしてくれたことが何よりも嬉しくて……。


 「純!」


 「う、うわあ!?」


 思いっきりぎゅっと抱きしめる。やっぱり自分は純のことが大好きだと実感して、その思いを我慢することができなくなったからだ。もちろんそれをされて純はまた気絶しそうになるがなんとか耐えて……本を買った。


 「喜んでもらえてよかったね野原くん。それじゃあ後は二人っきりで楽しんできなよ!」


 「……いや、桃原さんも遊びましょう! 私、貴女と仲良くなりたいわ!」


 桃原さんは二人が本を買った後、気を利かせて二人っきりで楽しんできてと提案したが、ノアは桃原さんとも遊びたいと言う。


 「ノア……。うん、それがいいよ。同じ文芸部の仲間なんだから。親睦を深めよう」


 「……二人がそう言うなら、断れないね! じゃあ楽しもっか、三人で!」


 と、結果的にことが上手くいって、三人の仲も深まったのだった。


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