お嬢様と授業中に
「はい、それでは英語の授業を始めるぞ」
高校生たるもの、学校の授業はどうしても受けなくてはいけない。俺はそんなに勉強が好きではないからこの時間は結構苦痛なんだけど……かと言って、隣の席に座っているお嬢様に醜態は見せられない。
だから頑張って俺は寝ないように授業を受けている。成績だってそうだ。お嬢様は中学の頃、名門校で常に一位を取り続けてきた才女。
少しでもそれに近づきたい。そうすればちょっとはお嬢様の側にいて恥じない存在になれると思うから。……ま、まあ最近はお嬢様の威厳を感じられないと言えなくもないけどさ。
と、とにかく! というわけで今日もしっかり勉強を……って
「お……ノ、ノア!?」
一体全体どういうことだろうか。いきなりお嬢様がご自身の席を俺の席にくっつけてきたのだ。しかも心なしか体の距離も近い気がする。
「ごめんなさい純。今日は英語の教科書を忘れてしまったの。だから見せてもらってもいいかしら?」
「あ、あー……な、なるほど」
そ、それなら仕方がないか。お嬢様だって教科書を忘れてしまうことはある。だから隣の席に座っている俺が教科書を見せるのは当たり前。
「わ、わかった。こ、ここに置いておけばいいかな?」
「ええ。とても助かるわ。本当に頼りになるわね純は」
「そ、そんなことは……」
お嬢様が近い距離でニコニコしながら俺を褒めてくれる。以前の俺ならこの時点で失神していたかもしれないが、最近こういうことが多いので耐性がついてきた。心臓はバクバク鳴ってるけど。
とまあ、そんな想定外のことはあったものの、授業は進んでいく。ただ……やはりお嬢様が至近距離にいるため、全く集中できない。しかも
「ねえ純。純の手ってとても綺麗なのね。少し見惚れてしまったわ」
「え、そ、あ」
「それに顔も素敵だわ。純の瞳、どうしてそんなに愛らしいの?」
「え、あ、そ」
「ほっぺたもだわ。思わず触ってみたくなるぐらい素敵。触ってもいいかしら?」
「そ、あ、え」
「えい。あら、とっても柔らかくて気持ちがいいわ。さすが純、素敵よ」
お嬢様は俺の方ばっかり見てきて、尚且つ俺のありとあらゆるところを他の生徒に聞こえないよう、耳元で褒めてくださる。しかも俺のほっぺたを人差し指でぷにってしてくださったし。なんのご褒美ですかこれ? また失神しそうなんですけど。
俺はそれに全くまともに反応することができず、「えっと」「あっ」「その」すらろくに言えない。
「こらそこ! 何をしてるんだ! 八条、この問題を解きなさい」
当然そんなことをしていれば、前にいる先生に見つかってしまう。しかしお嬢様はそれに一切動じることなく前に出て、さらさらっと答えを書いてしまう。
そりゃお嬢様、昔から国外の方と交流しているからこれぐらい簡単だろう。ありとあらゆる英語の試験だって優秀な成績を残しているし。
「これでいいでしょうか、先生」
「え……あ、ああ問題ない。下がっていいぞ」
席に戻るお姿もお美しい……。はっ! 何を見惚れているんだ俺は!
「さ、さすがだね」
「ええ。でもあれって中学生の時にやる内容じゃないかしら?」
「まあ……俺たちの通っていた中学は進みが早かったから」
「あら、そうなの。まあいいわ。ちょっと邪魔が入ってしまったけど、今度は純が私のほっぺたを触っていいわよ」
「……は、はい?」
えっとー……うん? お嬢様は真顔で何も違和感なく言ってるけど俺の脳内は違和感満載なんだよな。だって俺が神聖なお嬢様のお顔を触っていいわけないじゃん。きっと聞き間違いだ、う……
「ほら、触って」
「!?」
お嬢様は俺の手をとり、ご自身のほっぺたに俺の手を触れさせる。……ふぁあ! こ、これがお嬢様のほっぺた……こ、言葉にできないぐらいとても心地が良くて……ああ、気が遠くなりそう。
「どうかしら、私のほっぺたは?」
「え、あ、そ」
まともな状況ではないのでまた「えっと」「あっ」「その」がろくに言えずに反応がしどろもどろになる。ほんとは言いたい、お嬢様のほっぺた最高でした! って。……いや、それ言えば確実に引かれるな。言えなくてよかった。
「こらまたそこ! 今度は野原、この問題を解け!」
てなことをしてたらまた先生に目をつけられてしまった。しかも今度は俺か。……ここで間違えたら恥ずかしいだろうな、お嬢様にも合わせる顔がない。
「大丈夫よ純。純ならできるわ」
そんな不安を感じ取ったのか。お嬢様は耳元で俺を鼓舞してくれた。……そう言われたら、正解しないわけにはいかない。
「……ありがとう」
なので俺はお嬢様の耳元でそうお礼を言って、黒板に向かう。
「これでいいですか?」
「……正解だ」
無事に正解することができたので、ことなきを得た。よかった、これでお嬢様にも合わせる顔が……あれ?
「っ!! (純に耳元でありがとうって言われちゃった……きゃー!!!)」
席に戻ると、お嬢様が顔を机につけていた。あれ? もしかして体調が悪いのかな?
「だ、大丈夫?」
「……え、ええ。あら、純も無事に正解したのね。よかったわ。それじゃあもう一回ほっぺたを……」
よかった。顔を上げると健康そうなお嬢様だ。そしてお嬢様がまたほっぺたを触らそうとした時、ちょうどチャイムが鳴ってしまった。よかったのか悪かったのか……まあいいや。
「あら、鳴っちゃったわね。それじゃあ休み時間お互いのほっぺたを触り合いましょうか」
「それはダメ!」
絶対また失神しちゃうから!
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