お嬢様と一緒に下校


 「ねえ純、今日こそ一緒に帰りましょう」


 「……え」


 放課後、部室でテキトーにダラダラと本を読み終わり、さて帰ろうかと言った時間にお嬢様が至近距離でそう言ってきた。思えば確かに一緒に帰ったりはしてないな。……俺が失神したりしたから。


 「で、でもお……ノアは迎えが来るんじゃないの?」


 「来ないよう言ってあるわ。だって純と一緒に帰りたいんだもの。ほら、行きましょう」


 「!?」


 お嬢様はウキウキでそういうと、俺の手を握って歩き出す。しかも今回は俺の腕を掴む、いわゆる恋人つなぎの形。


 「こ、これは……目立つしやめない?」


 「? いいじゃない。私たちの仲だもの、これぐらい大したことじゃないわ」


 「え」


 ゲームセンターでも同じようなことを言われかけた気がするか、その仲がお嬢様の中で何を指しているのかわからない。


 「そ、その仲って……なに?」


 だから俺は勇気を振り絞って聞いてみる。きっと返答は友達と返ってくるとは思う。けど……もしかしたら、があるかもしれないから。


 「それはね……こ……っ……と、と……」


 「オーオーいい雰囲気出してんじゃねーかーバカップルども」


 お嬢様が返答しようとしているのを遮って、聞き覚えのある嫌な声が聞こえる。そう、前にはこの前お嬢様に厄介な絡みをしてきた先輩方だ。しかも今回は前より人数が増えてる気がする。


 でもそんなことより。


 「ババババカップルって……お、俺たちはそんな関係じゃ……」


 「ババババカップルって……ま、まだ私たちはそんな関係じゃ……」


 俺たち二人とも、バカップルと言われたことに動揺してしまう。だ、だって俺たちそういう関係じゃないし……。し、しかもなんか今回もお嬢様がまだって言ってるように聞こえたし……都合よく聞こえるな俺の耳!


 「クッソやろうが……」

 「俺たちまだ諦めてねーんだよ」

 「絶対八条さんをマネにするんだよ」

 「あわよくば恋人にするんだ!」


 有象無象がワンワンと叶いもしない欲望をこちらに吐き出してくる。この人たち恥ずかしくないのかな?


 「そもそもそんな冴えねークソ野郎より俺たちの方がいいぞ!」


 さりげなく冴えないくそ野郎って言われた。……まあ、それは否定できない。だから俺はお嬢様に釣り合う人間だと自分で認められないんだから。煌びやかなお嬢様とは、本当は一緒にいれない人間だもの。


 「……ふざけないで」


 「……の、ノア?」


 だが、お嬢様はその言葉が引っかかったらしい。お嬢様は声を震わせ、表情を見ると軽蔑の視線を先輩方に向けている。こんなお嬢様……見たことがない。


 「純はクソなんかじゃないわ。世界で一番かっこいい、私の大切な人よ」


 「!?」


 や、やべえ……とんでもないお褒めの言葉をもらってしまった。心の中で発狂してしまうぐらい、心が揺らいでいる。


 「く、くそがよお!!!」

 

 だが、それを聞かされた向こうはたまったもんじゃないだろう。やけになったのか、お嬢様に殴りかかろうとしてきた。


 だけどお嬢様に傷なんて一つもつけさすわけにはいかない。だって俺にとっても、お嬢様は……。


 「やめろ」


 「!?」


 俺はお嬢様と一旦手を離して、殴りかかろうとした先輩の拳を片手で受け止める。そして、その後軽く蹴りを入れた後、つい勢いでこう言ってしまった。


 「世界で一番お美しい俺のお嬢様に、傷なんてつけさせないからな」


 言った後になんてことを言ってしまったんだと我に帰るものの、時すでに遅し。お嬢様がこの時どんな顔をしていたのかはわからないけど……引かれてなければいいな。


 「く、クッソ!」

 「やっぱこいつには敵わねえ!」

 「もうしないから許して!」


 ちなみに先輩達はこの前のことを思い出したのか、潔く逃げていった。ほんと、もう来ないでくれ頼むから。


 「……はあ」


 俺は一つため息をついて、お嬢様の方を振り返る。……あれ、なんかお嬢様固まってる?


 「だ、大丈夫?」


 「……はっ! だ、大丈夫よ。……かっこよかったわ純。あの時ノアと言ってくれればなお良かったけれど」


 「いやそれは……」


 余裕のある笑みを浮かべながら、お嬢様はそんなことを言ってきた。いやそれは恐れ多いし自然と出た言葉だから……。


 「でも純にああ言われて凄く気分がいいの。今日はこのまま純の家に行きたいわ」


 「そ、それはダメ!」


 お嬢様を歓迎するような家ではないし、俺の家でお嬢様と二人っきりだなんて……耐えられる訳が無い。


 「残念だわ。それじゃあ今日は私の家まで送っていってくれる?」


 「……それなら」


 またあの先輩達が来ないとも限らない。俺がお嬢様をお守りするためにも家まで送っていくのは必要なことだろう。


 「やった!」


 そう決まるとお嬢様はまた俺の腕を恋人つなぎにして、世界で一番可愛い笑顔を俺に向けてくれた。ああ、やっぱりお嬢様は素敵だ。願わくば……いつか、本当に恋人になれたら、なんて思ってしまう。


 「ねえ純」


 「? ど、どうしたの?」


 「あのね……ううん、呼んでみただけ」


 お嬢様は何かを言おうとするも、結局言うことはなかった。俺もお嬢様にとって俺との仲は一体なんなのか、と改めて聞こうと思ったけど……まあいいや。


 お嬢様にとって大切な人。その言葉を聞けただけで俺はもう……充分すぎるぐらい、幸せだもの。


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