お嬢様と一緒にお風呂
「……ふう」
久しぶりにお屋敷のお風呂に浸かって、俺は一息ついている。なんたってとても広い浴場だし、それを今は貸切状態で使えているんだ。これで体の疲れが取れないわけがない。
「……にしても、まだお屋敷をでてそんな日が経ってないのに懐かしく感じるなあ」
三月の末に執事を退職してからまだ一ヶ月も経っていない。だけどこんなに浴場を懐かしく思うのは……やっぱり最近の、特にお嬢様との日々が濃いからだろう。……俺が一方的にそう思っているからかもしれないけど。
「……懐かしいと言えば、昔はこの浴場でお嬢様と一緒に……って何を考えているんだ俺は!」
ふと小さい頃の記憶、まだ純粋無垢で汚れを知らないことにお嬢様と一緒にこの浴場でお風呂に入っていた頃を思い出す。思えばあの時俺は生意気なクソガキだったからこの浴場でお嬢様を誘って泳いでたなあ……。
あれぐらいの度胸、今でこそ欲しい。
「……さて、そろそろサウナでも入るか……ん?」
備え付けられているサウナに入ろうかなって思った時、何やら更衣室から音が聞こえてきた。はて? 掃除でもしに来たのかな? でも基本掃除は昼にしてるだろうし…………え?
「こ、こんな馬鹿丸出しなことはやめてくださいよお嬢様! 小学校低学年までですこれが許されるのは!」
「いいじゃないヒカル! 私は純と一緒にお風呂に入りたいの!」
「良くないから止めてるんですわ! の、のわ! な、なんでこんな時だけやけに馬鹿力を発揮してんすか!?」
「八条家跡取りを舐めないことね」
「こんなことで八条家の威厳を使わないでください!」
……え。何このやりとり。明らかに聞き覚えのある二人の女性の声が聞こえてくるんですけど。ここ、男湯ですよ。混浴とかやってないですよ。
……え、出た方がいいのかな? で、でも今更衣室に行ったらそれこそお嬢様の……あ、ああああああああ!
「せ、せめてタオルは巻いて……! た、頼んますお嬢様!」
「仕方ないわね……。はい、これでいい?」
「はみ出てるはみ出てる! ちったあご自身についてるでかいの気にして下さいよ!」
「でも見せた方が男の人喜ぶんでしょ? なら純も一緒なんじゃないかしら?」
「あいつ死にますからそれ見たら!」
……どういう会話よ。こ、これサウナに入って身を隠した方が身のためなんじゃないか……? で、でも体が動かない。金縛りにでもあったかのように、お風呂から出ることができない。う、動けよ俺の体!
「ぶーわがままねヒカルは。あ、わかったわ。ヒカルも一緒に純とお風呂に入りたいのね!」
「なんでそうな……ちょ、ぬ、脱がさないで!」
「それそれ〜」
え、佐野さんも入ってくんの? 何このカオスな状況。一刻も早くサウナに避難しないとこのままじゃやば……あ。
「お待たせ純!」
「……」
俺がぐずぐずとしている間に、お嬢様たちは浴場に入ってきてしまった。幸いにもどちらもタオルは巻いているものの……直視できるもんじゃない。
お嬢様は高校生離れした抜群のスタイルで……タオルを巻いていることがむしろ逆にプラスになっているんじゃないかって思うほどに、え……お美しい。
佐野さんは……すらっとしてて綺麗な体だ。でもお嬢様と比べるとだいぶ見劣りするものがどうしてもある。ただ、それでも俺には刺激が強い。
「おい純今私の胸とお嬢様の胸比べたよな? ああ?」
「ナナナナニヲイッテイルンデスカサノサン」
バレてる! ああ、これ後でボコボコにされるんだろうなあ……。でも、今はそれよりもこの場を乗り切れるかどうかなんだが……。
「ねえ純! せっかく貸切なんだし子供の時みたいに一緒に泳ぎましょう!」
無理そう。
「そ、それは無理というかなんというか……」
「あら、それは残念。じゃあ隣に行くわね」
「え、いや、それ……はっ」
また俺があたふたしている間に、お嬢様は俺の隣に来て、しかも体を俺にくっつけてお風呂に入っている。もう、何も考えられない。
「いいお湯ね純」
「ウ、ウン」
ニコリと笑みをこちらに向けてそういうお嬢様に、俺はガチガチに固まった返答しかできない。いや仕方がないだろうがよ! もうただでさえ茹でタコになりそうなぐらい……体がめちゃくちゃ熱いんだ!
「今日、純が眠ってた私のことおぶって送ってくれたんでしょう? さすがね純、かっこいいわ」
「ソ、ソレホドデハ」
「今日は私と一緒にじっくりお風呂に浸かって疲れをとってね」
「ウ、ウン」
「……あーお嬢様、純このままだとのぼせますよ」
もう限界が近づいていた時に、向かい側にいた佐野さんが助け舟を
出してくれた。あ、ありがとうございます! たまにはいいことしてくれますね!
「あらそれは大変。でもまだ私、純と一緒にお風呂に入ってたいのに……」
「なら一旦交互で背中を流してあげればいいですよ」
やっぱゴミだこの先輩! なんてことを言い出すんだこの畜生メイドは! しかも薄ら笑いを浮かべて言ってるから絶対確信犯じゃないか!
「それはいいわねヒカル! 純、それじゃあ行きましょう!」
「え、ちょ、ま、まだ心の準備があ!」
勢いに押されるがまま、俺はお嬢様に手を引かれて一緒に背中を流すことになってしまった。
果たして俺は……生き残れるのだろうか。
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