お嬢様と一緒に寝ることに


 「……こ、ここは」


 目を覚ますと、そこはベットの上だったんだけど……ただ、この場所には凄く見覚えがある。俺が執事だった頃、毎晩子守唄を歌っていた……。


 「純! 目を覚ましたのね!」


 お嬢様の部屋だった。……え、もしかして俺、お嬢様と一緒に寝てたってこと? それはかなりやばいんじゃないか……また気絶してしまうよ俺。いや待て、時計を見たらまだ11時だった。


 「よかったわ……。このまま朝まで純が起きなかったら、凄く心配だったもの」


 お嬢様は本当に俺のことを心配してくれていたのだろう。俺の手をぎゅっと握ってくれていて、なおかつ声も少し震えていたから。でも俺が目を覚ましたことで安心したのか、声は徐々に明るくなっている。


 「……ごめん。心配かけて」


 俺は心のそこからお嬢様に謝る。だってここまで心配をかけてしまうは俺の失態だし。……ま、まあ不可抗力だったかもしれないけど。


 「純が謝ることないわ! 私がつい純と一緒にお風呂に入れてはしゃぎすぎちゃったし。だけどもう安心して! ここで私と一緒に寝れば万事解決よ!」


 「え、いや、その」


 お嬢様は名案を思いついたかのように言うが、それは一睡もできないだろうからむしろ何も解決しないまである。もちろん、俺はお嬢様と一緒に寝たくないわけがないけど。ただ……やっぱ刺激が強い。それに……


 「で、でもこの状況佐野さんとか止めたんじゃない?」


 そう、いくらなんでもこの状況を佐野さんはじめ他の従者たちが止めないわけがない。だって年頃の男女を同じ寝室にいさせるわけにはいかないだろ? ……まあすでに一緒に浴場入っちゃったんだけど。


 「問題ないわ。セバスがそうするべきって言ってたもの」


 「執事長が?」


 うーん。なんでそうなったのかはよくわからないけど、執事長にも何か考えがあってそう言ったのかもしれない。……まあ、ここのベットはとても広いからお嬢様に近づきすぎないようにすればいいか。


 「だから純、こっちに来て」


 「!?」


 と思っていたんだけど。お嬢様は寝転びながら両手を広げて、俺との距離を縮めようとしてくる。ここで抵抗すればいいだけの話なんだけどさ。お嬢様の愛らしいそのお姿はまさにブラックホールさながらの吸引力を持っていて……。


 「よしよし、純」


 情けないことに、今俺はお嬢様に頭をなでなでされながら、抱きつかれている。浴場であった出来事のすぐ後だってのに、なんて馬鹿なんだ俺は。でもとても心地がいい。やばい、はまってしまいそう。


 「こうして近くにいると、毎日純に子守唄を歌ってもらっていたことを思い出すわ」


 まだ俺が八条家にお仕えしていた頃、俺は毎日お嬢様のために子守唄を歌っていた。別にめちゃくちゃ歌が上手いわけではないし、なんなら下手まであるんだけど。それでも毎日お嬢様が俺の子守唄で心地よく眠ってくれてたのが、嬉しかったなあ。


 「きょ、今日は子守唄ないの?」


 「純がいなくなってからは歌ってもらってないわ。だって私は純の子守唄が聞きたいんだもの」


 「え」


 あ、あんな下手くそな子守唄を……他にもっとうまく歌える人はたくさんいるだろうに。いや、それがむしろちょうどいいものになっていたのかもしれないけど。でも不思議だなあ……。


 「じゃ、じゃあ今日は俺が子守唄を歌ったほうがいい?」


 「それもいいけど……今日、私は純にいっぱい迷惑をかけちゃったから。だから今日は私が子守唄を歌うわ」


 そういうとお嬢様はとっても優しく頭を撫でながら、持ち前の美声で心地よい子守唄を歌ってくれた。それはまさに天使の息吹のような歌声で、ずっと聞いていたいと思わせられるものだった。


 「……すう」


 だけど、同時にすぐ安らかな心地になることができたから。俺はあっという間に寝てしまった。だから、この後のことは知らないんだけど……。


 「……寝ちゃった。ほんと、寝顔も素敵だわ純。………………おやすみ。大好きよ」


 不思議と、今まで感じたことのない感触が唇に来た気がした。けど……それがなんなのか、その時の俺には知る由のないことだ。


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