恋愛相談


 「……は! ここは……」


 「おお、目を覚ましたか純」


 ふと目を覚ますと、俺は懐かしい風景……かつて俺が使っていたお屋敷の部屋にあるベットで横になっていた。そして様子を見ていてくれていたのか、佐野さんが椅子に座りながらリンゴを剥いている。


 「お、俺は一体……」


 「オメーお嬢様おぶりながら気絶してたんだよ。それをたまたま迎えに行ったあーしが見つけたわけ。ちなお嬢様は自室で寝てる。ま、もう夜だし今日はお屋敷に泊まっていきな」


 「あ、ありがとうございます。で、でもお、おぶりながら気絶……? さ、佐野さん……流石にそれは無理が……あ」


 「証拠動画」


 「……ええ、俺何してんの」


 てっきり佐野さんが話を盛ったのかと思ったが、スマホで撮影された動画を見せられて信じるしかなくなった。なんで俺こうなったんだっけ? うーんと…………っあ!


 「……う、うわああああ!」


 そ、そうだ……あの時俺、お嬢様が俺のことを好きって寝言を聞いて気絶したんだ! や、やばい……正気を保ってられない! じ、自我が崩壊する!


 「ど、どした純? とりまリンゴ食え」


 突然叫び出した俺に佐野さんはリンゴを食わせて落ち着かせようとする。……お、美味しいなこのリンゴ。もぐもぐ。


 「落ち着いたか。んでどしたん? お嬢様との映画鑑賞でやらかしたか?」


 「い、いや映画は別に。……プリキュア見ましたけど」


 「いいじゃんプリキュア。お嬢様大好きだし。(まーうちがロマンティックな雰囲気にならないよう工作したんだけど)」


 「は、はいそれはいいんです。で、でも帰り道……」


 「帰り道?(ドローンで見てる限りは立ちながら気絶するなんてことにならなそうだったけど)」


 「じ、実は……寝言ではあったんですけど……お嬢様に……「純大好き」って言われて」


 「は!?」


 佐野さんは危うく持ったリンゴを落としそうになるぐらい驚いていた。そりゃそうだ。あのお嬢様が俺に好きだなんて言ったなんて聞いたら誰だって驚くに決まってる。


 「へ、へえ……。(寝言で言ったのか……通りで状況が掴めなかったわけだ。……やべえ)」


 「そ、それで俺気絶したんですけど……こ、これから俺、どうしたらいいのか……」


 「うーん……。(やべえ賭けに負ける。わざわざぬいぐるみ着てジジイの目論見邪魔した意味がなくなっちまう……でもここまで来て思っきし邪魔したらそれはそれでクズすぎだし……あー、どうしよ)」


 佐野さんも一緒に考えてくれているのか、真剣な表情で悩んでいる。本当に、これからどうすればいいんだ? お嬢様が俺に好意を……なんて、夢心地すぎて信じられない。


 「……純はどう思ってんの?」


 「どう思ってるって……」


 「まあ仮にもお嬢様が純のこと好きだとしてさ。今、純はその愛を受け止められんの?」


 「……」


 佐野さんに聞かれて、俺はそれを考える。……思えば、俺とお嬢様は本来一緒に過ごすことができないぐらい、存在価値が違う。お嬢様は名家の跡取りで、これからの八条家を背負っていく存在。


 かたや俺はなんだ? 親に捨てられた孤児だ。旦那様が助けてくださらなかったら、一生お嬢様と会うこともなかった、運だけがいい男だ。そんな俺がお嬢様と付き合うなんて……やっぱり、恐れ多い。


 「……やっぱり俺には無理です。俺みたいな身分も低くてダメな人よりも、もっとお嬢様にはふさわしい人がいますから」


 「へえ。私からしてみれば純は割としっかりしてると思うけど」


 「そりゃあクズメイドの佐野さんと比べたら」


 「てめえぶっ飛ばすぞ」


 「じょ、冗談ですよ」


 半分は。でも実際佐野さんの家庭は代々八条家に仕えてきた一族らしいから……やっぱり俺とは違う。


 「ま、あーしもその自覚はなくはない(主人で賭けをしてるし)」


 「え、あるんですね。意外」


 「殴られたいのか?」


 「す、すいません」


 「うちは優しいから許してやる。だけどま、そんな情けないうちらのことを受け入れてくれる旦那様、奥様、そしてお嬢様はもっと優しいんだろうな」


 「……間違い無いです」


 佐野さんの言う通りだ。八条家の皆さんはいつも優しくて、今でも俺のことを気にかけてくれている。俺にはもったいないぐらい、いい人たちだから。


 「だろ? そんな自慢できるうちらの主人達が、身分とかちっちゃいことにこだわるかねえ〜。てか、それをしてると思うことがすでに主人……まあ、純にとっては元だけど、侮辱になるんじゃね?」


 「……」


 その通りかもしれない。佐野さんの言う通り、そう思うことが侮辱になる。それは俺が大好きなお嬢様に、失礼極まりないことを思っているのと同じだ。……だったら、もしかしたら俺が思い描く理想も……そう遠い話じゃないのかもしれない。


 「ま、そもそもほんとにお嬢様がお前のこと好きかは知らんけど。likeの可能性も大いにあるし(これさえ言っときゃ大丈夫だろ)」


 「う……」


 そ、そうだよなあ……。まずそこなんだよなあ。お嬢様が目を覚まして俺に好きと言ったわけじゃない。夢の内容もわからないし。はあ……難しいなあ。


 「てなわけでこれ以上考えてもしゃーないってわけ。さっさと風呂入って寝ちまいな。ジジイ達はもうとっくに風呂入ったから今日は純の貸切だ。ほいこれタオル」


 「あ、ありがとうございます。……なんだかんだ、佐野さんも優しいですよね」


 「お、サンクス。んじゃあーしがクビになった時養ってくれや」


 「それは嫌ですね」


 金をとことん貪り尽くされそうだから本当に嫌だな。


 「馬鹿正直な男はモテねーぞ!」


 「す、すみません!」


 佐野さんに殴られる前に、俺は受け取ったタオルを持ってお屋敷にある浴場に向かう。久しぶりに入るから少し楽しみだ。なにせこのお屋敷の浴場は、高級旅館にも引けを取らないぐらい立派だもの。


 一方……。


 「……何つーか、ほんとピュアな恋愛してんなー二人とも」


 純が浴場に行った後、ヒカルはほけーとアホ面をしながら部屋の天井を見つめ、そう呟く。


 「フツーお互いの思いに気付くだろうになあ……ま、うちとしては賭けに勝てるからいいけどさ。……かー、うちもあんな恋愛してみてー」


 なんてぼやきをしながらヒカルは残ったリンゴを食べていると、何やら廊下からドスドスと誰かが走ってくる音が聞こえる。


 「ジジイか? でも流石にこんな走れない……っ!?」


 ぼーっと走る音を聞いていると、突然ヒカルのいる部屋のドアが開けられる。


 「あらヒカル。純はお風呂に入ったかしら?」


 「あ、起きたんすねお嬢様。今浴場行きましたよ……って、お嬢様もお風呂行くんすか?」


 「ええ。純と一緒にお風呂入るの」


 「へー。純とお嬢様が一緒にお風呂入るんですか。それはそれは………………あ?」


  ――――――――――――

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